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【ab視点】
『元貴君狙いで藤澤さんに近づいたんでしょ?』
風磨とのやり取りを涼架君に聞かれた日、当然だけど涼架君は家に帰って来なかった。電話をしてももちろんつながらない、メッセージを送っても既読にならない。あの時若井さんと一緒だったし、あの状態の涼架君を一人にするとは思えないから、多分若井さんか大森さんの家に居るだろう。どこにいるか心配しなくていいからその点は安心だ。
涼架君に会えないまま1週間が過ぎた。付き合い始めた時に入れたスケジュール共有アプリを開くと、涼架君のスケジュールが確認できる。一か月の間、同じ番組の収録スケジュールは1つだけ。同じ業界に身を置きながら接点なんてほぼないに等しかったのだと改めて思い知らされる。
このまま終わってしまうのだろうか…?
いや…そうはさせない。
「絶対に逃がさない…。」
拳を強く握りしめた。
今日は久しぶりに9人揃っての音楽番組の仕事。尚且つ、出演者に涼架君達の名前もあった。
「おはようございます。」
局に着き楽屋入りすると、舘さんと翔太が来ていた。
「おはよー、舘様、翔太。」
「おはよー、阿部ちゃん。」
「おはよう、阿部。」
「まだ二人だけ?」
「俺と涼太近くで買い物しててそのままこっち来たから。」
「ゆり組ごちでーす。」
笑いながら荷物を置き、
「俺ちょっと知り合いに挨拶してくるね。」
「「いってらー。」」
涼架君の楽屋へと向かった。
「申し訳ありません。ただ今打ち合わせ中でして。」
涼架君のマネージャーさんが扉の前に立ちはだかっていた。
「そうですか…。」
涼架君と俺が会わないようにしているんだろうけど、本当に打ち合わせの可能性だってある。俺はすごすごと自分の楽屋に戻ると翔太が驚いた。
「あれ?早かったね。」
「なんか打ち合わせ中だった。」
「そっか。」
楽屋には既にほかのメンバーも来ていて、あいさつをしつつ奥のソファーに身を沈める様に座った。なんとなくスマホを見るが、もちろんのこと涼架君から着信もメッセージも来ていない。思わず小さなため息が漏れた。
「阿部ちゃんどうしたの?」
いつのまにか隣に座っためめが、スマホ画面をぼーっと見ている俺の顔を覗き込んできた。
「いや…別に…。」
「藤澤さんと喧嘩でもした?」
小声で聞いてくる。
「喧嘩って言うか…。」
傷つけた。馬鹿なことをした。全て俺のせい。
楽屋がノックされ、入り口近くに居たマネージャーが返事をして扉を開けた。
「お疲れ様です。本日はよろしくお願いします。」
なんと、大森さんと若井さんが入って来た。ただ、涼架君の姿はなかった。メンバー全員立ち上がる。
「わぁ!こちらからごあいさつに伺わなきゃいけないのにすみません!今日はよろしくお願いします!!」
二人の姿を見て、Mrs.大好きな佐久間が嬉しそうに前に出てあいさつする。
「よろしくお願いします。ところで…。」
大森さんはちらりとこちらを見た。
「阿部さん。ちょっとお話しませんか?」
笑顔で言うが目が笑ってない。
「あの、涼架君は…。」
「阿部さん。」
「はい…。」
有無を言わせぬ圧力に、俺は力なく頷いた。異変を感じたのか、メンバーが不安そうに俺を見る。
「あの、阿部が何かやらかしました…?」
恐る恐るといった風に照が大森さんに聞くが、大森さんは営業スマイルで
「いえ、俺達が阿部さんとお話ししたいだけですよ。」
俺は死刑執行前の囚人のような心持で大森さん達について行こうとすると、隣に居ためめが俺の肩に手を置いて引き留めた。
「めめ?」
めめは真っすぐ大森さんを見て
「大森さん。」
「どうしました?目黒さん。」
「以前お話しした時の事覚えてますか?」
話?めめ、大森さんと何か話したのか?
