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欲求の器
返信は、
思っていたより、
早かった。
薔薇、本当に好きなんですね。
あまり花には詳しくないですが、
菜月さんとなら、行ってみたいですね😊
最後の、
小さな笑顔。
それだけで、
胸がほどける。
嬉しい。
画面を何度も、
読み返す。
行ってみたい。
その言葉に、
指が止まる。
“行きたい”じゃなくて。
“行ってみたい”。
それは、
行かない未来も、
含んでいる気がして。
胸の奥が、
少しだけ、
ひりついた。
優しい。
本当に、
優しい人。
その優しさに、
どれだけ救われただろう。
満たされていたはずだった。
彼の言葉で、
静かに満ちていた、
心の器。
でも。
いつの間にか、
その内側は、
熱を帯びていた。
温もりを受け取るたびに、
蒸れて、
揺れて、
形を変えていく。
満ちているのに、
足りない。
優しい言葉は、
ときに凶器になる。
曖昧なままでは、
苦しい。
踏み込まなければ、
何も変わらない。
会いたい。
その反応次第で、
決めよう。
指先が、
震える。
入力する。
ーーー大和さん、
一緒に行きませんか?
送信。
取り消しは、
しない。
画面を見つめたまま、
息を止める。
満たされていたはずの器は、
もう、
元の形ではいられなかった。
欲しかったのは、
言葉だけじゃない。
同じ景色。
同じ時間。
同じ空気。
それを求めていると、
ようやく、
認めた朝だった。
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