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「このーっ!馬鹿霜月!」
「え?いやここ何処…」
「あー…多分あの本中に入って世界観を堪能できる魔法がかかった本やな。彩の自信作やろ?」
「そうよ…最近使ってなかったから、霜月も忘れてたんだと思うけど…」
「はぁ…」
どうやら、彩、霜月、そして紅真は、本の中に入ってしまったみたいだ。
「彩、解除魔法は?」
「えーっと…なんだっけ?」
「ちょっと!!」
「こういうのは一定時間が過ぎたら外にいる人が解除するってやつだから。うーん…呪文があったんだけどなぁ…。思い出せないわ」
「しっかり覚えとけ。紅真は?知らないのか?」
「えぇ〜?俺?知らんわ〜」
「そもそも霜月がやったんだから。自分の責任でしょ?」
「まあそうだけど…」
かなりやばい状況なっている。が、本人たちはあまりそのような気ではないらしい。
「で、この本ってどんな内容なんだ…?」
「えー?うーん…えっとね…」
「題名は、『学園バトル』っていうやつやなかったっけ?」
「あぁー!あれね!だから制服姿なのかぁ…」
「なんか変なホラー小説じゃなくてよかった…」
「よかったわね霜月。久しぶりに紅真と戦えるんじゃない?」
「別に戦わなくてもいいし…彩がやれば?」
「いやいや、こんなとこでやりあったら、建物の安全が確保できないで?」
さらっとやばいことを言っている紅真だが、彩と紅真は四桁生きているトップクラスの妖怪。確かにやり合ったら建物が無事ではなさそうだ…
「でも、バトル小説って…戦うの?」
「戦いを申し込まれたりするんやてー」
「へー?」
「おいおいそこのチビの姉ちゃん。お前なら俺でも勝てそーだわ。一戦どうよ?」
「はぁん?なめないでくれる?」
「いい度胸だなぁ?俺はこの学校で一番強いんだぜ?お前ごとき勝てるはずが…」
「彩大丈夫なのか?」
「もちろん。そこで見てなさい」
彩が前に出てくる。対戦相手はこの学校で一番強いと自称するこの男。体格が良く、2mほど身長がありそうだ。けれど、彩は堂々と前に出ていく。
「なぁ、霜月。この本は楽しむためのもんやから、時間が過ぎるまで楽しもうや?」
「はぁ…」
「スタート!」
「あ、はじまった」
戦いが始まった。男は彩に向かってくる。
「おりゃー!」
「初めの呪い」
「え?」
次の瞬間、男は派手に転んだ。これが軽い呪いなのだろう。
「くそっ…おりゃー!」
「懲りないわね」
また転んだ。それでも男は立ちあがろうとするが、派手に転んでしまっていて、なかなか立ち上がれない。
「…むやみやたらに戦いを申し込まないこと。いいわね?」
「は、はい…」
男は完全に負けを認めたようで、足早に去っていった。紅真は、彩に拍手をした。
「おみごと〜。あんまり面白くなかったけど」
「そうね。ちょっと簡単な呪いだったし。つまんないの〜」
「まあ人間だし…って…」
「俺たちすごい目立ってるんちゃう?すごい戦い申し込まれてるんやけど…」
「僕も…」
さっきの戦い(?)を見ていた生徒たちが、3人に戦いを申し込んでいる。なにもせずずっとこちらを見つめている者もいるが…
「ま、やるしかないやろなー」
「うわぁ…これ何枚あるんだよ…」
「途中で倒れたらよろしく」
「いや倒れるまで戦うなよー!」
「だって夏なんだもん」
彩は暑さに弱く、夏はあまり力を使いたがらない。使ったとしても簡単なもの。しかし、霜月もまた雪女族…
「紅真、お願い!」
「俺が二人の分の戦いもやるってことなん?」
「うん」
「私たち暑さに弱いから仕方ないわよねぇ〜」
「キメラだろ。紅真は」
「なんでこうなるんやろう…」
それから紅真は、ひたすら戦いを続けた。その間、彩と霜月は校内を探索する。
「どこかに抜け道はないのかしら〜。早く帰りたいんだけど」
「この本の中は無限なのか?」
「わかんない。何百年も前にかけた魔法だし‥。解くのはちょっと大変かも」
「えぇ…」
「少しでも世界観が掴めればいいのだけれど…あ」
「どうした?」
「そういえば表紙に、魔獣の絵が書いてあったのよね‥…」
「あ」
「この本…」
「『バトル学園 魔獣襲来編』じゃない!」
「ということは、もうすぐ…」
ドォン
「!!」
「魔獣!?これどういう世界観の話なわけ!?」
「これを倒すんだろ?本に入った奴が…」
「きいてないっ!」
「とりあえず外に…」
ドォン
「わっ!」
「薄氷!」
魔獣が、パキパキと氷漬けにされる。しかし…
パリン
「いやあんな魔獣封じ込めないでしょ!とりあえず紅真と合流…」
「時止め!」
カチッ…
「助かった…」
「あぁ…霜月。大体生徒は逃げさせといたで。さぁ、あとは殺るだけ…」
「紅真…ん?彩?おーい?」
「ごめん…時間止めるのってちょっと疲れるんだよね…ここにくる時に魔力取られてるし。あとはよろしく…」
「っておい!寝るなー!」
彩の時間操作の魔法も解けた。魔獣はふたたび動き出す。
霜月は前に出、魔獣を睨みつける。
「早めに片付ける。魔獣を倒せば魔法も解けるだろ。久々に、見てろよ」
「わかった」
さぁ、雪女族は夏でも普通に戦えるのだろうか…気になるところだが…
「氷雨!」
氷の矢が四方八方に飛ぶ。魔獣にも刺さり、苦しむ。
そして、消えた。
「ふぅ…ちょっと疲れた…」
「ん?あ、これ、外に出られ…」
急に眩しい光がどこからか出て、その光に飲み込まれるように三人は外へと出られた。
「あれー?何してるんですか?こんなところで…師範寝てるし…」
「鞠?あぁ、戻ってきたのか…」
「この本、危険ですよね〜。あとで処分しときます」
「全く酷い目にあった…」
「ん?あ、出られたんだっけ?」
「彩。大変やったんだから…」
「ごめんごめん。よいしょっと…」
彩は本を掴んだ。次の瞬間、本が焼け出し、跡形もなく消え、灰になった。
「まったく…あぁ、疲れた。こんな魔法はもう勘弁ね」
「そろそろ帰る」
「俺も仕事がまだあるんやった〜、あ」
「?」
「でも、現世から来た女の子には会ってかないと。まだ帰れへんなぁ」
「…」
現世から来た女の子…里奈のことだろう。明日、紅真は里奈に会いにいくのだ。
夏もだんだんと近づいてきた日の夕方。