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第9話:父からの条件
「条件がある」
蒼真のその一言で空気が張り詰めた。
藍音は思わず湊の手を握り直す。
「……何?」
蒼真はゆっくり二人を見た。
社長の顔だった。
父ではない。
完全に――経営者。
「湊」
「はい」
「お前は優秀だ」
「ありがとうございます」
「だがそれは“執事として”だ」
沈黙。
「男として娘を任せられるかは別だ」
藍音の胸が痛くなる。
でも。
湊は迷わなかった。
「承知しております」
蒼真は続ける。
「3ヶ月やる」
「……3ヶ月?」
「その間」
低い声。
「会社で結果を出せ」
藍音が驚く。
「え?」
「ただの執事ではなく」
蒼真の目が鋭くなる。
「経営者として通用するか見てやる」
空気が変わる。
試験だ。
人生をかけた。
湊は深く頭を下げた。
「お受けします」
藍音は慌てた。
「ちょっと待って!」
二人を見る。
「そんなの無理だよ!」
蒼真は即答。
「無理なら終わりだ」
ドクン。
心臓が落ちる。
「藍音」
父は優しく言う。
「お前を守る男は」
低い声。
「この程度で潰れるようじゃ困る」
沈黙。
そして。
湊が言った。
「ご安心ください」
藍音を見る。
優しい目。
「必ず認めていただきます」
その言葉で。
藍音の目に涙が浮かぶ。
(なんでそんなに…)
(私のために…)
その夜。
庭。
二人きり。
風が静かに吹いている。
「……ごめん」
藍音が言った。
「私のせいで」
湊は首を横に振る。
「違います」
「でも」
「むしろ」
少し笑う。
「嬉しいです」
「え?」
「やっと」
低い声。
「堂々と貴女を好きでいられる」
ドクン。
心臓が跳ねる。
「今までは執事でしたから」
一歩近づく。
「ですがこれからは」
囁く。
「一人の男として戦えます」
涙がこぼれる。
「……バカ」
藍音は服を掴む。
「負けたら許さない」
「はい」
「絶対」
「はい」
「絶対成功して」
湊は優しく抱きしめた。
「命令ですね」
「うん」
「承知しました」
その瞬間。
藍音は確信した。
(この人なら大丈夫)
恋はもう。
覚悟に変わっていた。