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うわあ、今回も最高でした…!お父様(隆)が胃薬握りしめて「姫こそが理」って呟くシーン、笑いと同時に胸が熱くなりました。開発陣の「イエッサー(涙)」も含めて、全員が奏さまのお散歩を守る体制になってるのが可愛すぎます。お父様の涙ぐましい苦労と、運営の胃薬事情、これからも見守りたいです🤍
「シノノメ楽座」の記念すべき初ギルドボス討伐(※初期装備一撃粉砕)を見届け、配信を無事に終えたわたくしは、VR装置(冠)をそっと外して「お庭(セブンスマスター)」から現実世界へと戻ってまいりました。「ふう……本日もとっても賑やかで楽しいお散歩でしたわね」
ふわりと可憐に息をつき、お部屋の姿見で身だしなみを整えてから一階へと下りてまいりますと、リビングのソファには珍しく、お父様(隆)が一人で深く腰掛けていらっしゃいました。
テーブルの上には、手付かずの冷めた紅茶と……なぜか胃薬の瓶が置かれておりますの。
「まあ、お父様。こんなお遅くにどうなさったのですかしら?」
わたくしが首をちょこんとお傾げしてお声をかけますと、お父様はビクッと肩を跳ねさせ、手にしていたタブレット端末を慌てて伏せられました。
「あ、ああ……奏か。おかえり……いや、ログアウトお疲れ様」
「ええ、ただいま戻りましたわ」
「その……奏。お茶でも飲みながら、少し話を聞かせてもらってもいいかい?」
お父様はどこか真剣な、それでいてどこか怯えるような(?)不思議なお眼差しでわたくしを見つめ、姿勢を正されましたの。
「実はね……先日お前が言っていた『セブンスマスター』のことが、どうしても気になってね。開発責任者の知人から『最近なにやら面白いギルドが誕生したらしい』と噂を聞いたのだよ。……奏、お前の遊んでいる『お庭』について、少し根掘り葉掘り質問させてもらっても構わないかい?」
「まあ! お父様が『お庭』に興味を持ってくださるなんて、とっても嬉しいですわ! なんでもお聞きになってくださいませ」
わたくしが向かいのソファへ優雅に腰を下ろしますと、お父様は深く息を吐き、手元のメモ(?)を覗き込みながら、静かにお問いかけになりました。
「……まず、一つ目なのだが。奏、お前が結成したというギルドの名前……確か『シノノメ楽座』と言っていたね?」
「ええ! わたくしたち東雲家の名の下に、皆様と楽しく集う座……とっても響きの良い、素敵なお名前でしょう?」
「……奏。あの世界には数万人のプレイヤーがいるのだよ。本名(東雲)をそのままギルド名にするのは……その、個人情報の観点から少し軽率だったとは思わないかい……?」
お父様が苦しそうに眉間を押さえられますので、わたくしはにっこりと可憐に微笑んでお答えいたしましたの。
「ご心配には及びませんわ、お父様! 画面の端に映った学校のロゴで、皆様すでにわたくしが東雲家の奏だとお気づきでしたから、今さら隠す必要など初めからございませんでしたのよ?」
「「…………ッ!!」」
お父様の喉から、ひゅっと小さな音が漏れましたわ。
「が、学校のロゴ……。モデレーターのmiraというプレイヤーが手動で揉み消していたあれか……いや、知らん、私は何も知らん……」とブツブツ呟くお父様。わたくしはお首を傾げました。
「お父様? お顔色が少しお悪いですわよ?」
「いや、大丈夫だ……! つ、次の質問だ奏! その『シノノメ楽座』のメンバーについてなのだが……」
お父様はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐るお尋ねになりました。
「……【Natuki】という朱色の袴を着た侍のプレイヤーがいるだろう? 彼は……街の安全地帯(セーフティエリア)で他のプレイヤーを『悪即斬!』と叫びながら一瞬で切り伏せたり、挙句の果てには四つん両行……いや『四つん排』になって犬の鳴き声を真似したりしていると聞いたのだが……あれは一体どういうことなんだね!?」
根掘り葉掘りなお尋ねに、わたくしは胸を張ってNatuki様の素晴らしさをお伝えいたしましたの。
「まあ! Natuki様のことまでご存じなのですのね! Natuki様はとっても義理堅く、わたくしとマーブルちゃんを全力でお守りしてくださる素晴らしいお侍様ですわ。昨日はわたくしのために『忠犬』になると仰って、真顔で『くぅん』とお鳴きになってくださったのよ。とってもお茶目で頼もしい方ですわ!」
「お茶目というレベルを超えているだろうがあぁぁぁっ!!??」
お父様が思わず素のお声で叫びそうになり、慌てて咳払いをなさいました。コホン、コホン!
