テラーノベル
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私とアレクは、アイリス領防衛の功労者として、王都を挙げて催された凱旋式に臨んでいた。
目を覚ましたばかりのフローラは、まだ長時間の外出を許されていない。
『私もお姉さまと一緒に行きます!』
と最後まで譲らなかったものの、神官たち総出で止められ、今は神殿の離れで療養している。
(……まあ、目を覚ましてくれただけでも十分よね)
王都の大通り。空から降り注ぐように、金と銀の魔法花が舞い踊っている。
高く掲げられた王室の紋章旗。その隣には、黒獅子を描いたベルシュタイン公爵家の旗と、アイリス領の紋章旗が誇らしげに風になびいていた。
「ベルシュタイン公爵様!」
「アレク様ー!」
「バイオレッタ様ーー!!」
「アイリス領を――王国を守った英雄たちだ!」
割れんばかりの歓声。万雷の拍手。沿道を埋め尽くした人々が、次々と私たちの名前を呼んでいる。
屋根のない儀礼用馬車の上から、その光景を見渡して。
ふいに、胸の奥が熱くなった。
(……この場所)
見覚えがある。本来のゲームシナリオなら。悪役令嬢バイオレッタが断罪され、民衆から罵声と石を浴びせられながら、処刑場へ引き立てられるはずだった大通り。
私を待っていたのは。断罪。破滅。そして――死。そのはずだった。それなのに。
「バイオレッタ様!」
「ありがとう!」
「アイリス領の救世主だ!」
今、私に降り注いでいるのは。石でも。罵声でもない。金銀の花びらと――歓声だった。
「……っ」
視界が、わずかに滲む。
(まずい……)
その時。革の手袋に包まれた大きな手が、そっと私の指先を包み込んだ。
「……アレク?」
隣を仰ぐ。黒を基調とした軍礼服に身を包んだアレクが、私を見下ろしていた。
「どうした? 大丈夫か?」
「……少しだけ」
私は、もう一度沿道へ視線を向ける。
「夢を見ているみたいで」
アレクは何も言わなかった。ただ。私の手を、ぎゅっと強く握る。
「……夢じゃない」
「え?」
「全部、お前が成し遂げたものだ」
「……アレク」
それだけ告げると。彼は私の手を握ったまま、もう片方の手を民衆へ向かって高く掲げた。
「アレク様ーー!!」
「ベルシュタイン公爵!」
「バイオレッタ様!」
歓声が、一層大きく弾ける。思わず、笑みがこぼれた。
(……そうよね)
私は、もう。破滅の時を待つだけの、ゲームの悪役令嬢じゃない。
私は、隣の大きな手を握り返した。そして。降り注ぐ金銀の花の中。安心して笑った。
***
その日の夜。王城の大広間では、凱旋を祝う宴が催されていた。
昨日まで王城を覆っていた重苦しい空気が嘘のように、煌びやかなシャンデリアの下には笑い声が満ちている。
「バイオレッタ殿。ベルシュタイン公爵閣下」
声をかけられ、振り返る。貴族連合を率いたジュール男爵だった。
「改めて。凱旋、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
私もグラスを軽く掲げる。
「でも、ジュール男爵たちの援軍がなければ、アイリス領を守り切れたかどうか……」
「それはお互い様ですよ」
ジュール男爵が穏やかに笑った。
「バイオレッタ殿と公爵閣下が持ちこたえてくださらなければ、我々が到着する頃には手遅れだったでしょう」
「……そう言っていただけると、少しは胸を張れそうです」
そこで、ふと思い出した。
「そういえば……エリアス神官とユリウスの件は?」
「ああ、そのことですか」
ジュール男爵の表情が、さらに柔らかくなる。
「神殿と評議会の正式な承認が下りました」
「では……」
「ええ。ユリウスは王太子位と王位継承権を失いました。今後はエリアス神官とともに、辺境の神殿で暮らすことになります。出立は数日後とのことですが」
ジュール男爵が、わずかに目を細めた。
「ずいぶん安堵した顔をしていましたよ」
「そう……。……本当に、よかった」
その時。
「バイオレッタ様」
王城の侍従が、私のもとへやってきた。
「こちらを」
「手紙……?」
差し出された封書。そこに書かれた見覚えのある筆跡を見た途端、頬が緩んだ。
「リリアンヌだわ」
急いで封を開く。
『バイオレッタ様、アレク様』
『王都での知らせ、こちらにも届きましたわ!』
『アイリス領の復興も、ベルシュタイン騎士団と領民たちの協力で、驚くほど順調に進んでおります』
『街道の復旧も始まりました。ですから今だけは、領地のことはわたくしに任せて――』
『安心して、王都で羽を休めてくださいませ!』
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
「リリアンヌらしいわね」
隣でアレクが淡々と言う。
「そうだな」
戦いが終わっても。領地を立て直す仕事は、これからも続いていく。
それでも今だけは。少しくらい、肩の力を抜いてもいいのかもしれない。
私は手紙を大切に、ドレスのポケットへしまった。その時だった。
「やあ」
背後から。聞き慣れた声がした。
「二人とも、楽しんでる?」
「……レオン?」
振り返る。そこには――。グラスを片手に持ったレオンが立っていた。
コメント
1件
第99話、読ませていただきました……! 本来なら断罪されるはずの大通りを、金銀の花びらと歓声で埋め尽くされて進むバイオレッタ。その胸に去来する「夢みたい」という言葉に、これまでのすべてが詰まっているようで、じんと来ました。アレクが「夢じゃない。全部、お前が成し遂げたものだ」と手を握り返すシーン、本当に好きです。彼の静かな信頼が伝わってきて、こちらまで温かい気持ちになりました。 リリアンヌからの手紙も、アイリス領を託して「羽を休めて」と言える関係性が素敵です。最後のレオンの登場で、次が気になって仕方ないです……! 本当に、読めてよかったです。お疲れ様でした、ひよりさん🌷
サレ妻、悪役令嬢に転生す。冷徹皇太子を初夜でわからせます!?
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