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――くっ、間に合って……!
『お姉さま~……あんまり魔力を使うと~……』
焦る心にノドカがセーブを掛けてくれた。
それで少し落ち着きはしたものの、今は魔力を使い続ける。
こうして私が急いでいるのは、私たちが山脈の攻略に乗り出している間に他の魔泉で連続してスタンピードが起こってしまったからだ。
街には軍や冒険者による守備隊がいるとはいえ、十分な戦力とはいえないだろう。
機動力に優れる飛竜でも開戦までには間に合わない。
だから、みんなの制止を振り切って私とノドカだけで先行したのだ。
『それは~わかっているけど~……』
私は現在、ノドカとのハーモニクス状態だった。
私の姿もノドカと同じ若葉色の髪とフリフリのドレス姿へと変わっている。この状態の最も大きな特徴としては背中に魔力で出来た4枚の翼が生えていることだろうか。
これのおかげで自由に空を飛び回ることができる。
本当ならまず感動を覚えるのだろうけど、今の私にはそんな気持ちの余裕はなかった。
風を自分の周りに纏わせて、高速飛行を可能にしているがやはり魔力の消費が激しい。
でも、間に合わないよりかはマシだ。
また私とノドカという非戦闘力組が先行したところでどうなるのだという問題だが、どうやら私とノドカのハーモニクス状態だと攻撃魔法も問題なく使えることが分かった。
とはいえ普段から使用しているヒバナとシズクの攻撃魔法と比べると技量は落ちてしまうのだが。
本当はヒバナとシズクも巻き込んで“カルテット・ハーモニクス”の状態へと持っていきたかったが、ノドカとヒバナ、シズクの力を上手く調和させることができなかったのだ。
ヒバナとシズクのどちらか1人とノドカでも駄目だったので、現状はノドカとのデュオ・ハーモニクスかヒバナ、シズクとのトリオ・ハーモニクスの選択肢となる。
ノドカとのハーモニクス状態になったことで分かったのだが、ノドカ1人だけとヒバナとシズクの2人とハーモニクス状態になっている時の基本的な魔力消費はあまり変わらない。
多分、ヒバナとシズクの力の性質がそっくりなのが影響しているのだろう。あの2人の力同士は簡単に繋がってくれるということだ。
狼煙を目掛けて飛んでいくと、次第に1つの街が見えてくる。
「見えた! 防衛隊とはまだぶつかっていないみたい!」
『よかった~。でも~どうするの~?』
「街に向かっている魔物を一掃するよ。それで時間は稼げるはず」
大元をどうにかするのは私たちだけでは無理だ。
だからせめて、一度スタンピードを退けられればそれでいい。
「テネラディーヴァ、お願い」
大きなハープを取り出し構え――ようとして腕の中にあるものの感覚がおかしいことに気付く。
具体的には、ふわっと柔らかくてずっと抱いていたくなるような……って。
「どうしてユルマルが!?」
『うぅ~……間違えた~』
ノドカの思考に引っ張られたのだろうか。
私はテネラディーヴァを出していたと思っていたのに、実際に手に持っていたのはユルマルのぬいぐるみだった。
――もう、今は私も真剣なんだから。
『ごめんなさい~』
ユルマルを片付けて、改めて霊器“テネラディーヴァ”を取り出す。狙うのはここから見える全ての魔物だ。
……いや、狙う必要はないか。今からやるのは範囲攻撃だ。これが乱戦状態なら私だってちゃんと考慮したけどね。
あと、眷属スキルも使おうか。
歌姫でない私が《カンタービレ》のスキルを使うのは何とも不思議なものだけど今、私とノドカは1つなのだから私も歌姫みたいなものだ。
『お姉さまの歌~楽しみ~』
ノドカが暢気すぎる。でも期待してくれているというのは悪い気持ちじゃない。
狙うのは、彼女のように周囲の魔素を集めてくる力を持つ歌だ。
それを意識しつつ、全身全霊で歌い上げてみせよう。
『……えぇ~……これは~……』
歌と同時にテネラディーヴァを弾き鳴らし、地上に蔓延る魔物たちの一部を巻き込むように魔法を放った。
風塵を巻き散らしながら、暴風の刃が全てを切り刻む。
それを魔物が集まる区画ごとに大まかに撃ち込んでいく。
