テラーノベル
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部屋中に散乱した液晶の一部分たちを、埃の被った手持ちサイズの箒でかき集める。途中、茶色い汚れのついた破片もあったりして、ますます気分が悪くなる。
「壺浦、どうやって俺に気づいた?」
あるいは、第四の壁。
ゲーミングチェアに勝手に腰掛ける壺浦は、右上に視線を向けた後、何気なく口を開いた。
「そういう設定だからな。」
彼を一瞥して、また視線を床に戻した。
自分は全く、プレイヤーを感知してる…みたいな設定なんてつけていないのだが、もしかするとこの壺浦は、人がいた頃の壺浦とはまた違ってくるのかもしれない。
「てか…ちょっとくらい手伝えよ。」
しばらく待ってみても返事は来なかった。呆れて、抗議する気も起きない。彼の先輩が、彼を疎ましく思う理由がなんとなく分かった。
デスクの下にあるゴミ箱の中は、透明な鋭い液晶で埋まっている。割れた液晶は粗方片付けただろう。モニターこそ、まともに画面すら移せず、このままではゲームすら起動できない。
けれど、この場に人間が一人追加されたという事実は、ゲームができないショックを上回る進展だ。ごちゃついた棚の方に箒を放る。
問題は解決することを知らない。これからはどうすればいいのだろうか。
出来ることなら、俺はもとに戻りたい。自分の活動を批判する人間はいたが、そんなの比にならないくらい楽しかったのだ。
「いつまで続くかねぇ。」
「…おー。」
彼の声は曖昧だった。窓を背にして、床に腰を下ろす。
壺浦と相対する形なのだが、目は合わなかった。空を見ているのか、自分の頭上ばかりに目を向けている。
眉間にシワが寄った。
「んだよ!」
「あ?なんでもねぇよ。」
「文句があるなら言えや!」
「畜生、何の話だ!」
慌てふためいた彼の挙動。喧嘩を売られたと思ったが、まぁ違うみたい。
今度の彼は、なにやら顎に手を当てて考え耽っている。目を固く閉じたかと思えば、口を尖らせて、眉をしかめている。威嚇したチワワを想起した。
「そこまで気になるなら言うぜ。…アンタ、後ろ見てみろよ。」
いくつかの疑問符が浮かんだ。恐る恐る、首を回してみる。
刹那、思考が一瞬にして吹っ飛んだ。
「…な、なんだこれェ……。」
窓枠から覗いたいつも通りの夜空は姿を見せず、代わりに…なんとも形容しがたい。宇宙と泥が煮詰まって溶けた感じといおうか、曇天に一滴の墨が垂らされたせいで、真黒に染まってしまった感じといおうか。
とにかく、気味が悪くて、なにが詰まっているか理解しがたい泥のような雰囲気を感ぜられる、「空間」がそこにあった。
先刻、モニターとロスサントスとの間に見た、異世界と繋がる扉に似ている。ひと目見て、2つ目にそう思った。
「行ってくればいいじゃねぇか。」
正気なのか、コイツは。
「俺を一人にする気かよ。外道が。」
睨めば、案外彼はすぐに折れた。
「あわよくば、俺だけここで怠けてようと思ったんだがな。」
それでこそ、俺の派生だ。
勢い付けて椅子から降りた彼に、いくらか胸が高まった気がした。どうしたってフィクションだと割り切ってきた、異世界という存在。前には戻れないが、進むことは出来るのだ。
人のいるところ、人、人。とにかく、元に戻りたいと思った。自分は、思ったより自分の気持ちをわかっていないみたいだ。
窓の近くにある放り投げていた愛用の帽子。取ってかぶれば、一度気分が良くなる。
「やられたなァ、こんなはずじゃなかったのに。」
ぼやく壺浦の腕を引っ張った。サングラス越しに見えたその目は、楽しそうに揺れた自分の尻尾を映しているだろう。
二人で、窓枠に足をかける。正体のわからないどろりとした空間があたりに広がっていた。
「3、2、1…で行くぞ!」
掛け声を先に決めようとしたが、それよりも先に、壺浦は俺の尻尾を鷲掴みにしていて。
「ぇっ…」
「あっ、すまん!今ので行くのかと!」
そのまま窓から飛び降りた壺浦。その手には尻尾の花が握られていて、1秒後の未来には引っこ抜かれる痛みと共に、落下するのが目に見える。
「ヒョアァァァッ!!」
情けない声を出してしまった恥ずかしさと、尻尾の付け根に走った激痛と、落下に対する恐怖。そ れらの混ざった酷く恐ろしい感情によって、涙が溢れるのなんの。
だが、涙も、手の慌ただしい動きも虚しく、意識をなくした。
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コメント
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第4話、読み終わりました!二人の掛け合いがもう最高ですね。「外道が」って言いながら尻尾掴まれて情けない声上げるところ、思わず笑っちゃいました。壺浦の「そういう設定だからな」って何気ない一言が逆に不気味で、でもチワワみたいに威嚇する仕草が可愛くもあって…。あの泥みたいな異世界への飛び込み、痛そうだけど続きがすごく気になります!