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mei
198
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#東方異変
一ノ瀬ルナ
31
13
「ダイジョウブダヨ」
(気持ち悪っ)
「キニシナイデ」
(勝手に心覗くなよ)
たくさんの人に囲まれ、軽蔑されている瞳で告げられる。その言葉に、私は何も言い返せない。事実、だから。私がその状況に絶望していると、後ろから足音が聞こえる。
「……こいしっ!」
私の最愛の妹、こいしだ。私は助けを求めるようにこいしの名を呼ぶ。すると、こいしは……
「やめてよ、お姉ちゃん。あなたは――」
「……!?」
その悲劇から逃げ出すように瞳を開けた……瞳を、開けた?ああ、そうか。全部、夢だったんだ。辺りを見渡し、ここが安全なところだと何度も確認して、初めてほっと息をつく。
(〜♪さとり様起きてるかなー?)
聞きなれた声が近づいたのに気がついて、私はベッドから腰を浮かし廊下に出た。
「おはようございます、さとり様!」
(今日も一日頑張りましょう!)
この、あまりにも心と実際に出ている声が揃っている少女……というか、烏は、霊烏路空こと、お空。
「おはよ、お空」
「……!おはようございます、さとり様!」
(今日も一日頑張ろう!)
お空はさっきも言った通り裏表がなく、心の声が汚れていない。私はそんなお空を信頼していた。
「さとり様、今日のご飯はですねー!」
(……なんだっけ?)
意気揚々と話すお空に苦笑しながら、食事をとる。
「もー!名前忘れちゃ行けないっすよ、お空!あたいはこれ分かります!これは、ビーフストロガノンです!」
(ふっふーん!覚えてた!さとり様、褒めてくれるかなー?)
もう1人の従者であるお燐が意気揚々と料理の名前を言う。私はその少しズレている回答につい吹き出してしまった。
「ビーフストロガノフ、ね?」
私が笑うと、それに釣られるように最愛の妹、古明地こいしも笑った。
「あははっ!お燐、お空、おもしろいー!」
こいしからは相変わらず心の声が聞こえないけれど、信用できた。なんでなんだろう……私はキラワレモノだけど、地霊殿はちゃんと笑顔が溢れてる。だから、大丈夫。キモチワルイ心の声が聞こえたとしても、お燐、お空、そして……妹のこいしだけは、きっと……いいや、絶対。みんなだけは、私を認めてくれる、許してくれる――
「おはようございます、さとり様!!」
ある日。朝起きると、違和感を感じた。お空がいつも通り部屋に入ってきて、私を起こしに……あれ、待って。なんで私はお空がここまで来るのに気づけなかったの?逆に、なんで今まで私は気づけて……そうそう、心の声。心の、声が……って、え?
「お空、今、何考えてる?何にも考えてないの?」
「え?なんでですか?今日のご飯のこと考えてましたよ!」
お空がいつも通りに告げる。何、これ。お空が、嘘をついてる?いや、嘘をついたら必然的に心の中でなにか喋る。どういう、こと?
「……!!」
私はお空の肩を押しのけお燐の所へ向かう。
「お燐っ!!」
「……さとり様……!」
お燐は顔を真っ青にして私の名前を呼んだ。
「あたい、何故か怨霊達と話せなくなってるんですけど!!」
「……え?」
お燐も、能力が消えた……?お燐の能力は、死体を持ち去る程度の能力。これがなければお燐は怨霊達と会話ができない……やっぱり……地霊殿。いや、もしかすると、幻想郷から、能力が消えている?
