テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「俺さ、はんちゃんの家に告白しに行ったって話したやろ? あん時、玄関先であいつに会って……『俺ははんちゃんの彼氏』や、って嘘つかれてんねん。俺、それで病んだようなもんやから。はんちゃんがいくら大丈夫って言うても、まだ一概には信用できひんねん」
「……そっか。そんなことがあったんやな」
元には元の、空には空の言い分がある。
それでも、空は大好きなはんちゃんを傷つけないように、ギリギリのところで見守ってるんやな。
「……偉いな。旅行、行かせてあげて」
「…………俺、いい奴すぎて泣きそう」
ふざけて言ったつもりの空だったが、その目は少し潤んでいるように見えた。
はんちゃんが言っていた通り、一度ハマるとそれしか考えられなくなる空にとって、恋は天国と地獄の繰り返しなんやろうな。
「ほんま、空はいい男やわ! そりゃはんちゃんも選ぶって。俺も空と付き合いたいわ!」
大袈裟に褒めちぎってみたら、
「お前もはんちゃん狙いやったやろ。例外じゃないからな」
と、シンプルに牽制された。
「しょうがないやん! はんちゃん、可愛すぎるんやもん!」
「おま……っ」
空が顔をしかめて、一瞬だけ鋭い視線を寄こしてくる。
俺は慌てて両手を振った。
「嘘嘘! 俺はもう、十年前に片想いは終わらせてるから。今更なんて、絶対ないって」
「…………まあ、わかってるけど」
空は不貞腐れたように視線を窓の外へ逃がした。
「わかってる」と言いつつ、どこか不安げなその横顔。
ほんま、空は、はんちゃんのことになると余裕がなくなるんやな。
「……でもさ、もとちゃん」
「ん?」
「ありがとな。……色々」
柄にもない言葉に、一瞬だけ車内の空気が止まった気がした。
自由席の、少し硬いシート。
そこから見える流れる景色の中で、空は小さく、でもはっきりと呟いた。
「……おう。任せとけ」
俺はそう短く返して、席を立った。
指定席に戻れば、そこにはまだ、いつも通り楽しそうにしている元とはんちゃんが待っているはずや。
「……よし。俺も気合い入れ直すか」
この奇妙な四人旅が、どう転ぶかは俺の腕次第。
俺は少しだけ早歩きで、自分たちの車両へと向かった。