テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
駅につき、空と合流する。
ここから水族館までは二十分。タクシーで行くか電車で行くか、迷うところやな。
それと……四人のこのギクシャクした感じをどうするか。
はんちゃんは気にしていないように見えて、空を優先させているのは明白やった。時折、元が寂しそうな顔をすれば、俺に目配せして様子を伺ってくる。
はんちゃんも、この状況はしんどいやろな。
結局、タクシーにすると一人が助手席に隔離されてしまうから、はんちゃんとこっそり相談して電車の方がいいと、2人で決めた。
すかさずはんちゃんが率先して「景色見ながら行きたいから電車で行きたい!」と手を挙げた。このメンバーで、はんちゃんの提案を退ける奴はおらんやろ。
横一列に四人並んで、電車に揺られる。
空がいる手前、はんちゃんの隣には俺が座らせてもらった。元には悪いけど、今は俺も空を優先すべきやと判断したから。
やけど、結局どうしようか。空と元が、仲良くはならずとも和解できる方法があればええねんけど。
ここはやっぱり、はんちゃんの鶴の一声に頼るしかないんか。
ところが、水族館に着いて早々意外な展開が待ち受けていた。
「空さん、ごめんなさい!俺、あの日はんちゃんを取られると思って必死で嘘つきました!」
全力で頭を下げる元。その目の前で、水族館の入場券を握りしめたまま、空がポカンとしている。
いや、はんちゃんも俺もポカンとしている。
今日会ってから空がいる所では反抗的な態度やったから、いつ「もう帰る」と言い出すか、そればかりヒヤヒヤしてたのに。
「……いや、もう、過ぎた事やから、」
空がちらりと俺を見て、助けを求めてくる。そういうところを責めたりせえへんのが、空のええところやな。
「……ちゃんと謝れて偉いな?」
俺が元の頭を撫でると、堪えていたものが決壊したように、元の涙が溢れて止まらなくなった。
俺ら、ええ大人やけど、たまに子供みたいにずるいことをしてしまうこともある。でも、自分を正当化せんと謝れる勇気があるのは、ほんまにすごいことやで。
「……くうちゃん、元、謝ってんで?許すの?許さんの?はっきり言わんと、元、あほやからずっと泣いたままやで?」
「……はんちゃ」
今はんちゃん、元って下の名前で呼んだよな?
これ、元本人は気づいてんのか。それとも「あほ」と言われたことに反応したんか。
いや。
素直に空と元の間を取り持ってくれたことが嬉しくて、顔を上げた。そんな気がした。
「……ッ、イヤや!!」
突然、空が駄々をこねる子供のような、大きな甘えた声を出した。
俺らは知っている。これは空がふざけている時にやるやつや。
「……くうちゃん? 俺と元が付き合ってるかもっていう期間に、くうちゃんは俺になにしたんかな?」
「……。……ごめんなさい、許します」
え、二人にしかわからん暗号で、秒で許したやん。ちょっとわからんようで、わかってしまう。あわよくば、きちんと詳細を知りたいんやけど。
「え、空、何したん?」
聞くのはやめとこうと思った。けれど、ごく自然に口が動いていた。やって、知りたいやん。
「……えー……オボエテナイカナー」
空、すっごい虚無の目をしてるな。それ、確実に覚えてるやつやん。
「……キス……とか?」
元が、泣きそうに悔しそうな顔ではんちゃんに問いかけた。はんちゃんがゆっくり首を振ると、「もう聞きたくない」と元が耳を塞いだ。
もうええやろ。ふざけてるつもりが、元にトドメ刺してるだけやから。
「ほら、もうこの話はええから、みんな、行くで!」
はんちゃんが二人の手を引いて、入り口の方へ歩き出す。俺もおるねんけど、はんちゃんに手は二本しかないし。流石に無理か。
「あ、もとちゃん!」
少し鼻声が聞こえたかと思ったら、左手にぬくもりを感じた。
一時間くらい前、一度触れたその感覚。少し小さいけれど、あったかくて安心感のある、あの手のひら。
「……はよ来な、置いて行かれるで?」
泣き腫らしたその顔で、ニッコリと俺に振り向いた彼に。
――多分俺は、恋をした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!