そして巻き上がっていた砂埃が晴れて視界が確保できるようになった時、立っていた者はほぼいなかった。
スタンピードの性質上、弱い魔物が大半を占めていたこととあの黒い魔物たちもいなかったことに加え、奇襲のような攻撃だったとはいえこの戦果は異常だ。
『お姉さまの~歌の方が~……異常です~……』
――そうだ、歌。
スキルを使っていたのに、あまりその恩恵を感じなかったのは不思議だった。
そんな感じで少し気を緩めていた私の頬を光の矢が掠めて飛んでいった。生き残った魔物が私の存在に気付いて攻撃を仕掛けてきたらしい。
あの攻撃を耐え抜いただけあって、どれも相手をするのに骨が折れるような相手だ。なら今度は確実に仕留めていこうか。
「コルポディヴェント」
言葉の直後、抱えていたテネラディーヴァが変形を始め、巨大な弓へとその姿を変えた。
そして弦に魔力で生成した矢を番え、見様見真似の作法で引き絞る。今まで誰も引くことができなかった弓は意外にもすんなりと引くことができた。
そして戦場を疾風が駆け抜ける。
正確に飛んでいった魔力の矢は風を纏いながら1体の魔物の眉間を貫いた。
「まずは1つ!」
『お姉さま~上手~』
「ありがとう!」
パチパチ、と拍手をするノドカのイメージが脳裏に浮かびあがる。それに言葉だけで応えると、私は次の標的に狙いを定めた。
敵からの攻撃は全てノドカが防御してくれているので、私は攻撃に集中することができる。
そうして、街に迫る魔物たちを粗方片付け終わった時だった。
街のある方角から進行する防衛隊の姿が見えたので、私は風で声を拡張して彼らへとメッセージを送る。
「魔物は大方倒しました。私はもう1つのスタンピードへと向かうので、すみませんが残った魔物はよろしくお願いしますね」
時間が惜しかったので、一方通行のメッセージだけを飛ばして私たちは西へと飛んだ。
魔力は残り4割ほどだ。このまま全力で飛ばしていったとして、街に辿り着いた時に3割残っていればいいほうだろうか。
苦しい戦いだとは思うけど、全力でやるだけだった。
◇
近くのダンジョンでスタンピードが発生したとされる街まで急行した私たちが見たのは、防壁の一部が崩れ落ちた状態で煙が立ち昇っている街と逃げ惑う人々、何とか街を守ろうと奮闘する防衛軍、そして地上と空の上から襲い掛かる魔物たちだった。
街の中はまさに混乱の極みといえる酷い状況だ。
「遅かった!? ううん、まだ!」
地上の魔物たちは抑えられているが、問題は空の上だ。
街の被害は飛んでいる魔物からの攻撃によるものが主だった。
防衛隊により対空装備が配備されていたみたいだが、数で押し込まれてしまったか。あの装備も街の中に入り込まれると全くの意味を為さない。
さらに防衛軍には竜騎士もいるのだが、身体の大きな竜では一度街に入りこまれると建物が邪魔になって戦い辛いらしく、街に入り込んだ魔物にいいようにされているようだ。
私が街に向かって急降下すると、赤ん坊を抱えて逃げようとする女性へ向かって今まさにガーゴイルが火を吐こうとしている場面に出くわした。
「いやぁぁ!?」
「【ゲイル・フェザー】!」
風で出来た小さな羽根を弾丸のように飛ばし、ガーゴイルを撃ち抜く。
「逃げてください! ノドカ、索敵を!」
空から街に入り込んだ魔物たちを一掃する必要がある。見通しの効かない街の中では索敵魔法が頼りだ。
街の中を飛び回り、索敵魔法で捉えた魔物たちを仕留めていく。
「街の東か南側を目指してください!」
「君はいったい……!?」
「いいから早く!」
拡声させた声で住民たちを空から見る限り安全そうな区域に誘導していく。
飛び回りながら魔物の討伐を続けていると、強化された私の聴力が助けを求める人の声を拾った。
索敵魔法で感じる限り原因は魔物ではないようだったが、その声があまりに悲痛なものだったから私はすぐさま向かうことにした。
声の聞こえた方向に向かうと避難しようとする人々が走り回る中、炎上する建物の前に集まっている人々の姿があった。
「何かあったんですか!?」
「旦那が柱の下敷きに……っ! 出てこられないのっ!」
「クソッ……煙がひどすぎて入れねぇぞ……!」
