私達はジョンさん達と一緒に異星人対策室の本部ビルにやって来た。なんか来る度に規模が大きくなっているような気がする。今もビルの周りに新しい建物をいくつも建設しているみたいだし。
「どんどん業務が拡大していてね、部署が増える一方なんだよ」
「そんなにですか?」
「だが、悪いことじゃない。少なくとも合衆国が君達との交流を真剣に考えている証だよ」
車内でジョンさんから教えて貰えた。異星人対策室も順調に大きくなっているけど、その分ジョンさんの負担も増えている。何とかしてあげたいけど。
『栄養剤は種類豊富で備蓄も十分に有ります』
「あげないからね?アリア」
『それは残念です』
アリアは私のやらかしを期待している部分があるんだよなぁ。アードの物質が地球人に及ぼす影響を知りたがっている。これはアリアだけじゃなくてばっちゃんもだし、最近ではフィーレも興味を示した。ただ。
「興味はあるけど、私ナマモノは専門外だから無理」
とのこと。
「ああ、そうだった。済まないが今はカレンとメリルも不在でね。数日は掛かるだろう」
「二人は何処に?」
「例の基地だよ。まあ、詳しい話は中でしよう」
例の基地と言うのは、合衆国の荒野に建設された秘密基地だ。異星人関係の研究は主にここで行われていて、私が持ち込んだトランクや医療シートも基本的にそこで保管されている。
今回の交易品も直接基地へ持ち込むつもりだ。目立つけど光学迷彩を使えば銀河一美少女ティリスちゃん号の巨体も隠すことが出きる。前より輸送が楽になるね、フィーレの作業ポッドもあるし。
異星人対策室の本部ビル、一階ロビーで私達は異星人対策室の皆さんから出迎えを受けた。何となく家に帰ってきたような安心を感じるのは、何度もお世話になっているからだろうなぁ。ばっちゃんやフィーレも直ぐに馴染んでくれるだろうし。ジョンさんは既に二人の部屋も用意してくれたみたいだ。
「四階には意外と空き部屋が多くてね。後十人くらい増えても十分に対応可能だよ」
「二百人くらい増えたらどうするかな?ジョンさん☆」
「にっ、二百人かぁ……その時は専用のホテルを借りるか、事前に知らせてくれたら対応は出来るよ。だが、そんな予定があるのかい?」
「あるんですよ、それが。まあ、月のお話にも関わることですけど」
ばっちゃんの言葉を聞いてジョンさんは笑顔をひきつらせたけど、実は予定があったりする。月に拠点を構築する予定だけど、そこにはセシルさん達ラーナ星系の生き残りの人達が移住する予定だ。
アード人にとって宇宙は恐怖の対象。そんな場所から数百年ぶりに帰還した人達を快く思わない人も多い。ばっちゃんも頑張っているし、ドルワの里の皆も協力的だ。でも差別などの問題が発生していて、そこにリーフ人が介入してきて事態をより複雑化させている。
アード人は仕方ない。悪いのはセンチネルだからね。セシルさん達も受け入れて貰えるようにと張り切っていたし、時間と共にゆっくりと理解を得られれば良い。そう考えていたのに、リーフ人の介入で全てが台無しになった。
リーフ人は大規模なネガティブキャンペーンを展開して恐怖を煽りに煽って、いつの間にかラーナ星系の生き残りを受け入れればセンチネルにアード本星の場所が露見するなんて意味不明な論調にまで世論を誘導していた。
「要はティナちゃん達への嫌がらせだよ。あの陰湿ミドリムシ共はどんな手を使ってもフェルちゃんを排除したいし、フェルちゃんを助け出したティナちゃんも悪意を向ける対象だ。本当絶滅しないかな、あいつら」
ばっちゃんが珍しくイライラしながら教えてくれた。その話を聞いた時は私も頭に血が昇ったのを覚えてる。もちろんザッカル局長を始め皆で否定したけど効果は薄くて、パトラウス政務局長も随分と頑張ってくれたみたいだけど、アード人とリーフ人の繋がりは私が考えている以上に深かった。
大半のアード人にとってリーフ人は愛すべき隣人なんだ。アード人とリーフ人の夫婦は珍しくないし、ハーフの子供も少なくはない。その陰湿な本質を隠してきたからね。少なくとも私がフェルを連れて帰るまでは。
こんな状況でセシルさん達の身に危険が迫っている。だから、アードを離れる。
「なるほど、つまり拠点というよりは居住地かな?」
会議室で私はジョンさん達に事情を説明した。アード内部の問題を話すことはばっちゃんに禁止されたから、移民の話だけをしたけど。
「はい。あの、無理ですか?」
あの後調べたら、月面基地建設に合わせて新しく制定された国際宇宙法で月は地球の共有財産と言うことになっていた。私が送ったメッセージをそのまま解釈したら地球の財産を寄越せって言っているようなものだからね。地球では大騒ぎになったらしい。ごめんなさい…。
「いや、問題ないよ。用意した土地が足りて安心したよ」
アリアとフィーレが試算した必要な面積のデータを渡したんだけど、ジョンさん達はホッとしていた。
「用意してくれたんですか?」
「実は国際宇宙法に月に関する別の項目もあってね」
月は共有財産としながらも、統合宇宙開発局への出資額に応じて各国に土地の一部を割り当てているらしい。国際会議の後ハリソンさんと美月さんが直ぐに動いて、合衆国と日本に割り当てられている土地の一部を提供することになったんだって。
「強かだねぇ☆」
ばっちゃんの言葉にジョンさんは苦笑いだ。
「各国は納得したんですか?」
「それについても問題ないよ。むしろこれだけの土地を用意できるのは我が国と日本だけだ」
「中華は?」
不安になってつい聞いてしまった。
「ああ、中華は国際宇宙法に反対して関連する条約に批准していないからこの件とは無関係だよ。黄卓満主席は悔しげだったそうだ」
「ザマァ☆」
「ちょっとばっちゃん」
まあ、ザマァだけどさ。
「それで、我々に出来ることはあるかな?月面基地もあるし、多少は協力できるよ」
「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ。ね、フィーレ」
「邪魔しないなら問題な~し」
必要な資材は銀河一美少女ティリスちゃん号で持ち込んでいるし、フィーレが作業用ポッドを山ほど用意してる。後はゴーサインがあれば今すぐにでも建設を開始できるんだ。
「分かった。じゃあ、大統領には私から説明しておくよ」
よし、月の問題は解決だね。
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