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 「好きです」

 

 何度目かの告白。

 彼女の背後には数名の女の子が陰に隠れて此方を覗いて伺っている。

 彼女に目をやると、頭を下げているが微かに見える目元は赤く染まっており、涙が溜まっているようだ。プルプルと肩が震えている。緊張、いや怯えているのだろうか。よく分からない。

 そんな彼女を見下ろすさとみはピタリと動かず、言葉を発することもなく、考えた。

 何でだろう、と。さとみはわからないのだ。なぜ振られるとわかっていながらも告白をするのかが。これまでにさとみは何度も告白というものをされている。だがその度に振っているのだ。それもこっぴどく。それを知っていながらも、こうして告白をしてくる行動がいまいち理解できなかった。

 現に目の前にいる子は振られることを分かっていながらこうしてさとみに告白をしているのだ。怯えているくらいなら告白なんてしなければいいのに。そしてさとみは言う。

 

 「…面倒くさいな。なんでわざわざ振られに来るのかが分からない。怯えるくらいなら最初からしなければいいんだよ。ただの時間の無駄とは思わないのか?理解できないね。そもそも話したこともないよね。どうせ君も周りと同じで、顔が理由なんじゃない。よくそんな理由で告白ができるもんだな、すごいよ」

 

 笑顔のまま告げるさとみの瞳は、深い海の底の様に暗く冷え切っていた。

 女の子は堪えきれず、涙を流した。そんな姿にさとみは眉頭を寄せる。何で泣くんだ、分かっていたことだろうに。

 女の子は顔を上げて、無理やりに笑った。

 

 「…っごめんなさい、でもどうしても気持ちを伝えたかったの…ごめんなさい…」

 

 そう言って、逃げる様に去って行った。去り際に見えた表情は今までの子達がしていたものだった。

 後悔。当て嵌めるなら、そういった感情だろう。

 ちらりと隣に咲く桜を見る。何となく手を伸ばして、おろした。

 人を好きになる気持ちは、ずっと前から知っている。だが、何故振られると分かっていながらも告白をするのかがどうしても分からずにいた。それはお前が告白をしたことがないからだと言われてしまえば、そうなのかもしれない。でもさとみは、告白しようとは思わなかった。その所為で関係が壊れてしまったらどうする。嫌われたらどうする。そんなことにでもなったらさとみは生きてはいけない。現にさっき振った子とも、もう二度と話すことはないだろう。

 そんな事になるくらいだったら、そんな気持ちは伝えずこれまでの様に、或いは恋人とは言わずになんらかの「特別」を勝ち取ったりして、たとえ隣に居られなくてもその子の人生の斜め後ろに居続けたい。そう思うのだ。

 

 「———すっごい振りよう」

 

 「……なんだよ」

 

 ザリ、と砂利の擦れる音を立てながら、現れた二つ下の弟、ころん。パーカーのポケットに手を突っ込んだまま飴を咥えている。

 「もっと言い方あるんじゃない?」なんてさとみの隣に行き、壁に寄りかかった。

 その様子を見守るさとみの顔に先程までの笑顔はすっかりと消えていた。

 

 「…例えば?」

 

 「ぅえ…?んー…「告白してくれてありがとう。すごく嬉しいと思ってる。でもずっと好きな人がいるんだ。君の気持ちには応えられない。ごめんね」って感じ?」

 

 少しだけ考えた素振りをした後、胸に手を添えて謎にいい声をしたころんは片眉をあげ、精一杯のドヤ顔をする。

  

 「俺は素直に生きていきたいんだ」

 

 「お前とは違って」、と皮肉混じりに言うところんは頬を膨らませて「僕は怒ったぞ!」と言う。正直微塵も怖いとも申し訳ないとも感じず、ただただそれをはいはい、と受け流した。

 

 「叶わないと分かっていながも行動してしまう程、愚かなことはないだろ」

 

 そう言って桜を見つめるさとみをころんはじっと見つめて、目を細めた。

 ころんは知っているだ。叶わない恋がどれ程人を苦しめてしまうのかを。この目で見てきたからこそ、体験しているからこそ、彼を否定はできない。自分よりも苦しんでいる人に何を言おうと、何も響きはしないのだ。

 

 「……分かってないなぁお兄ちゃんは」

 

 どこか悲しげに、空を見上げるころんをさとみは一瞥して俯いた。

 

 「分かってないのは、お前もだろ」

 

 小さく呟いた言葉は、ころんには届くことは無く辺りに溶けて消えて行く。

 

 「もうあんな振り方しちゃダメだよ。尻拭いするのは僕なんだから」

 

 くるりと体を回し、歩き始めるころんは咥えていた飴を手に、にししと笑う。よく笑っていられるものだとさとみは感心して笑みを零した。

 

 

 

 「——お前、また振ったんだって?」

 

 教室に戻ると既にその話題で持ちきりだった様で、席に着いた瞬間に前に仲良くしている奴が前のめりに聞いてくる。さとみはため息を吐きながら「あぁ」と面倒臭そうに肯定した。

 

 「ブスとか言ったらしいじゃん」

 

 「そんな事言ってないよ」

 

 一体誰がそんな事を言ったのか。さとみは覆い被さる様にその言葉を否定する。馬鹿かお前は、と心の中で言いながら笑顔を貼り付けて頬杖をつく。あっははと声をあげて笑う奴を無視して、窓の外を眺めた。

 

 「冗談だよ、冗談」

 

 なんだその冗談は。面白くねぇぞ。と軽く睨みをきかせた。

 

 「さとみ、放課後の予定は?俺らカラオケ行くんだけどお前も行かね。大人数の方が楽しいし」

 

 「…あー、今日はやめておくよ」

 

 窓の外を眺めながら、誘いを断ると男はキョトンとした表情で首を傾げた。


 「なんかあんの?カラオケ嫌いだっけ」

 

 「……別にそういう訳じゃないけど、家の手伝いがあるんだ」

 

 一度伸びをした後、ゆっくりと男を見てうっそりと微笑むさとみに男は少し考えた後「あー」と声を漏らす。

 

 「なるほど…了解。んじゃあ他の奴誘うわ」

 

 「うん、ごめんな」

 

 その言葉と同時に、昼休み終わりのチャイムが鳴り、男は自身の席に戻って行った。

 

 「…………」

 

 …馬鹿馬鹿しい。

 さとみはあげた口角をそのままに、そう心の中で呟いた。

 どうせ俺を出しにしてお前がモテようってだけだろう。吐き気がする。モテたいのならば誰の手も使わずに自力で頑張って欲しいものだ、とさとみは頬杖をついた。

 

 (まぁ…、お前じゃ難しいだろうけど)

 

 さとみは目を閉じて、笑みを零した。

 

 

 ——————

 

 

 『——…さとみ!』

 

 ふわりと、真っ赤な髪が風に揺られる。小鳥が歌うような、まるみのある柔らかな声が俺の名を呼んで顔を綻ばせる。大好きな人——。

 

 『にぃちゃ、』

 

 今より何倍も小さい手を伸ばすと嬉しそうにその手を取って曇りなく笑った。

 広く澄み渡った青空に、彼はよく似合っていた。キラキラと、まるで太陽のように輝いて見えた。

 その笑顔に、釣られて俺ですら、笑顔になれた。

 ぎゅう、と目一杯抱きしめられて、温もりを感じる。

 大好きな、香り——。


 

 

 




~ next ~

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