「あ、いや……失礼。……だ、だが奏、街中での攻撃行為(PK)は明確な利用規約違反であり、通常なら即座にBAN(アカウント停止)対象なのだよ! なぜ彼は未だに処分されていないのだ……!?」
「まあ、お父様。システムのお決まりごとなど、Natuki様には関係ございませんわ」
「な、なんだと……?」
わたくしは、Natuki様から教わった至高の真理を、お父様に優雅にお伝えいたしましたの。
「Natuki様がおっしゃっておりましたもの。『運営のルールもペナルティも関係ない。**姫こそが理(ことわり)なり!**』と」
「……ひ、姫こそが……理……」
お父様はガタガタと肩を震わせ、まるで世界の崩壊を目撃したかのようなお顔で天を仰がれました。
「ゆ、利用規約より……我が娘の存在が優先されている……。開発元のサーバー運用ロジックが、一人の侍の狂信的な忠誠心によって歪められている……ッ!」
「お父様? 本当に大丈夫でいらっしゃいますの? お薬をお持ちいたしましょうか?」
「だ、大丈夫だ奏……最後に、最後に一つだけ聞かせてくれ……」
お父様は震える手でテーブルの上の胃薬を掴み、水なしでゴクリと飲み込むと、絞り出すようなお声でお尋ねになりました。
「……今日のギルドボス戦だ。……なぜ、初心者用の初期装備(布切れ)をまとったプレイヤーたちが、一撃で最上級のギルドボスを粉砕できたんだね……? どんな計算式を適用しても、あのダメージ数値はシステム上あり得ないのだよ……!」
「まあ! それはお父様、とっても簡単なことですわ!」
わたくしは胸の前でそっと手を合わせ、満面の笑みでお答えいたしました。
「わたくしが心を込めて『皆様、がんばってくださいませー!』と応援いたしましたら、Rico様が編んでくださったお召し物から素敵な光があふれ出して、皆様が一瞬でとってもお強くなりましたのよ! わたくしたちの『絆の力』ですわね!」
「……き、絆の力(※壊れ性能の応援バフ)……」
お父様は静かに目をつむり、深々とソファの背もたれへと沈み込んでいかれました。
「そうか……絆の力か……。私が何千時間もかけて構築したセブンスマスターの属性バランスも、演算システムも、すべては奏の『応援』ひとつで壊壊(崩壊)するのだな……」
「まあ、お父様? セブンスマスターの開発者様とお知り合いなら、ぜひお伝えくださいませ。『とっても素敵なお庭をありがとうございます』と!」
わたくしが可憐にお辞儀をいたしますと、東雲家の主であり、セブンスマスターの最高技術責任者(CTO)であるお父様は、遠い目をして静かに呟かれました。
「……ああ。伝えておくよ……。『これ以上の仕様変更は不要! 不要でござる!』とな……」
お父様のどこか寂しげで、それでいて全てを悟ったようなお背中に見送られながら、わたくしは「明日のお散歩も楽しみですわね」と、足取りも軽やかにお部屋へと戻るのでした。
【『セブンスマスター』運用開発室・緊急対策会議室(深夜0:15)】
「――おい! CTO(東雲隆)からの緊急全体系命令(オーダー)入ったぞ! 全員デスクにつけ!!」
深夜の運用開発室に、チーフプログラマーの怒号が響き渡った。
モニターの群れに囲まれた室内に、レッドブルと胃薬の匂いが充満する。
「何事ですかチーフ!? また第4サーバーのボスリスポーンのバグですか!?」
「ちゃう! パッチ1.08で実装した【巨神ゴーレム】のログだ! 討伐速度の異常検知(アラート)が全ラインで爆発してんだよ!!」
大型モニターに、1件の戦闘ログが映し出された。
開発陣が「適正レベル99のギルドが10人掛かりで30分かけて攻略する」想定で調整したはずの超級ギルドボス。そのHPメーターが、わずか0.02秒で【百万⇒0】に染まり、消滅している。
「……は? 0.02秒……!? 桁の打ち間違いじゃないんですか!?」
「チーフ、これ完全に外部ツール(チート)使ったワンパンバグですよ! 即刻アカウント永久BAN(BAN)処理に回します!」
