ワンクッション
夜長アンジーと茶柱転子が付き合っている。
文章が拙い。
昼過ぎのあたたかな陽射しを受けながら、 校舎の向かって左に行った先にあるテラスで、 夢野は茶柱が東条に強請ったバタークッキーとアールグレイに舌づつみを打ち、茶柱を適当にあしらいながらまどろんでいた。ここまでは良かった…… のだが。
「あの、実は今日夢野さんを呼び出したのには理由がありまして、ですね……」
茶柱は視線を漂わせ、落ち着きがなさそうに椅子に半分だけ腰を掛け、紅茶をちびちびと口に運んだ。
もじもじと照れるような、もどかしい沈黙のあと、茶柱は決心がついたようで夢野と視線を合わせると、口元を綻ばせ一思いに言う。
「あの、転子はこの度、アンジーさんとお付き合いすることになりました!」
転子は、キャー、と両頬に手を添え恥ずかしげにこっくりした海松色の瞳を瞼で覆う。
夢野は茶柱の言葉に胸を鋭いもので貫かれるような衝撃を感じた。頭の中が白く溶け落ちて、狼狽を顔に漂わせる。
「な、何故なんじゃ……」
「それはもちろん、好き同士だからですよ! あ、夢野さんに一番にご報告したのは夢野さんが転子の一番の親友だからで…」
そこまで言ったところで茶柱は夢野の異変に気付いたようで、心配げに顔を歪めてあたふたと手足をばたつかせる。
「夢野さん、大丈夫です か!? 顔が真っ青ですよ! え、えっと、誰か呼んできましょうか!?」
茶柱は夢野を気遣うように夢野に近づこうとして、夢野はそれを手で制した。
「だ、大丈夫じゃ、大丈夫じゃから、少し……一人にさせてくれんか……」
今茶柱に顔を見られたくない、と夢野は俯いて魔女帽のひさしを指先で引っ張った。何故か今とてつもなく情けない表情をしているような気がした。
「え、でも」
茶柱はじれたように一歩後退ると、一瞬の沈黙のあと、ではまた、と踵を返しちらちらと振り返りつつも立ち去った。
夢野は眉間に深い皺を寄せてしばらく考え込む。どうしてアンジーと転子が付き合っていると知ってショックを受けたのか。
親友のアンジーを取られたような気がしたから、同性同士で付き合っていることに嫌悪感を覚えたから、アンジーと親しい間柄だと思っていたのに知らなかったから………
色んな思考が頭を巡る。
ああでもないこうでもない、何故、何故。
と、一つの考えが浮かんだ。
夢野には全く新しい考え方。
「転子が、好きだから……」
声に出してみると、不思議なほど、すとんと腑に落ちた。
いつも付き纏ってきて、むしろ疎ましく思っていたはずなのに。
「……失ってから気づくなんて…」
夢野は、ふっと自嘲気味な笑みを浮かべた。
夢野秘密子は、いつも気づくのが遅すぎる。
彼女の師匠が失踪して、やっと才能を羨ましがられていたと気付いたように。
別の時間軸で、茶柱が死んだときにやっと、大切な存在だと気付いたように。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!