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格納庫に降りた瞬間、
朝倉恒一は言葉を失った。
そこに立っていたのは、
地下で見た傷だらけの機体ではない。
ガンダム・シラヌイ。
白い装甲は新しく換装され、
藍色のラインが刃文のように走っている。
欠けていた左肩、歪んでいた脚部フレームも、完全に修復されていた。
「……別物だ」
思わず漏れた声に、背後から足音が近づく。
「当然だ」
年配の将校が、ヘルメットを脇に抱えて立っていた。
「地下で回収した時は、
正直、使い物になるとは思えなかった」
恒一は視線を逸らし、正直に言った。
「俺も……勝てなかったです」
将校は否定しなかった。
「それでも、君は逃げなかった」
一拍置いて、続ける。
「君があの場で動かなければ、
あの避難区域は壊滅していた」
恒一は、ゆっくりと顔を上げた。
将校は一歩前に出ると、
静かに姿勢を正す。
そして――
深くはないが、確かな敬意を込めて頭を下げた。
「地球連邦軍を代表して言う。
……ありがとう」
その言葉に、恒一の胸が強く鳴った。
評価でも命令でもない。
ただの感謝。
「……俺は、正しいことをしたか分かりません」
「それでいい」
将校は即座に答えた。
「戦場で、答えが分かっている者ほど危うい」
視線をシラヌイに戻す。
「この機体は、英雄のために用意されたものじゃない」
腰部に装備された実体剣。
前腕の籠手型シールド。
背部の推進ユニット。
銃は、ない。
「生きて帰るための装備だ」
その言葉が、胸に残った。
リフトでコックピットへ上がる。
ハッチが閉じ、外界の音が遮断される。
「……また、ここか」
モニターが起動する。
《M.A.S.-01G
GUNDAM SHIRANUI》
《PILOT SYNCHRONIZATION
ACCEPTED》
操縦桿を握ると、不思議と手は震えていなかった。
ふと、画面の隅に見慣れない表示が走る。
《LIMIT RELEASE
TIME 03:00》
一瞬で消える。
「……三分?」
理由は分からない。
だが、“切り札”だということだけは直感的に理解した。
その時、格納庫全体に警報が鳴り響く。
《未確認機、多数接近》
《ツクヨミ部隊、東京湾岸侵入》
オペレーターの声が重なる。
恒一は、深く息を吸い、
自分から通信を開いた。
「……司令部」
一瞬の沈黙の後、将校の声が返る。
「出撃命令は、まだ出ていない」
「分かっています」
恒一は、前を見据えた。
「それでも、
この機体に乗れるのが俺だけなら」
一拍。
「俺が行くべきだと思います」
命令を待つ声ではない。
出撃を求める声だった。
通信の向こうで、短い沈黙。
「……怖くないのか」
「怖いです」
即答だった。
「でも、
見なかったことにはできません」
再び、沈黙。
やがて将校が言った。
「これは命令ではない」
「はい」
「だが、君の出撃要請を受理する」
恒一は、ゆっくりと息を吐いた。
「ありがとうございます」
「必ず、生きて帰れ」
通信が切れる。
恒一は操縦桿を強く握った。
「行きます」
ガンダム・シラヌイが、静かに立ち上がる。
それは兵器ではない。
選択に応える存在だった。