「お空!能力使える!?」
「えっ?いや、まあ、はい……」
「……じゃあ……1部だけ……?」
お空とお燐は不安そうに私を見つめてくる。そこで、私も大きな不安に襲われた。もちろん、能力が無くなったこともそうだけど。それ以上に……
――心の声が読めないのが、怖い――
何十回だって、いや、何万回も、考えた。この能力が消えればいいのにな。って。でも、怖い。私は能力に頼ることでしか人を信じることが出来なかったから。
「さとり、様……?」
「ご、ごめん、お燐!!なんでもないわ」
私は慌ててその場を取り繕うと、こいしを探した。少し視線を彷徨わせる。そして……
「いた、こいし!」
「ん?あ、お姉ちゃん!よく見つけられたねぇ、能力使ってたのに」
私はこいしのその言葉で、こいしにもこの異変のようなものの被害が及んでいることを確信した。
「博麗神社に行くけど、行く?」
「行く!」
「行きます!!」
「えー、お空も行きたい!」
「お空は仕事があるでしょ?お土産買ってきてあげるから」
「ならいーですっ!」
単純だな……ただ、今はお空のその単純さすらも疑ってしまった。それがあまりにも虚しくて、自分自身を心から呪った。博麗霊夢。あの人は、面倒臭がりで、怠惰な所が目立つ。だけど、裏表がない。あの人なら、少しだけ信じれる気がした。
「ぜえ、ぜえ……」
「さとり様、大丈夫ですか……!?」
「お姉ちゃん、体力ないなあ」
「うる、さい、わね……」
私は肩で息をしながらその階段を上り続けていた。お燐もこいしも普段からそこらへんを出歩くことが多いから、体力があるらしい。私はと言うと……まあ、言わずもがな。
「……ついた……」
私は博麗神社の鳥居をくぐると、霊夢がいるのを見つけた。
「博麗霊夢!」
「……あら?さとり?」
「ねえ、今、能力使える?」
「……は?当たり前じゃない。私が能力使えなくなってたら、博麗大結界が崩壊してるわよ?」
「あ、そっか……」
そこで、少しだけ安堵の息をつく。それでも不安は拭えなくて、他にこの出来事の被害者が居ないかと無意識に視線を彷徨わせ、探した。
「霊夢。今いいかしら?」
後ろからいきなり声が聞こえる。びっくり、した……こういうのには耐性がない。こわ。えーっと、この人は、確か……
「あら、小鈴。どうしたの?」
ああ、そうそう。本居小鈴、鈴奈庵の店長……だっけな。たまに使わせてもらってる。不安そうに尋ねてきた本居小鈴の手元には、異国のものだと思わしき本が握られていた。
「今日、朝店を開いて、いつも通りこの本を読もうとしたんです。そうしたら……読めなくなっていて!」
本居小鈴の能力、なんだっけな……と思っていたら、私が聞きたかったことを霊夢が代弁してくれた。
「確か、妖魔本を読める程度の能力だっけ?小鈴の能力って」
「はい!」
ああ、あれは異国じゃなくて、妖魔本だったんだ……てことは……!
「本居小鈴さんも能力が消えたの!?」
「え……!?えっと……誰、ですっけ……?」
「古明地さとり!地霊殿の主やってます」
私は気を緩めずに淡々と自己紹介をした。この子のことは、何も知らない。だから、信用しちゃダメだ。
「他に、能力がなくなった人は……?」
私が問いただすと、本居小鈴はしばし考え込んだ後自信なさげに言った。
「稗田阿求……わかりますか?あの子が、物覚え悪くなったってぼやいてたような……?」
「知らないけど……」
「阿求は、読んだ本の内容を覚えている程度の能力よ」
私が分かるように霊夢が付け足して説明をする。私は頷くと、霊夢が何かを喋ろうと口を開いたので次の言葉を待った。
「じゃあ、他に被害者がいないか探しましょう」
霊夢の言葉に、私は答える。
「ごめんなさい。私は、さすがにお空を1人にしておくのが心配だから……ていうか、お燐とこいしはもう飽きちゃってるし」
2人は鬼ごっこをして遊んでいた。何してるのよ、もう。
「ただいま、お空。お土産買ってきましたよー!」
お燐が元気にお空の元へと駆け寄る。お空は分かりやすくキラキラと目を輝かせてお饅頭に飛びついた。
「んーっ、おいしぃ!」
心の底から言っているように見えるその言葉すらも疑ってしまう自分がいやだった。
「疲れたぁ……」
こいしが私の横でボソッとつぶやく。何にもしてなくない?なんて野暮なことは言わなかったが、思いはした。
「よし、お空、お燐。ちょっと向こうの掃除してきてくれない?」
「「はーい!」」
饅頭を食べ終わった頃を見計らって、私は2人に仕事を頼む。2人は嬉しそうに返事をすると、自分が自分がと隣の部屋に向かっていった。
