芽依の病室に向かうと丁度外の鉄パイプで出来た頑丈そうなベンチに芽依の母が座っていた。
「あ、菜草さん。娘は今、眠っていると思います…。リハビリに疲れてる様子です。」
「あ、神宮さん。お久しぶりです。でしたら、今日はドライフラワーを届けに来ただけですのでこれで、失礼します。」
千鶴がその場から立ち去ろうとすると芽依の母は待ってと、千鶴を引き止めた。
「娘は多分ですけど、菜草さんが帰られたら寂しく感じると思います。御手数ですが、起きるまであの子のそばに居てくれませんか?」
と、頼み込んだ。千鶴は優しい人だ。当然、断る理由なんてないのだ。
「もちろんです!では、失礼致します。」
「娘を頼みましたよ。私はもう少しで仕事に戻らねばなりません。」
「分かりました。お任せ下さい。何かありましたら、芽依さんの方から連絡させて頂きます。」
「分かりました、では私はこの辺で…」
そう千鶴に伝え、芽依の母はその場から立ち去った。千鶴は扉を横にスライドすると芽依が丁度良く、起きていた。
「あ、千鶴!来てくれたんだ」
前に会った時よりも格段に体調が良くなっている様子。やせ細った眼帯少女からは卒業していた。薬の服用、痛い検査、家族が居ない孤独、毎日毎日しんどい筈なのに一度も笑顔を絶やさなかったことが分かる。やはり、芽依は本当に優しくて純粋だ。芽依と話していると千鶴の友達としての感覚が戻っていく。
「架那は今日も居ないんだね。」
「うん…補習受けてるからね」
「もう、強がらずに私に教えてー!って言えばいいのに」
「まぁ、架那にはプライドってものがあるんよ。きっと笑」
「もー、千鶴は架那に甘々だなぁもっとキツく言ってもいいんよ?」
「…ごめん!それは出来ないんだよね」
やっと築けたこの真新しい関係を崩したくはなかった。
芽依は呆れたようにベッドに倒れ込んだ。芽依の時に見せる素の状態は清楚とはかけ離れている。だが、それはまた別の話だ。
「……ねむ。」
芽依が千鶴に疲労を訴えた。
「…寝れば?」
「寝れんよ、大好きな千鶴が来てくれたのよ?」
「……うん」
芽依は千鶴の手を握って
「千鶴と架那の弓道生活、聴かせてよ。」
と、お願いした。千鶴は
「あ、その前にドライフラワー買ってきたからここに飾っていい?」
と、聞く。芽依はこくりと頷き、窓の方向を指した。
「んで?最近どー?」
緊張の糸が解けた芽依は素の状態をさらけ出す。
続く。.:*・゜
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