「あぁ、廊下で話した時のことですか?もちろんです。」
「俺もついて行っていいですか?」
大森さんはじっとめめを見つめ、一つ頷いた。
「いいでしょう。」
そう言って、大森さんと若井さんは楽屋を出た。
「めめ、一体なんなの…?」
ふっかは不安そうに聞くが、
「後で話す。とりあえず行ってくる。」
めめは俺の背中を押し、楽屋を出る。そこでは、大森さんと若井さんが待っていた。
「どうぞ、こちらです。」
大森さん先導で、まるで連行されるように俺とめめは付いて行った。
Mrs.用に準備されていたリハ室へとやって来た。扉の前には先ほどの涼架君のマネージャーがいて、じろりとこちらを見ていた。中に入るとそこには10人くらいの男性女性がいてマネージャー同様にこちらを見ていた。
「どうぞ、お座りください。あぁ、目黒さん用にもう一つ椅子を出させます。」
大森さんの言葉に、めめは
「いえ、俺は大丈夫です。」
大森さんと若井さんが椅子に座り、俺も少し離れて向かい合わせに置かれた椅子に座る。めめはそんな俺の斜め後ろに立った。
「先に説明しておきましょう。こっちはうちのバンドメンバーとスタッフ達です。」
大森さんは自分たちの後ろにズラリと並んだ人たちを見て言った。
「藤澤と阿部さんのことは…まぁ直接教えたわけじゃないですがなんとなく知ってます。」
「そうですか…。」
「なので、皆怒ってます。」
軽い感じで言うが、声色はそうでもない。隣に居て一切喋らない若井さんの視線は人殺せるんじゃ…と思う程冷たく、更に後ろから飛んでくるいくつもの鋭い視線も痛かった。
あぁ、涼架君。大切にされているんだな。
「さて、阿部さん。話の内容は大体見当ついてますね?」
「…菊池とのやり取りをりょ…藤澤さんが聞いて…っていうのですよね…。」
「阿部さんの知略は否定しません。俺も似たようなことしてますし。ですが自分のことは棚に上げます。」
にっこり笑った大森さんからはまるで相手を呑み込んでしまう様な圧が溢れていた。
「藤澤を傷つけた事、ただで済むと思いますか?」
蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなのだろうか。声が出せないし、何ならうまく息ができない。
「…..。」
その時、右肩に何かが触れた。見ると、めめが視線は前を向いたまま左手をそっと俺の右肩に乗せていた。
(いつのまにか立派になって…。)
年下が背中守ってくれてるんだ。俺もしっかりしないと。
「大森さん、若井さん。藤澤さんと話させていただけませんか?」
とりあえず話をしないと始まらないし終わらない。終わらせたくない。
「しばらく藤澤はそちらの家には帰りません。なので、連絡も取らないでください。藤澤が自分で決めるまで待ってください。」
「藤澤さんはなんて…。」
「今は会いたくないそうです。」
「そうですか…。」
リハ室を出て楽屋へ帰る。
涼架君には会えなかったけど、停滞していた問題が動き出した。時間がかかるかもしれないけど、涼架君の連絡を待つ以外今俺にできることは何もなかった。
「阿部ちゃん、風磨君と何話したの?」
「あぁ…、えっと…。」
ここまで巻き込んでるんだ。言わないわけにはいかないよな。
「昔さ、有名処のチームの3番手とか4番手とかの人と仲良くなって、最終的に1番手の人と仲良くなる的なことをゲーム感覚でやってたわけよ。」
「ふーん?」
「そうすれば、相手がどっかのメディアで俺の話題を出す時は「SnowManの」って付くわけじゃん。ステマできんじゃないかなって。」
「あー、なるほど。」
「そうじゃなくても、俺が相手にメンバーのいいところとかを話してたら、俺以外のメンバーがどこかで共演した時も可愛がってくれるかなって。」
「すごいね!そんなことまで考えてたんだ。」
「えっと…呆れたりしない?」
「え?むしろすげぇって思う。俺じゃそんなこと思いつかないし。」
「そっか…。」
「で、それがどう藤澤さんと繋がるの?」
「…話の流れから察していただきたかったです…。」
「え?」
「涼架君と仲良くなったのも最初は大森さん目当てだった?」
「あぁ、なるほど。ゲーム感覚で藤澤さんに近づいたんだ?」
純粋が故に真っすぐな刃は俺の心臓を抉る。
「そ、そうだけど…。」
「それを風磨君と話してる時に藤澤さんに聞かれたってことか。なるほど。」
「…めめの方は?大森さんと話たって。」
「以前大森さんからくぎを刺されてた。藤澤さんを傷つけたらチーム総出でお礼参りするって。」
「お礼参りって…。愛されてるんだね、涼架君…。」
