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#異世界転生
JokerX号
288
#主人公最強
杯雪乃
49
私たちの前に現れた不思議な人影は、時間を経るに従って、少しずつ姿をはっきりさせていった。
そして最後に、一人の男性が姿を現す――
……青年よりも成熟した風貌。中年よりも若々しい風貌。
力の旺盛を極めた瞬間――……そんな空気が伝わってくる、圧倒的な存在感。
「――……これはこれは。私の帰還を待っていてくださったのですか?」
最初に口を開いたのは、目の前の男――……英雄シルヴェスターだった。
丁寧な口調の中に、鋭い殺気のようなものが含まれている。
『英雄』とは言っても、以前私が対峙した英雄ディートヘルムとは空気感がまるで違う。
ディートヘルムは火のような荒々しさを持っていたが、シルヴェスターは水のような静かな空気を纏っている。
しかしただの水ではない。暗い、重い、そんな水――
「初めまして、私はアイナ・バートランド・クリスティア。
あなたのことは以前、クレントスでお見掛けしたことがあります」
「ほう……。もしかして、ヴィクトリア様から過大な歓迎をして頂いたときですかな」
シルヴェスターは話をしながらも、辺りの様子をゆっくりと窺っていく。
そして最後に、私の傍らにいる人魚――マイヤさんに目をやった。
「……マイヤさんは私の仲間ですので」
私の言葉に、シルヴェスターはすぐにその意味を理解した。
「はははっ、大丈夫ですよ。私はもう、人魚たちには興味がありません。
せいぜい、このまま静かに生きていけば良いでしょう」
「……ふ、ふざけるなぁああッ!!」
マイヤさんはシルヴェスターの物言いに我慢できず、水の魔法を一瞬で撃ち出した。
しかしシルヴェスターは、それを何ともないように、最低限の動きで避けていく。
「――殺されたいのですか?」
「っ!!」
シルヴェスターの言葉に含まれる殺気が、一瞬にして溢れ出た。
一言だけで、この圧を出せるというのは――
「私の興味は本当に、もう人魚には無いのですよ。
『螺旋の迷宮』にはがっかりしました。あんなにまで人間を拒絶しているのだから、私の求めるものがあると思ったのに……」
「あなたは何を……? 何を求めているんですか……?」
私の口から、自然とそんな言葉が出てきた。
興味本位というところもあったが、しかしこんな場面、それだけで動くわけも無い。
もしもここでシルヴェスターをどこかに行かせたら、彼の目的によっては、再び私たちと対峙することも有り得る。
加えて彼は、マイヤさんの……人魚たちの仇。
心情的にも、マイヤさんを仲間だと思っていればこそ、このまま行かせるのは難しいものがあった。
「君には特に言う理由は無い――
……いや? 名前が確か……。そうか、君が新しい神器を作った錬金術師でしたか」
言葉の途中で、シルヴェスターの私を見る目が鋭くなった。
ここでようやく、私は彼の興味の対象になったのだ。
「ダンジョンの中でも、『世界の声』は聞こえていたようですね」
「ええ。私も話には聞いていましたが、まさか本当に実在するものだったとは。
……それにしても、そうですか。神器を作って……そのあとの『疫病の迷宮』も、あなたが?」
「さぁ? どうでしょうね」
個人的には、『疫病の迷宮』の方に話を持っていって欲しくなかった。
シルヴェスターは『螺旋の迷宮』を『殺して』しまったのだから、リリーのことを知られてしまえば、どう動かれるかが想像が付かないのだ。
「……ふむ、実に興味深い。
それに君の後ろの青年も――実に良い顔をしています。
手に持っているのは新たな神器ですか? そういえばディートヘルムの神器……神剣カルタペズラは消滅したようですし……。
まったく、私のいない間にいろいろなことが起きているものだ」
そう言うとシルヴェスターは、腰の鞘から美しい剣を抜き放った。
神剣デルトフィング――それを見るのは、私も半年以上振りだ。
まさかあのときに見た神器が、私たちに向けられることになろうとは……。
「その剣を収めてください。
アイナ様に害意を向ける方は、私が許しません」
そうは言いながらも、ルークは神剣アゼルラディアを手にして、シルヴェスターの前に立ちはだかった。
人数としては7対1。圧倒的な差はあるものの、しかし相手は一人で迷宮を踏破した英雄――
「その意気や、良し。
君は仕える主を見つけているのですね。実に羨ましい」
「そういう貴方こそ、世界でも名の知れた英雄です。
仕える先など、いくらでもあったでしょう」
「ふっ。権力や富ばかりを見ている連中なんて、仕えるには値しないものですよ」
シルヴェスターは事も無しに言った。
彼ほどの実力者になれば、権力や富では心が揺らがない。
やはり人間的に、心から尊敬できる人でなければ仕えられない――そんな感じなのだろうか。
「何を上から……っ!!