燃えている建物の中にまだ人がいるというのか。
この人たちはどうにかその人を助け出そうとしているようだが、炎と煙が邪魔をして突入することすらままならないようだった。
「全員、どいてください!」
「誰だ、あんた!」
「私が助けますから、どいて!」
「なっ……無理だ!」
制止する人々の声を無視し、風の層を身に纏うことで熱などから身を守りつつ建物の中へと突入した。
そして床に倒れ込んでいる男性を見つけることに成功する。
彼は酷く咳き込みながらも布で口元を抑えており、なんとか意識もあるようだった。
そして先ほど、外で言っていた通りに家の柱の1つが男性の足に乗り掛かってしまっている。あれのせいで動けないのだろう。
「動かないで、【ウインド・カッター】」
彼の上に乗っていた柱を何等分かに切り、強化された腕力でそれらを退かす。
そして、風の層の中に彼を引き寄せた。
「ゲホッ……ゲホッ……きみ……ゲホッ」
「無理に話そうとしないでください」
彼を背負い、建物の中から脱出すると男性の妻が飛び付いてきた。
「彼は足を怪我しています。煙も吸っていると思うので、ちゃんと診てもらってください」
「ありがとう、なんてお礼を言ったらいいか……」
「お嬢ちゃん! あんたは英雄だ!」
男性を彼らに預けると人々は歓喜に包まれる。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
私は彼らから離れて索敵魔法で見つけた魔物が居る場所を目指して飛んでいく。
そうして街に入り込んだ魔物はほとんど倒しきることができたが、地上はまだまだ魔物の数が減っていない。
すぐさま街の中に残っていた魔物を一掃すると、私は空から防衛軍に合流する。
『お姉さま~一度休んでください~!』
「まだ大丈夫!」
テネラディーヴァを取り出し、防衛軍を巻き込まない範囲で広域攻撃魔法を連続して放っていく。
今回、眷属スキルを使わなかったからか魔物の減るスピードが遅い。
使うだけでも消耗するし、私が使うとあまり効果がないと思っていたから使わなかったけど、ちゃんと効果はあったらしい。これは失敗だったかもしれない。
それでもどうにか範囲内の魔物の8割を倒した私は飛ぶことをやめ、地上へと降下していく。
魔物たちが大きく数を減らしたことで戦場は歓声に包まれていた。私は彼らに囲まれたが、断りを入れてその輪から抜け出す。
外から様子を窺っていると兵士と冒険者たちの士気が一気に高まっており、どうやら今から攻勢に出るつもりだということを聞けた。
私に残っている魔力は1割ほどで、もうこれ以上の無理はできない。
これだけ魔力を使ったのは本当に久しぶりだ。
でもこんなにすぐなくなるのなら、もっと増やさないと駄目なんだろうな。
『少し休んで~……?』
「うん……そうさせてもらうよ……」
『どうせなら~少し~お昼寝する~?』
「あはは、それも悪くないかもね……」
本当はもっと頑張りたかったけど、これ以上は駄目だ。
危機は去ったので、みんなと合流するまで休んでいようかな。
流石にすごく疲れた。いつものノドカを真似て眠ってみようか……。
いや、そもそも【ハーモニック・アンサンブル】を解除しないと魔力を消費し続けているせいで魔力が回復しない。
「フィ――!?」
「敵の増援だ!」
「――ッ!?」
ハーモニクスの解除をしようとした私の耳に人々のざわめきが聞こえてきた。彼らの中では先ほどまでの勝利ムードが嘘かのように動揺が走っている。
慌てて私も皆が見ている場所に目を向けると同時に――絶望した。
スタンピードが終わっていない。
魔物たちはその質をさらに上げて、街へと迫って来ていた。
さっきまでの防衛軍はギリギリの戦いを繰り広げていたというのに、さらに敵が強くなればどうなるかは容易に想像がつく。
「……させない!」
『む、無理です~お姉さま~!』
「無理でもやるの! そうしないと私はっ!」
魔力の翼で空へと舞い上がる。
上から見ることでその絶望的な戦力差が明らかとなる。
「【ストーム・エッジ】!」
この状況下で歌えるほど、私の度胸は据わっていなかった。だから唯々全力の魔法を魔物たちにぶつけていく。