他チームのスタッフでもタレントにそんな態度取る人は常識的に考えてNGだし下手したらクビ案件だ。
(これだけ涼架君がみんなに愛されてるなら、そりゃ俺に殺気も飛ばすよな。)
傷つけたのは自分だし、殺気向けられてるのも自分だけど、大切な人が沢山の人に大切にされているのを知るのはとても嬉しかった。
「だから、阿部ちゃんは俺が守るって言った。」
「俺?」
「キャンプの時言ったでしょ?阿部ちゃんが自分を苦しめたりとか辛い気持ちになった時は、俺が阿部ちゃんを守るって決めてるって。」
「そういや番組でそんなこと言ってたっけ。」
椅子に座らずに背後に立ったのは、殺気を放っていたスタッフ達から俺を守るめめなりの姿だったのかもしれない。
「ありがと、めめ。」
「しかし…。」
「どうした?」
「大森さんもデススマイル持ちだったのか…。」
「デススマイル?」
楽屋に戻るとメンバーが駆け寄って来た。
「一体何があったの?!」
佐久間の言葉に、めめは俺を見る。
「もう全部話した方がいい。大丈夫、俺達は仲間なんだから引いたりしないし、ずっと一緒にやって来たんだから、それが原因で関係性が壊れるなんてことはない。」
「うん…。」
マネージャーには誰も入ってこないように外で待機してもらい、今までのことを話した。
涼架君と付き合てること、同棲してること、風磨と話していることを涼架君に聞かれたこと、そして風磨と話した内容が事実ということ、涼架君を傷つけたことに対してあちらのチームが怒ってること等。
康二が思い出したように手を叩いた。
「前阿部ちゃんが言ってた向日葵みたいな人って藤澤さんやったん?!」
「そう…。」
「つか阿部、色んなジャンルの人に話しかけに行くなとは思ってたけどそんなことしてたのか。」
舘さんの言葉に小さく頷く。怒られるかと思ったが
「一人で背負わせてごめんな。」
「え?」
照も困ったような顔をして、頭を撫でてきた。
「もうそんなことしなくていい。俺らは俺ららしくやって行けばいいんだから。」
「うん…。迷惑かけてごめん…。」
「誰も迷惑だなんて思ってねぇよ。」
するとふっかが
「俺前に阿部ちゃんから聞いてたんだよ。周りから崩しに行く話。」
「そうなの?」
「俺ふっかにだけは相談してたんだよね。でもミイラ取りがミイラになっちゃった。」
「何も力になれなくてごめん。」
「ふっかのせいじゃないよ…。」
力なく笑う。何か考えていた翔太が
「風磨さ、わざとじゃね?タイミングばっちりすぎるもん。」
「俺もそう思ったんだけど、流石に偶然だと思う。でも、風磨も涼架君狙ってたからあそこで俺に言ったのは意趣返しのつもりだったんだろう。」
「藤澤さん人気あるんだね?!」
ラウールが驚く。
「実際に話してみると分かると思うんだけど、大森さんにも負けない魅力が涼架君にはあるんだよ。」
「分かる!あのふわふわした感じいいよね。俺は別に阿部ちゃんみたいな感情はないけど、箱押しだから藤澤さんも好き!」
うんうんと頷く佐久間。しかし俺を見てびっくりした表情をしてさっと照の後ろに隠れた。
「どうしたの?佐久間。」
俺が首をかしげると、めめがため息をついた。
「阿部ちゃん、デススマイル出てる。」
「デススマイル?」
そう言えばさっき大森さんも持ってるとかめめが言ってたな。
「阿部ちゃん、ガチギレの時笑顔になるでしょ?自分では感情抑えてるつもりかもしれないけど、長年一緒に居る俺らには漏れ出た殺気分かるからね。」
「そうなんだ…。気づかなかった。」
気を付けないと…。
「この前9人での食事会で阿部ちゃん途中で帰ったじゃん?あの時もデススマイル出てたから。ちなみにあの時の原因はなんだったの?」
「大森さんが悪戯して、涼架君のスマホから写真送って来た。」
写真をみんなに見せる。そこには自撮りする大森さんと横で寝ている涼架君の姿。”あぁー….”という声がメンバーから零れた。照のうしろからひょっこりはんした佐久間が
「とりあえず阿部ちゃんがマジで藤澤さん好きっていうのは分かった!」
「うん…。」
どうしようもないくらい好きなんだよ…
うちと涼架君のところが同じ音楽番組に出演と言っても、同じ空間でトークするというものはなく、各チームが曲を披露した後、与えられたテーマでメンバーがトークをし、最後に大きなボードにサインをして終了。つまり、会う確率は限りなく低い。順番が前後の場合すれ違うことはたまにあるが、今日はあちらのチームは厳戒態勢だろうから、エンカウントさえ許されないだろう。
