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ruruha
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「書道部の陰キャメガネ」
いつも、そう呼ばれていた。
バシャッ!
トイレの個室に閉じ込められ、水をかけられる。
「きゃははは!お前、墨汁臭いんだよ!!」
「陰キャ、洗ってやるよ!」
三人組の笑い声が、狭い個室に響く。
久墨すみれは、濡れた制服のまま俯いていた。
教室へ戻る。
すると、自分の机が真っ黒に塗り潰されていた。
「あっれー??どうしたのこんなに真っ黒で!アハっ!」
「書道部なんだから墨汁好きでしょ?いっぱい塗っといたよ!キャハハ!」
「陰キャ汚ったなーい!あはは!」
三人の笑い声。
黒い机。
刺さる視線。
いじめは、二年続いていた。
* * *
ある日の放課後。
「ねぇねぇ、身長高いあんたにお願いしたいんだけどさぁ」
三人組の一人が、わざとらしく笑いながら言った。
「体育館倉庫の窓のとこにボール挟まっちゃって! 取ってくれない?」
「お願い!もう虐めないから!」
期待なんてしていない。
それでも、頼み事を断れない性格だった。
* * *
――体育館倉庫。
「あそこ!あそこにあるやつ!」
高い窓に、ボールが挟まっていた。
すみれは背伸びをする。
あと少し。
指先が届く。
その時だった。
ガラガラッ!!
バタン!!
カチャン。
「……えっ」
振り返る。
閉まった扉。
鍵の音。
慌ててドアへ駆け寄る。
ガチャガチャとドアを引く。
開かない。
「「キャハハハハ!!」」
外から笑い声が聞こえた。
「陰キャには暗闇がお似合いだよ!!」
「あー!暗闇って黒いじゃん!墨汁も黒い!」
「すごーい!めちゃくちゃお似合いじゃーん!!」
笑い声が遠ざかっていく。
すみれは、その場に立ち尽くした。
暗い。
冷たい。
静か。
ドアは開かない。
時間が過ぎるのを待つしかなかった。
* * *
――翌朝。
朝練に来ていた生徒が、倉庫を開けた。
「うわっ!?」
「……おはようございます」
すみれがいた。
静かに床に座り込んでいた。
その出来事は、すぐ学校中に広まった。
けれど、すみれは騒ぎを大きくしなかった。
許したわけじゃない。
ただ――覚えていただけ。
* * *
――放課後――
三人組の一人が騒いでいた。
「ねー、アタシの携帯知らなーい?」
「あー、体育館じゃね?」
「音鳴らしてみよーよ!」
* * *
――体育館。
携帯へ電話をかける。
すると、遠くから着信音が聞こえた。
「ん?倉庫の方じゃね?」
倉庫の扉が少し開いている。
「えー?ボールと一緒に入れちゃったかなぁ?」
三人が笑いながら中へ入った。
その瞬間。
「「「うわぁああっ!?」」」
足元の高さに貼られていたテープに足を取られ、
全員が転倒する。
ビチャッ。
「うぇ……なにこれ!?」
「くっさ!! 墨汁じゃね!?」
「やだ汚っ!!」
その時。
ガラガラッ!!
扉が閉まった。
「えっ!?」
「ちょ、待って!!」
カチャン。
鍵が掛かる。
「閉じ込められた!!」
「最悪なんだけど!!」
「墨汁ってことは……あの陰キャじゃないの!?」
倉庫の外。
すみれは小さく笑った。
「……ふふ。陽キャも、黒い墨汁と暗闇。お似合いだよ」
べーっと舌を出す。
「じゃあ、また明日」
「出せーー!!」
「クソ陰キャが!!」
「しねーー!!」
その時だった。
ポタ……。
天井から、黒い液体が垂れる。
「……え?」
ポタ、ポタ、ポタ。
「なにこれ……」
「墨汁……?」
次の瞬間。
ザーッ!!
「「「イヤアアアアアッ!!!!」」」
大量の墨汁が降り注いだ。
真っ黒な液体。
真っ暗な倉庫。
叫び声だけが響いていた。
校舎には、もう誰もいない。
黒い暗闇が、三人を包み込んでいた。
* * *
――翌朝。
「朝練始めるぞー」
バスケ部顧問が倉庫を開ける。
「うわぁっ!?」
墨汁まみれの三人組が転がっていた。
「んぁー……朝?」
「やっと誰か来たし……」
顧問は顔をしかめた。
「お前ら!!何やってるんだ!!倉庫もマットも真っ黒じゃねぇか!!」
「はぁ!?あたし達じゃないし!!」
「久墨すみれ!!あいつがやったんだって!!」
顧問は怪訝そうに眉をひそめた。
「……はぁ?久墨?」
三人は息を呑む。
「そんなやつ、去年からいないだろ」
「……え?」
顧問は頭を掻いた。
「あー……そうか。今日だったな」
「な、なんだよ……」
「……あいつは去年の今日、この倉庫で自殺しただろ」
「「「…………えっ」」」
静寂が落ちる。
* * *
ズザァッ――。
大きな半紙に、黒い文字が刻まれる。
「よいしょ……うふふ」
長い髪を揺らしながら、少女は筆を走らせた。
真っ黒な墨で、ゆっくりと。
大きく。
『【完】』
「……なんてね」
少女は、くすりと笑った。