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朝。僕はゆっくりと起き上がった。
体が重い。だが、今日は学校に行かなくてはいけない。これ以上両親に心配を掛けない為にも。
ベッドから立ち上がった途端、目眩がした。ベッドに座り、少しすると目眩は治まった。
また立ち上がり壁を伝ってあるく。体が重く、ほんの少しの距離が長く感じた。
昨日は何とも無かったはずだ。
「おはよう。はい」
台所に行くと、弁当を作っていた母が僕に水の入ったコップを手渡した。確かに水を飲みに来たが、準備が早すぎる。毎朝の事なので慣れてしまったが。
ガシャン
「!?ゆき、大丈夫?」
母さんが僕の手に触れる。
「あ……」
足元にはバラバラになったガラスの破片が散らばっており、水浸しになっていた。
「どうした?」
父さんの声だ。
「ゆき?」
「…っ」
立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。
「どうしたの?…!?」
頭が、割れそうだ。
「ゆき!?しっかりし…」
僕はそのまま意識を手放してしまった。
「〜〜〜〜」
「〜〜」
話し声が聞こえる。僕はうっすらと瞼を開いた。
白い天井が眩しい。誰かが僕の手を握っていて、それが母だと言う事はすぐに分かった。
「…母さん」
「!ゆき!?」
話していたのは母と医師のようだ。
起き上がろうとしたが、体に力が入らず無理だった。
そのまま医師の診察を受けながら、話を聞いた。
どうやら僕は7日間ほど昏睡状態であったらしい。最初聞いた時は信じられなかったが、母のやつれた姿を見るとすぐに納得した。
それから父もやって来て、3人で話をした。
余命のこと以外は先生に教えたとか、皆心配してるとか。
そして時間が経過し、夜になった。
暇になり、僕はスマホを手に取った。スマホには友達から心配のメッセージが寄せられていた。
京介からは何もなかった。
別に、メッセージが欲しかったとかそういう訳じゃない。ただ、いつもはあったのに、今は無い、それだけだ。
…僕と京介は、喧嘩しているのだろうか。
(「何も言えないくせに。もうこれ以上耐えられないんだよ」)あの時の京介の言葉が蘇る。
…嫌われたかな。
もう元の関係に戻れるとは思っていない。
「はぁ…」
僕は1人、ため息をつく。
京介と喧嘩する気は無かった。ただ友達として、いつものように一緒に居たかった。
ふわりと部屋のカーテンが揺れる。窓を開けた覚えはない。
僕は起き上がり、
「結月」
ふと思い浮かんだその名前を呼んだ。
「気づいてたんだ」
本当に居るとは思わず、驚き声が出そうになるのを僕は抑えた。
「…何処から入った?」
「窓」
窓が開いていたのはおかしいと思ったが、それ以前にここは5階だったはずだ。
結月は窓の前に立ち、月明かりを浴びていた。
この前見た時と同じ、黒いパーカーを着ている。違うのは、フードを被っていない事だろうか。顔を隠す気は無いようだ。
顔だけ見ると、怪しい人には見えない。むしろ好青年と言った感じだ。
「…そうだ。ゆきが前 言っていた事は、そういう事だったんだ」
全部知っているかのように結月は笑みを浮かべていた。
「だから、考えたんだ」
結月が僕に歩を寄せる。
「死ぬまえに、俺が殺そうか?」
カーテンが揺れる。
結月は満面の笑顔を浮かべていた。月明かりに照らされたその顔を、僕は忘れる事はないだろう。
「…で、聞いてる?」
「え、なに…?」
僕は蓮の声にはっとした。
「さっきの話聞いてた?」
「なんだっけ、」
「もういいよ」
蓮は少しムスッとしたようにそう言い、僕の口にカットされたリンゴを押し込んだ。
「む…」
僕がぼーっとしている間にリンゴの皮を剥き、カットしていたらしい。
蓮は手先が器用だ。
僕はリンゴをなんとか噛み砕き、飲み込んだ。
「はい、あーん」
僕が食べ終わったのを見計らったのか、蓮がリンゴを近づけて来た。
「もういらない、」
「まだ1個しか食べてないじゃん。ほらほら」
「だから、もういいって」
「いやいや。そんな事言わず食べなよ」
「ちょっ、いらなっ」
僕はリンゴを食べたいとも言っていない。
リンゴを持つ蓮の手を掴み阻止する。
「ふはっ、食べなよ。リンゴ勿体ないし」
「蓮が食べればいいじゃん」
蓮は譲る気はないようだ。別にリンゴは嫌いじゃないが、今は食欲がない。
「リンゴ!」
「、やだ」
蓮のリンゴを持っている手を遠ざけても、力で押し負けてしまう。
「お前ら何してんだ」
顔をあげ、前方を向くと木村の姿があった。
「げ…」
「あ、」
蓮と僕はほぼ同時にそう言った。
病室はまだ10時だと言うのに騒がしかった。
コメント
3件
ハート964回押しときました♡
大丈夫ですよ〜 毎回素晴らしい作品ありがとうございます♡ ゆっくりでいいので作品楽しみにしてます! 無理しないでくださいね〜
すみません遅くなりました。今回の言い訳は、いろいろ考えてたんですが納得行かなくて…