若手プログラマーが怒りに任せてキーボードを叩こうとした瞬間――
「待てぇぇぇっ!!! 止まれ!! そのBANボタンを押すなアァァッ!!!」
デスクの影から、凄まじい形相のチーフプログラマーが飛んできて若手の腕を力づくで叩き落とした。
「チ、チーフ!? なんでですか! 明らかな不正アクセスですよ!」
「ログをよく見ろ! 攻撃を繰り出したプレイヤーのIDは【Natuki】! そして……そのPT(パーティー)のリーダーは【kana】だ!!」
「「「「――……ッ!????」」」」
その名前が室内に響いた瞬間、開発スタッフ全員の動きがピタリと止まった。
さながら怪獣映画で「ゴジラ出現」の報を聞いた対策本部のような絶望的な静寂が広がる。
「か、kana……って、あの『初期服のお嬢様』か……!?」
「まさか……あの噂の『親衛隊宗教ギルド(シノノメ楽座)』か!!?」
「そうだ……!」チーフプログラマーは額の汗を拭いながら、震える手で詳細データを展開した。
「原因を解析したぞ。チートでもツールでもない。……プレイヤー【kana】が装備していた特注ドレスの隠しパッシブ『パディシエお散歩バフ』が、彼女の特定の音声ログ(※『応援』判定)を拾って発動。周囲のPTメンバーのステータスが【10000%上昇】した」
「いちまんパーセントォォォっ!!?? なんだその壊れ数値!! 誰だそんなデータ実装したバカは!!」
「神級生産者【Rico】だよ!! あいつが先週の超難関クエストで手に入れた極秘素材を全部注ぎ込んで錬成した特注品だ! 運営の計算式(アルゴリズム)の限界値を力づくで突破してやがる!!」
「じゃあ攻撃力の計算は!? 相手【Natuki】の装備、ただの初期服と錆びた刀(布切れ)ですよ!?」
「【10000%バフ】掛けたら、初期服だろうが木の棒だろうが『全宇宙を壊滅させる超質量』になるんだよバカヤロー!! 物理演算が悲鳴上げてんだろ!!」
若手プログラマーたちは頭を抱えて悲鳴をあげた。
「無茶苦茶だ……! 属性バランスも、装備の階層構造も、僕たちが何千時間もかけてデバッグしたセブンスマスターのゲームデザインが全部崩壊してる……!」
「修正(弱体化)パッチあてましょう! このドレスのバフ効果を削除して、PKしまくってる【Natuki】もセーフティエリア違反でBANです!」
「だからそれが出来ねぇんだよ!!」
チーフが頭をガシガシと掻きむしり、泣きそうな顔で叫んだ。
「さっきCTO(東雲隆)自ら直々に指示が飛んできたんだよ……! **『仕様変更は不要。そのまま放置しろ。下手に介入して彼女の楽しいお散歩を邪魔したら、全責任を取らせる』**ってな!!」
「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇ機能停止(フリーズ)!?!?」」」」
「CTOが言ったんだぞ!? あの規約に厳しい東雲さんが『姫こそが理(ことわり)なり……』ってうわ言みたいに呟きながら胃薬飲んでたんだぞ!? 俺たちが口挟めるわけねぇだろ!!」
開発室に、深い、深すぎる絶望の溜息が充満した。
「……チーフ。じゃあ、僕たちはどうすれば……?」
若手が恐る恐る尋ねると、チーフプログラマーは静かに画面の【kana】とチワワ(マーブル)の可憐な姿を見つめ、ポツリと言った。
「……とりあえず、来週のギルドボスのHPを今の100倍に上方修正しておけ。あと、プレイヤー【kana】の周りのモザイク自動処理フィルターの精度を上げろ。……あのお嬢様の『お散歩』を陰から守るのが、今の俺たち(運営)の裏の仕事だ」
「「「「イエッサー……(涙)」」」」
こうして、全サーバーのプレイヤーから恐れられる『シノノメ楽座』の裏で、開発スタッフたちは今夜も胃を痛めながら、お嬢様の可憐なお散歩環境を維持(モデレート)し続けるのであった。