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檻の中の苺
エピソード6
静かな部屋で、腕時計の秒針が動く音が響くたびに、心臓の鼓動音が高まっていく。
約束の時間まで残り十数分。
いったいどのような方なのだろうと姿を想像するが、そういえば今は視界がほとんど機能しないのを忘れていた。姿を詳しく見られないことを少し残念に思ったが、だとしても助けてくれた人と面と向かって話せることに正直、わくわくしている。
あの日こっそりと抜け出したときの道と同じ、緑々に囲まれた道を歩く。
あのときは自分がなにをするべきなのか分からなかったが、今は明確に分かる。
大地を踏み歩くたびに微かに響く岩の音や草の音が、まるで僕のことを応援しているように聞こえた。
着いた。
あのときよりも少し綺麗になった、白色で豆腐型の研究施設。ボディーガードには近くの日陰で待っていてもらい、向かって左側にあるドアに向かう。そして、躊躇る指に力を込めてインターホンのボタンを押す
ピンポーン、ピンポーン
押せた…押せた…!
静かで閉鎖的な部屋に突如としてインターホンの音が鳴り響く。
ブルー
「ッ…!来た…!」
たどたどしくも、どこか期待に満ちた足取りでゆっくりとドアの方向へ向かう。
ガチャッ
ドアを開けた瞬間、曇った視界に明るい光がなだれ込んだ
そして、あのときの甘いいちごの匂い。心地よいその匂いを吸い込んだ。あぁ、この人が、俺を助けてくれた人なんだな。
ゆっくりと開かれた扉からおずおずと顔を出した、あのときと変わらず光が当たると青や白などの色に反射する髪に、煌めく色白い肌…。あのときとは違って髪を結び、眼帯を付けていたが美しさが損なわれるどころか余計に素晴らしく見えた。
数秒間、視界と嗅覚でお互いの存在を確認し合ったあと、思い出すように口を開く。
レッド
「ッ…はっ、はじめまして…!
2日前に電話をかけた者です…!」
ブルー
「あ、はじめまして……!
あの…えっと…よかったら…上がってください…」
レッド
「ッ…!ありがとうございます!
お邪魔します…!」
お互い控えめで、慣れない会話。
ありふれた会話だが、この一言一言を発するときの勇気とドキドキは確かなものだった。
しかし、1つ疑問が浮かぶ。
なにかマスクやメガネで顔を隠しているわけではないのに、相手は僕の顔を見てもなにも驚かない。僕の顔をあまり知らないのか…?出会った瞬間から驚かせてしまう心配がなくなったのはいいが、あまり知られていないとなると…少し悲しい。
おどおどとした動きで、前に楕円形の木製テーブルが置いてあるソファーに座る。
ソファーに向かう際、彼はどこか足を床に軽く擦るように歩く。
レッド
「…失礼ですが…足にご不便があるのですか…?」
ブルー
「……あぁ、すみません、まだ説明をしていませんでした。少し前に左目に薬品が入ってしまい…治療にしばらくかかるんです。
そして俺…私は右目が生まれつき弱視なので、今はあまり前が見えていないんです。
来てくださったのに早々、申し訳ないです…」
説明を聞いた瞬間、点と点が繋がって疑問が解消されたと同時に、焦りを感じた。
目があまり見えていないから、ゆったりと歩き、僕の顔を見ても驚かない。本来なら、都合がいいはずだが…僕の顔をよく見ても気付いてくれないことにより、私情だが1つの問題が発生する。
それは…つまり、「自分の口から『国王』だと伝えなければならない」ということだ。
僕はてっきり、顔を見られて驚かれ、それから説明をするつもりだった。だから、自分の口から伝えるシミュレーションなど、一回も行っていない……。戸惑いのあまり、思わず声が固まる。
ブルー
「…?どうか…しましたか…?」
レッド
「あっ…いえ…なんでもございません…」
ようやくソファーに腰を下ろした彼は、しーんとした雰囲気に耐えられなかったのか口を開いた
ブルー
「…そういえば…電話のときにお互い名前を言うのを忘れていましたね…!私の名前は『ブルー・ストロベリー』です。」
レッド
「あ、えっ…と…」
まずい
……まずい
どうしよう。声が出ない。
決断したのに。「隠し事はしたくない」と。
それなのに、今の僕は名前をどう誤魔化すかということばかりを考えている。
もういっそのこと、時を止めてくれと神に願う
ブルー
「大丈夫…ですか…?」
心配そうな瞳でこちらを上目遣いで見つめる白い右目。
銀色の髪と色味が合っていて、可愛かった
「銀色」ーーその単語が脳内を巡る。
そして、咄嗟に口を開いた
レッド
「わ、私の名前はっ…!…『シルバー・ストロベリー』といいます…!」
偽ってしまった。
あれだけ決意を固めて、距離を置かれてもいいから本当の僕を見せたかったのに。
ブルー
「…?…『シルバー・ストロベリー』と言うんですね…!ふっ…名前を知れて嬉しいです…シルバーさん。」
あぁ、可愛い。
先ほどまでは緊張で少々表情が固まっていたが、僕の偽名を聞いたら緊張が緩んだような優しい顔をして、微笑んでいる。
こんな、一国の王という、自分の地位を未だに受け止めきれず、たびたび自責の念に溺れている僕に。
目が見えにくく、僕の身分を知らないからなのは分かっているが…
「王」ではなく、「僕」に……
心の奥底から微笑みかけてくれるブルーさんの笑顔は、他のどんな人よりも、宝石よりも、特別で……大切にしたいと感じた。
しかし、そんな純粋で愛おしいブルーさんに対して、今僕は嘘をついている。そのせいか、罪悪感の鎖がブルーさんの可愛らしさで落ち着いていた心を締め付ける。
その後は少し世間話をした。
そして、また明日、この家で会う約束をした。その間も、嬉しさと申し訳なさが胸の中で渦巻いていて、会話に集中できなかった。
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#無理矢理