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フェルを呼んだらジョンさんが胃薬をがぶ飲みした。腰に手を当てて、まるでお風呂上がりの一杯みたいな豪快だ。いやビックリだよ。フェルも唖然としてるし。
「あの、ジョンさん……?」
「いや、失礼。ちょっと想定外の事態が起きてね、胃をケアするために必要なことなんだ。驚かせてしまったね」
「けっ、ケア?」
ケアにしては飲み過ぎて逆に悪そうな気がするんだけど。
「コホンッ! 気を取り直して。彼女がティナのお友だちかな?」
「はい!」
「初めまして、ジョン=ケラーさん。私はフェラルーシア、見ての通りアード人ではなくリーフ人です」
優雅に一礼するフェル。何だろう、品があるなぁ。
「異星人対策室のジョン=ケラーです。君の来訪を心から歓迎します」
「あっ、ティナと一緒で良いですよ。気楽にどうぞ」
畏まったジョンさんにフェルは笑顔で答えた。うん、堅苦しいのは苦手だからね。気楽にいきたい。
「そうかい?分かった。取り敢えず色々と話を聞きたいが、立ち話もなんだ。先ずは此方へ」
案内中、他の職員の皆さんがフェルを見てビックリしてるのが面白い。
「おい、あの娘を見ろ!」
「ティナさんのお友達って聞いていたが……」
「どう見てもアード人には見えないな。いや、あんなタイプも居るのか?」
「いや、ティナさんから聞いている特徴とは一致しない。もしかして別の異星人か!?」
「随分と可愛らしいが、背が高いなぁ。スタイルも良い」
「ティナさんは東洋人に好かれそうだが、お友達は西洋人好みかな?」
「ここが……エデンか……」
「ジャッキーが死んだぞ!」
「しっかりしろ! 傷は深いぞ!」
「誰か牧師を連れてこい!」
うーん、反応が面白い。ただ、何故かジャッキー=ニシムラ(HEAVENタイム)さんが穏やかな笑顔を浮かべて合掌したと思ったら、そのまま静かに倒れてた。大丈夫かな?
いや、朝霧さんが気にしないで良いって合図してくれてるからスルーしよ。
ジョンさんに案内されて2階にある貴賓室へ通された。いや、貴賓室とか言ってるけど実質私の部屋みたいな感じになってる。家具なんかもアード人に合わせたものがオーダーメイドで用意されてる。
このベッドなんか所謂キングサイズで、しかも翼を痛めない超低反発仕様。まるで羽根に包まれているような柔らかさだ。ジョンさんが年収の数倍なんて呟いてたので、全力でスルーしておいた。知らない方が幸せなこともある。うん。
私とフェルは並んでソファーに座り、対面にジョンさんが腰掛けた。
「先ず聞きたいのは、フェラルーシアさんの出自だ。君はアード人ではない。それに間違いはないかな?」
「はい、リーフ星系出身です。それと、フェルで構いませんよ。ティナがお世話になっている人ですから」
「ははは、それは光栄だ」
雑談で幾らか言葉を交わし、私ジョン=ケラーはある種の確信を持った。彼女、フェルは非常に穏やかで思慮深い少女だ。そしてティナをやんわりと諌める様子も見られ、まるで姉妹のような関係性を感じる。
彼女が一緒に居るなら、ティナの暴走をある程度は抑えることが出来るだろう。此方が考えていたプランは修正が必要だな。ティナをわざわざ危ない場所へ連れていく必要はなくなったと見て良い。いや、そもそも大切な来客である彼女に頼ろうとしていたとは……我ながら浅はかな案だった。
いや、あの段階では必要なプランだと確信していたが、フェルの存在があればその必要もないだろう。すぐに担当各所に情報を流さねば。
「では、フェル。君はアード人とは違うと判断するよ。そこで君が食べられないもの、信条その他の理由で出来ないことを教えて欲しいんだが」
「あっ、ジョンさん。食べものについては心配しなくて良いですよ。私が渡したデータはフェルも食べられるものを選びましたから」
「そうなのかい?それは非常に助かるな」
食べ物が違うとなれば、準備する際に混乱が生じる。だがティナと、つまりアード人と同じならば手間も省ける。聞けば、アード本星には少なくない数のリーフ人が居るみたいだし、交易の相手が増えるのは地球としても悪い話じゃない。
「どうだい?地球の食べ物は口に合ったかな?」
「はい、特にお野菜の味や種類には感動しました」
「それは良かった。お土産はどうしても保存食になってしまうが、地球に滞在中は新鮮な食べ物を満喫して欲しい」
「ありがとうございます。出来れば森を散策したいのですが」
「おお、もちろんだ。手配しよう」
フェルの見た目は物語に出てくる妖精のそれだ。コンパクトではない。長身だし発育も良い。だが、物語同様自然に強い関心があるようだ。
となれば、最初の観光地は人工物ができるだけ少ない場所が良いだろうな。考えてみればいきなり地球人がたくさん居る市街地などを案内しても、気が休まらないだろう。
予定を組み直すか。
「ティナ、最初の観光地だがフェルの要望通り地球の自然を満喫してもらう方向で構わないかな?」
「構いませんよ?フェルはまだジョンさん以外の地球人を知りませんし、騒がしい場所が得意な娘じゃありませんから」
「うむ、分かった」
「ところでカレンとメリルさんは?」
「ああ、カレンなら定期検診だよ。メリルはその付き添いでね。ああ、小さな頃から受けているものだから心配は無用だ。良ければ皆にフェルを紹介したいのだが」
「お願いします。フェル、良いよね?」
「はい、お願いしますね」
カレンの定期検診は嘘ではない。ただ、いつもの検診ではない。
カレンは幼い頃から内臓に疾患を抱えていたんだが、昨日の検査で全てが正常値を示した結果が出た。これはメリルも同じだ。メリルに疾病は無いのだが、明らかに数値が劇的に改善していることが分かった。
両者の共通点は、ティナの治癒魔法を受けたことだ。悪いことではないのだが、一応検査を受けておくことにした。
……この事は極秘扱いにしているが、秘密を維持できるとは思えない。いつの日か露見するだろう。厄介事が増えたが、私としては愛娘の人生に陰を落とした問題を解決してくれたことの方が大事だ。ティナの好意で色々凄いことになっているが、この程度は笑って済ませるさ。何故なら彼女との出会いは、私の人生にかなり光を与えてくれているのだから。