《思い出のかき氷》 作:YORI
A:男性(A)
B:女性(B)
A:(ナレーション※以下N)
今日はこの街の夏祭り、そして今夜は(B)との初めてのデートの日。(B)はこの日をとても楽しみにしてくれていて、プランまでしっかり決めてくれていた。だと言うのに……
A:「やっべぇ!寝過ごした!……ハァ、ハァ…ギリ……間に合うかな?……」
B:「あっ!やっと来た!(A)、遅いよ!」
A:「ゴメンって!でもギリセーフだろ?」
B:「何言ってんの?そんなことじゃダメよ?時間は有限。大事なんだからね?」
A:(N)時間は有限。久々に再開した時からの、(B)の口癖でもある。その言葉を噛み締めながら、平謝りする僕を『不思議そうに』見ている周りの人達を気にもせず、彼女と歩く。
B:「ギリギリに来たってことは、何も食べてないでしょ?私はたこ焼きにしよっかな〜?(A)は違うのにしてね?半分こしよ?……ってことで、買ってきて!」
A:「はいはい(笑)じゃあ僕は適当に選んで来るよ。それじゃ、ちょっとまってて。」
B:「はーい!でも、迷いすぎて遅くならないでね?(笑)」
A:(N)相変わらずの自由奔放さでありながら、ちょっと僕を気遣ってくれるところに、高校から離れていた間の時間を感じる。だからこそ『今』のこの時間が大切なんだけど……
A:「お待たせ!そこの公園で座って食べよ」
B:「うん!行こ行こ!」
※公園にて
B:「ねぇねぇ、たこ焼き食べる?……『あーん』してあげよっか?(A)、こういうのされたことないでしょ?(笑)」
A:「大丈夫だって!自分で食えるし…」
B:「え〜?今日はなんでも言うこと聞いてくれるって約束じゃん!ほらほら、早く!」
A:「わ、わかったよ……」
B:「よーし、いい子だねw はい、あーん♡」
A:「熱ッ!(モゴモゴしながら)いきなり全部放り込むなよ〜!」
B:「あははっ🤣今の顔、めっちゃ面白かった(笑)」
A:(M)(B)は終始こんな感じで、全力で僕とのデートを楽しんでくれていた。そして……
B:「あーぁ、ほんと時間経つの早いなぁ…でも、ラストの花火、楽しみだね!早く河原に行こ?」
A:(N)そう言って河川敷に向かい歩き出したのも束の間、支流の小さな川にかかる橋を越えようとした時………
B「あれ?嘘でしょ?」
A「(B)、どした?」
B「もう最悪……私ここまでしか行けないみたい…」
A「マジかよ……どうしても無理っぽい?」
B「あーぁ…こんな身体じゃなかったらなぁ…せっかくここまで最高のデートだったのに…花火見ながら2人でかき氷…叶えたかったのになぁ…」
A「ふざけんな!こんなことで終わらせるわけに行かないだろ!花火ならそこの土手からでも見えるから!ちょっと待ってて!」
そう言って僕は走り出した。(B)とのデートが、こんな終わり方でいいわけない。かき氷の屋台を探して、僕は全力で走った。
A(息を切らしながら)「おま……たせ……何とか……間に合ったよ……」
B「ありがとう……こんな『次』のないデートに、ここまで一生懸命になってくれるなんて……最期に(A)に逢いに来たこと…やっぱり間違いじゃなかったね………」
A「とにかく食おうぜ…いちご…で良かったよな?」
B「うん……あ〜、何時ぶりだろ?懐かしいなぁ、この「嘘っぽい」味……」
A「おいおい…必死に走って買ってきたのに、その言い方はどうなのよ?」
B「違う……褒めてるんだよ?……この、嘘っぽくて、ありきたりで……だからこそ『絶対に忘れない』この味…(A)も食べてみなよ。ほら…」
A「ん……あ、ホントだ。なんか嘘っぽくて……美味い……」
B「綺麗な花火と合わさって、なんか夢みたいだよね?…………(A)、ほんとにありがとう……消える前に、(A)に逢えて……よかった。」
A「え?もう……終わりなのかよ?花火もまだ終わってないのに……」
B「うん、名残惜しすぎるけど…この夢のような気分のまま、行きたいの。ごめんね?」
A「………そっか。わかった…なんかこういう言い方も変だけど……元気で…な?」
B「ふふっ……うん、(A)も元気でね?……あ、なんか、消える瞬間見られるの少し寂しいから、少しだけ…目、閉じててくれる?」
A「わかったよ……これで、いいかな?……………あっ……」
A(N)そうやって、僕の唇に柔らかな感触と、地面に落ちた食べかけのかき氷を残して、(B)は空に還って行った。
2週間前に事故で亡くなった(B)が、どうして僕の前に現れたのかは今でも分からない。
だけど、(B)のくれた「時間は有限」という言葉と大切な思い出に恥じないよう。精一杯生きていくと決めた。そんな夏の一日だった……
fin