「ふふ、可愛い」
私がそう呟くと、こいしがこてんと腕に頭をのっけながら可愛らしく上目遣いで聞いてきた。
「私は……?」
「……!!もちろん1番可愛いわよっっ!」
何、この子。最っ高に可愛すぎるでしょ。私はこいしの頭をわしゃわしゃなでた。って、違う違う。私はこいしと話したかったんだ。
「こいし。能力が……使えなくなっているでしょう?」
「へ?いや、別に?私の能力がなくなることは……」
こいしは自覚してないんだ。私は少しだけ語調を強めて言った。
「今日、朝最初に会った時、能力を発動してたんでしょう?」
「まあね?」
「出来てなかったのよ」
私のその言葉に、こいしは息を詰まらせた。
「……へ?そん、な、わけ……え、だって……」
こいしは動揺していたが、私はゆっくりと話す。
「今わかっている時点では、地霊殿と、人里にこの異変は起きている。だから……」
「違うよっ?」
こいしはそれでも尚自分の能力が消えたことを認めようとはしなかった。
「だっ、て……私の能力が消えるなずないもん!」
「分かるわよ、こいし。でもね……」
私が話し出そうとする前に、こいしは更に声を張り上げて訴えてくる。
「だって、この異変は……!」
こいしが皆まで言う前に、ほかの声が割り込んできた。
「さとり様ー!おわったっすよー!」
「お燐、ずるいー!私が言うって言ったのに!」
お空とお燐の元気な声でようやく世界に酸素が戻ってきたように感じた。
「……」
こいしは強く唇を噛んでいた。それに気がついたのは、お空とお燐のことをひとしきり褒めてふとこいしの方を見た時だった。お空とお燐と話している時にしたのか、その前にしたのか、分からない。でも、こいしの苦しみに寄り添ってあげられないのが、何よりも苦しかった。
「こいし……大丈夫?」
その日の夜のこと。私はそっとこいしに話しかける。
「……別に、大丈夫だけど……」
そんな回答をしながらも不安そうなこいしの肩に手を置いてゆっくりと話した。
「私も、生まれ持った能力が突然消えて。あれだけ嫌だったのに、今は能力が消えたってことがすごく不安で仕方がないの。みんなの気持ちが、分からない。あれだけ信用できるって言ってた、お空も、お燐も……」
話しすぎた。と、少し反省していると、こいしは私の目を見つめてゆっくり言った。
「私は……?」
さっきと、デジャヴ。でも、全然違った。こいしは……って。どういう……
「私は、前から心読めてなかったんだよね?」
たし、かに。でも、今でもこいしだけには不安を感じていない。ああ、そっか。私は……
――こいしだけは、心が読めなくても信用出来てたんだ――
「ああ、どうしよう」
私――古明地こいし――は、1人ぼっちの部屋で小さく呟いた。今日は、さすがに能力使いすぎたな。能力使えないほど使うなんてこと……初めてかも。お姉ちゃんに、見てほしい。私だけを、信用して欲しい。だから、私は、異変を起こした。異変なんて、あんま起こさないから結構不安だったけど……案外ちょろいな、幻想郷。もし、これがバレたら……
「……でも、いっか!」
このまま、一生お姉ちゃんに能力を使い続けたとして。お姉ちゃんは、私以外を信用出来なくなる。心を読めないお姉ちゃんは、無力だから。私がいないとダメなんだ。私が、お姉ちゃんを支えてあげないと……私は満月に向かってゆっくりと微笑む。満月が私を見て勝ち誇ったように笑った。
あれから……約、1ヶ月。幻想郷から異変は消え去った。お燐も、こいしも、本居小鈴も。みんな、能力が戻ってきた。ただ……私の能力は、未だに戻ってこない。ペットは、減った。半分くらい。意思疎通が出来なかったら、意味無いのかな。逃げちゃった。
「お姉ちゃん!!」
元気な聞きなれた声が聞こえて、ようやくほっと息がつける。
「……こいし。今日は、どこ行ってたの?」
「んーとね、人里のお散歩!お水飲んだらもっかい行くよー」
こいしが楽しそうに笑った。私はそんなこいしの服の裾を掴んで、懇願するように告げる。
「お願い……今だけでいいの。離れないで……」
――こいしの唇が僅かに緩んだ気がした――
コメント
1件
うわあ……重くて、切なくて、すごく好きなタイプの話でした。 心の声が読めなくなったさとり様の不安がリアルで、読んでてこっちまで息苦しくなった。特に「こいしだけは心が読めなくても信用できてた」って気づきのシーン、その後にこいしが「私がいないとダメ」って微笑むラストがもう……歪んでて美しかったです。 一ノ瀬ルナさんの地霊殿の空気感、すごく丁寧で、惹き込まれました。続き、すごく気になります🌙