負けた理性
昼休み。
弁当を広げ、
何気なくスマートフォンを開く。
通知。
――菜月さん。
開く。
大和さん、
一緒に行きませんか?
呼吸が、
一瞬止まる。
来るかもしれない。
どこかで、
期待していた。
でも、
本当に来るとは思っていなかった。
行けない。
まず、
そう思う。
距離がある。
家庭がある。
嘘が必要になる。
冷静に、
一つずつ並べる。
正しい。
全部、
正しい。
画面を閉じる。
弁当を一口食べる。
味がしない。
三分後。
また、
開く。
一緒に行きませんか?
断ろう。
そう決める。
すみません。
打つ。
消す。
難しいです。
打つ。
消す。
家庭があるので。
そこまで打って、
止まる。
それは、
彼女も同じだ。
言い訳としては、
あまりに薄い。
断る理由は、
山ほどある。
同時に、
それを越えるための嘘も、
頭の中で、
組み立て始めている。
行く理由は、
一つしかない。
菜月さんに、
会いたい。
それだけ。
それだけなのに、
重さが違う。
胸の奥が、
静かに、
傾いていく。
これは、
越えてはいけない線だ。
これは、
浮気だ。
ちゃんと、
分かっている。
分かっているのに。
指が、
画面に戻る。
……是非、行きましょう。
短い。
逃げ道は、
残さない。
送信。
すぐには、
既読はつかない。
それでも。
理性は、
確かに、
そこにあった。
ただ、
負けただけだ。
気づけば、
もう、
足はついていなかった。






