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その日の夜はなかなか眠れなくて気づくと日が昇り始めた。なんか落ち着かなくてそわそわしていると部屋の外から声がした。
「俺だけど。起きてる?」
依零さん?昨日あんなに稽古付けるの嫌がってたのに……。吾郎さんの言ってた事は本当なのかもしれない。私は勢いよく扉を開けた。
依零さんは少し驚いた顔で私を見てすぐ目を逸らした。
「稽古つけてくれるんですか?!」
「それ以外に俺が君に用事なんてあると思う?」
「そ、そうですよね…。よろしくお願いします!」
「君、こんな所に来てなんでそんなに元気なの?」
「え?」
「ここには訳ありな人しか来ない。君も訳あってここに来たんでしょ?なのに、なんでそんなに明るく振る舞えるわけ?」
「暗くなってくよくよするより前向いた方がいいじゃないですか!周りが暗いとその場の空気全体暗くなっちゃうので私は少しでも明るくしたいだけです」
「ふーん…」
「そんな事より、稽古お願いします!」
「ん、行くよ」
衣零さんはそう言うと歩き出した。
「君は弓と刀ならどっちがいい?」
「え、?」
「俺は弓と刀の二刀流だ。だから、どっちの稽古をつけたいのか聞いてるの」
「あ、う〜ん……刀がいいです」
「分かった。何でそんな嬉しそうなの?」
「え、?だって、昨日はあんなに乗り気じゃなかったのにちゃんと稽古つけてくれるんだなって」
「勘違いしないでくれる?俺は君に稽古を付けるんじゃない。稽古で諦めてもらうためだ」
「えっと、どういう事ですか?」
「君みたいな弱そうな子は戦に出ても無駄死にするだけだ。昔例外としてすごい女戦士がいたみたいだけど、それ以来女が隊員になるのは君が始めてだ。ここには色んな役職がある。君は諦めて料理や救護にまわった方がいい」
「そ、そんな事言わないでください…私、頑張りますから。稽古付けてください」
「どうしてそこまでするの?俺には分からない」
「衣零さんの事は全然知りませんし、衣零さんも私の事何も知らないでしょ。理由なんか聞かないで稽古付けてください…。お願いします…。ものにならなければ私を殺したって構いません」
「っっ……。何、その言い方。俺が君を殺すなんてありえないんだけど(さっきまで笑ってたのにいきなり曇った顔だ)」
「そうですか。じゃあ、稽古付けてください」
「分かった。まず、刀を抜くところから……」
衣零さんは厳しく丁寧に教えてくれた。それも夕方まで付きっきりで。やっぱりこの人は優しい人だ。
「今日はここまで。どうする?諦める気になった?」
「いいえ。明日もお願いします!」
「聞くだけ無駄だったかな」
「あ、今笑った!」
「は?」
「衣零さんずっと怖い顔してるから笑った顔見れて嬉しい!衣零さん、笑ってた方がいいですよ」
「余計なお世話だよ。それに、俺は笑ってない」
「そういう事にしておきます。ありがとうございました!また明日!」
衣零さんは返事をしてくれなかったけど、少し距離が縮まった気がする。