アンタだって、何を探しているかは知らないけど、よくも私の仲間を……ッ!!」
マイヤさんの絶叫が響いた。
それはそうだ。シルヴェスターが何を思い、どう動こうが、それは他人には関係が無い。
しかも同族を殺されたとあっては、感情のやりどころなんて限られてしまう。
「……たかだか100程度の命で、何を|喚《わめ》いているのやら……。
しかも世界から隔離されていた連中。そんな存在が、私の邪魔をするだなんて言語道断――」
「黙れッ!! アンタはもう口を開くなッ!!」
その言葉と同時に、マイヤさんの周囲には大量の水の矢が生まれ、シルヴェスターに襲い掛かっていった。
しかし一瞬後、すべての矢は彼の剣によって散らされてしまう。
「くっ……!」
「――アイナ様、やはり凄まじい剣の腕です。
ディートヘルムとは、強さの格が違います」
ルークが私に向かって、声を小さくして言った。
何だかディートヘルムさん、いちいち引き合いに出されて可哀想だけど……しかし、敵の実力の指標としては優秀だ。
「……勝てそう?」
「負けるわけにはいきません」
私の言葉に、ルークはすぐに答えた。
しかしそれは、果たして答えだったのだろうか……。
「ここは僕も手伝うことにしようかな♪
ルーク君ばっかりに格好付けさせるわけにはいかないからね」
ジェラードはルークの横に立ち、短剣をくるくると舞わせてから右手で受け止めた。
情報収集や女性の扱いが得意な彼ではあるが、剣術も一級品なのだ。
ルークとタイプは違うけど、その腕は互角――いや、今はルークの方が上だったっけ。
「……おやおや、二人ともやる気ですか。
アイナさん、ここは引いて頂けませんかね?」
ここで一旦、シルヴェスターが状況打破の提案をしてきた。
……私は、どうしたい?
マイヤさんの仲間たちの仇を討つ?
放っておくと危険だから、ここで倒してしまう?
危険は避けて、彼とは戦わないことを選ぶ?
……こんなところで誰かが死んでしまうのは、どうしても避けたい。
だからといって、このまま目的の分からない彼を行かせるのは危険な気がする。
つまり、やはり私はシルヴェスターの目的を知りたいのだ。
「……私たちも戦いたくはありません。
でも、マイヤさんたち――人魚に手を掛けたのは許せません。
その理由を教えて頂けますか?」
「なるほど、そこを落としどころにしたいのですね?
――では、その提案は却下いたします」
「っ!?」
正直、この提案くらいは受け入れてくれると思っていた。
しかし、結果はあっさり却下――
「君の後ろにはまだ、得体の知れない方が二人もいます。
アイナさんを含めた三人は、実に興味深い。
……だが、他の者は凡庸。私がここで殺してしまいましょう」
「なっ、何でそうなるんですか!?
あなたは英雄とまで呼ばれた人間でしょう!?」
「ははは、人間の世界での呼び方なんぞに深い意味はありません。
英雄なんて称号は、この神器を手にするための手段。それ以外に、特に深い意味なんてありませんよ」
シルヴェスターは剣を構えて、静かに腰を落とした。
これが彼の、攻撃に入るときの姿なのだろう。
ここからはいつ、どんな攻撃が飛び出してくるのかは想像できない。
そんな中、エミリアさんは慎重に支援魔法を掛け始めた。
「……目的が分からないまま、ここから帰すことはできません。
あなたと戦って、その目的を――聞き出します!」
「なるほど、なるほど。
確かに、神器なんて代物を作るお嬢さんだ。
良いでしょう、私も三人の方には用がある。堂々と戦って、その身柄を拘束させて頂くことにいたしますよ」
シルヴェスターはまるで問題が解決したように、満足しながら頷いた。
勝った方が、自分の目的を果たすことができる。
仕方ない、ここは戦うしか……!!
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