遠距離攻撃ができる魔物たちは私に攻撃を加えてくるが、それはノドカが全て防いでくれる。
しかしすぐ魔力に限界が来て、防御に回す余裕がなくなったことで鋭い痛みが私の身体を貫いた。
「うぐっ……!」
『これ以上は~……やめて~……!』
「はぁ、まだ……半分も……減ってないよ……」
どんどん奥から強い魔物が溢れてきているのに、まだ退くことはできない。
せめて敵の数を5割に……いや、6割は削りたい。じゃないと守り切れない。
『お姉さま~……!』
だが風の刃を広範囲にかけて放ち続け、もうそろそろ半分を越えそうといったところでついに限界が来てしまった。
高度を維持できなくなった私の身体がゆっくりと墜ちてゆく。
もう、ハーモニクス状態を維持できるだけの魔力が残っていなかったため、強制的に解除されてしまった。
「お姉さまの~……ばか~……」
目尻に涙を浮かべたノドカが私を優しく抱き留めてくれる。
私は彼女の腕の中から迫りくる魔物たちの姿を視認した。……やはり減らしきれなかったようだ。
防衛隊が魔物たちを撃退できたとしても、大きな被害は免れないだろう。
――そんな時だった。
突如として眩い光線が魔物たちの斜め上空から迫り、地表を削りながら魔物たちを薙ぎ払う。
その光は魔物の多くを呑み込んでしまった。
「はぁ……はぁ……な、なに……!?」
やがて光が治まったかと思うと、今度は雲の上から光が降り注ぎ、残った魔物たちまでも殲滅していった。
そして私は見た。雲の隙間から光の筋と共に舞い降りてくる者の姿を。
その者は太陽光に照らされた美しく輝く銀色の身体を持ち、大きく広げた翼を羽ばたかせながら、さも天使が降臨するかのようにゆったりとした動作でその姿を地上にいる者たちの目に焼き付けた。
「……龍」
私はその神秘的な姿に目を奪われていた。
あれは魔物だ。でも敵意は一切感じない。それどころか、まるで人間を助けるかの如く迫りくる魔物たちを掃討していた。
不意に龍が持つアメシストのような瞳と私の視線が交差したような気がした。だがその直後にその龍は西の方角へと飛び去っていってしまう。
――気のせい、だった……?
「何だったんでしょう~?」
「さあ……なんだったん……だろう、ね……」
「お姉さま~……?」
終わったんだと思うと気が抜けて、一気に疲労と眠気に加えて全身から痛みも襲ってくる。
やがて意識が遠くなっていき、私の意識は完全に途絶えた。
◇
目を覚ますと、柔らかいベッドの上だった。
記憶を思い返してみると、どうやら龍を見た直後に気絶するように眠ってしまったのだとすぐに理解できた。
そのまま上体を起こそうとすると、すぐに隣から手が伸びてきて私の身体はベッドへと押し戻される。
「マスター、まだ横になっていてください」
「コウカ……?」
私の身体を押さえていたのはコウカだった。
彼女がいるということは、それなりに時間が経ってしまったのだろうか。
「コウカ、ここどこ?」
「ドラグの街です。マスターとノドカがたくさんの人を救った街ですよ」
「……よかった。街は無事だったんだね……」
私がこうして眠っていられるということは、街は無事だったということだろう。とりあえず胸をなでおろす。
すると、コウカが難しい顔でジッと私の顔を見ていることに気付いた。
「コウカ、どうかしたの?」
「……いえ、マスターが無事で何よりでした」
彼女は「みんなを呼んできます」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。……いったい何だったのだろうか。
起き上がるなと言われたので、大人しくベッドの上でゴロゴロしていると私の手が枕元にある、枕とは違う大きくて柔らかい物に触れた。
手繰り寄せてきて、目の前に持ってくる。
――これ、ユルマルか。
ノドカが置いて行ってくれたのだろう。今さらだけど、彼女にはひどく心配を掛けてしまった。
何度も制止しようとしてくれたのに、結局は魔力が切れて危険な状況に陥ってしまった。
私が1人で反省していると、廊下を走る音が聞こえてくる。
そして扉が勢いよく開き、ダンゴが部屋の中に飛び込んできた。