曲披露とトークが終わり、ボードにサインをする。他の出演者もサインするボードなので、9人もいる俺たちはなるべく端に書くようにしている。いつも順番が最初の照は上の端に書くので俺達もその周りに書いていくのだが、今日は珍しく下の方に書き始めた。なんとなく珍しいなと思っていると、佐久間も同じだったのか
「え、今日下?珍しっ。」
「俺気付いたんだよ。いつもごめんな、佐久間。届かなかったよな。」
「いや届くわ!」
なんだかんだ言いつつ皆が書いていく。今日は最後だった俺に先に終わった翔太が油性マジックを渡してきた。
「ちゃんと空けてっから。」
「え?」
順番が回って来た時、胸が高鳴った。Mrs.のサインだ。
(涼架君…。)
涼架君のサインの左に少し空間があり、それを囲むようにして他のメンバーは自分のサインを書いていた。
「そういえば今日藤澤さん自分でサイン書けたらしいよ。」
どこで仕入れて来たのか、佐久間がにゃははと笑った。いつもは若井さんが涼架君のサインまで書くというのがお決まりのパターンだったけど、今日はちゃんと自分で書けたらしい。
「そうなんだ(笑)」
皆が空けておいてくれた涼架君の左隣に、自分のサインを書き込む。
”ありがとう、みんな”
心の中で呟いた。
今日も一人寂しく自宅に帰る。しかし玄関を開けると
「え?」
涼架君の靴があり、リビングの電気がついていた。急いで中に入り、リビングの扉を開ける。
「涼架君?!」
リビングのソファーに涼架君が座っていた。
「ごめん!涼架君!!あの、言い訳にしかならないけど俺の話を聞いてほしい!」
すると、涼架君はすっと立ち上がり振り返った。
一週間前より痩せて…というかやつれた様子で目の下に隈もできている。きっと寝れてないんだろう。
「僕、この家出て行くね。」
「え?!」
いきなりの爆弾発言に頭の中が真っ白になる。
「元の家も引っ越しすることにしたから。」
「そんな….。」
自業自得だと分かっていても、認めたくない。
「急に引っ越しだなんて…。」
「荷物は一か月以内に片付ける。それが終わったら合い鍵返すよ。」
ふと、ローテーブルの上で何かが照明の光を反射してきらきら光っていた。
涼架君にあげたピアスとネックレス
もう、俺の色を付けてはくれないのだろうか….。
「涼架君、俺はっ。」
「分かってる!」
「!?」
「僕の花吐き病が治ったんだもん。今の亮平君の気持ちは嘘じゃないって分かってる!でも、どうしても苦しいんだよ…!!」
涼架君の瞳から大粒の涙が溢れてきた。
「亮平君が好き、亮平君と一緒にいたい、亮平君と離れたくない。でも、もしかしたら亮平君は違うかもしれないって…。」
「俺も同じ気持ちだよ!!確かに入りはクズだったけど、涼架君が好きなのは本当だよ!」
「僕ってほんとマヌケだよね。察しが悪いっていうか….。亮平君の意図に気づかず…イライラしたでしょ?元貴紹介できなくてごめんね。」
「大森さんは関係ないっ。」
「関係なくないよ。だって僕は今までもこれからもずっとMGAだから。」
涼架君がこちらへ歩いてきて、目の前で立ち止まった。
「さよなら、亮平君…。」
【続】
【小話】
目黒「阿部ちゃん、デススマイル出てる。」
阿部「デススマイル?」
目黒「阿部ちゃん、ガチギレの時笑顔になるでしょ?自分では感情抑えてるつもりかもしれないけど、長年一緒に居る俺らには漏れ出た殺気分かるからね。」
阿部「そうなんだ…。気づかなかった。」
目黒「この前9人での食事会で阿部ちゃん途中で帰ったじゃん?あの時もデススマイル出てたから。ちなみにあの時の原因はなんだったの?」」
阿部「大森さんが悪戯して、涼架君のスマホから写真送って来た。」
佐久「とりあえず阿部ちゃんがマジで藤澤さん好きっていうのは分かった!」
阿部「うん…。」
宮館「….。」
渡辺「どうした?涼太。」
宮館「阿部。」
阿部「なに?舘様。」
宮館「俺、藤澤さんと漢字お揃いだわ。”涼”って。」
阿部「…。」デススマイル
ラウ「え?!そんなんでもデススマイル出るの?!」
宮館「(笑)」
岩本「あ、じゃあ俺も藤澤さんと同じメンカラ。」
阿部「….。」
佐久「それはいいんだ?」
阿部「黄色いっぱいいるしね。」
向井「確かに。」
深澤「あ、はい!俺藤澤さんと同じ難しい方の”澤”。」
阿部「どうでもいい。」
深澤「どうでもいいってなんだよ!」
コメント
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この作品好きすぎてうずうずしてます。どうなるんだろ!仕事中も考えちゃってました。仕事しろよってw 最新話楽しみにしております。