「主様、よかったぁ!」
「おっとと。ごめんね、ダンゴ。心配かけたよね」
飛び付いてくる彼女をコウカの言いつけを破るような形で、慌てて上半身を起こして受け止める。
そして頭を撫でてあげると、もっと撫でろと言うように頭を手に押し付けて来るのでそのまま撫で続けた。
続けて部屋の中に入ってきたコウカはその光景を複雑そうな表情を浮かべながら見つめた後、肩を竦めて微笑を浮かべた。
さらに続くような形でどんどんとみんなが入室してくる。流石にダンゴのように駆け込んでくる者達はいなかったが。
「本当よ。先走って魔力切れって……私たちがどれだけ……」
「そうだよ、ユウヒちゃん。気を失っているユウヒちゃんを見たときのひーちゃんとコウカねぇを落ち着かせるの、本当に大変だったんだよ……?」
「あはは、そっか。ヒバナもコウカも心配かけてごめん」
みんなに心配を掛けてしまったのは素直に申し訳なく思うが、それと同時に心配してくれたことに喜びも感じていた。
私が謝るとヒバナはプイッと顔を背け、コウカは曖昧な笑顔を浮かべた。
すると今度はアンヤが側に寄ってきた。
「……ますたー。アンヤも……心配、してた……」
そう口にした彼女は、心なしか少しだけ目を伏せて沈んだ表情を浮かべているように見えた。
どうやって安心させてあげようかと考えて、私は空いている左手をダンゴと同じようにアンヤの頭の上に乗せる。
頭に触れた瞬間、彼女は目を見開いてビクッと身体を揺らした。
彼女の視線と私の視線が交差する。だが抵抗しないのを見ると撫でても構わないということだろうか。
そう都合よく解釈した私は、彼女の頭も撫でる。
アンヤは細めた目を伏せて、大人しくそれを受け入れていた。
――うん、少し表情が柔らかくなったかな。
「お姉さま~……無茶しすぎるのは~めっ、ですよ~。ちゃんと~反省してね~? あと~ユルマル返して~」
ノドカが強引に私の太腿の上にいたユルマルを奪い取る。
――それ、ノドカが置いてくれていたやつだと思うんだけど。
心配はしてくれていたのだろうが、いつものようにマイペースな態度は崩れない。
「あ、そうだ、ユウヒちゃん。怪我はもう大丈夫なの……?」
「あー……私、怪我してたんだっけ。痛くないからもう大丈夫だと思うよ。魔力だってほとんど回復してるから、傷が塞がってくれたんじゃないかな」
私の体質的に魔力があれば傷を塞ぐことができるし、寝ている間に無意識のうちに治していたのではないだろうか。
その後、「念のために確認しますね」と言ったコウカに体を弄られることになって恥ずかしい思いをした。
「……それで、スタンピードは収まったんだよね」
「どうにか……って感じかな。もちろん大元を何とかしないと駄目なんだけど、ユウヒちゃんたちの活躍で数日は猶予があるとは思うよ……?」
「主様とノドカ姉様、すごかったんだってね! 街の人たちもすごく心配して、この宿をただで貸してくれたんだよ! 恩人を助けたいって言ってさ!」
明日か、できれば明後日までに2つのスタンピードが起こった魔泉の異変を治めに行く必要があるだろう。
あとダンゴが語ってくれたことが真実なら、私はちゃんと人々を助けられたってことだ。そのことにホッと胸をなでおろした。
――そうだ。あれについてみんなは何か知っているかな。
「あのさ、みんな。私が魔力切れになった後、龍を見たんだよね。ワイバーンとかそういうやつじゃなくて、どっちかというと一度戦った水龍に近い感じの。銀色の綺麗な龍だったんだけど、みんなは何か聞いてる?」
「……そのことについてだけど、あなたが回復したら教団の人が話をするって言っていたわ。多分、明日には話してもらえるんじゃない?」
「教団の人が?」
軍の人ではなく、どうしてミンネ聖教団の人が龍のことを話すのだろう。
何かミンネ聖教と関係がある存在だというのだろうか。
確かに神聖的な雰囲気のある出会いだったが、ただの魔物だというわけでもないということなのか。
龍がただの魔物と言っていいか分からないのはさておき、何にせよ回復すれば話してもらえるのだ。
魔素鎮めだってやらないといけないし、今はしっかりと身体を休めることに専念しよう。