テラーノベル
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「あれがどれほど辛いことことだったか君にはわからないだろうね、せっかくの夢の女性を、あの一瞬で逃がしてしまったんだよ」
「夢の女性・・・」
なぜかその言葉に藤子は心を打たれた、そんな賞賛を贈ってくれた男性も彼が初めてだった
「君はとっても美しい」
文也は優秀なコピーライター相手に言葉を探した
「内面もとっても素敵だ、他の女性なんか霞んでしまうほど、君と付き合いたい、君の彼氏になりたい、僕は君に夢中なんだよ、君の傍で特別な男になりたい!」
藤子は泣きそうになってひまわりの花束を眺めるフリをした、コピーライターなのだからひまわりの花言葉は良く知っている
:・.。. .。.:・
彼が無意識にこの花を選んだのなら褒めてやりたい所だ、まさしくこの花は彼そのものだ、しかし藤子は小さくため息をついた
「文也君・・・あなたとお付き合いをするのは無理だわ」
それでも文也は食い下がる
「僕は今まで無理な事も可能に変えて来た、何がいけないんだい?理由を聞かせてよ」
文也はフンッと腕組みをしていった、ああ・・・彼女はまた、心を閉ざして文也を閉め出そうとしている、そうはいかないぞと思った
「教えてよ!藤子ちゃん」
文也は藤子の肩にそっと手を置いた、彼女はビクッとしたものの、その手を払いのけはしなかった
「文也君・・・本当にごめんなさい・・・あなたにちゃんと話すべきだったわ、私はもうすぐ30歳よ」
「だから?」
文也は静かに続きを待った
「その・・・私にはもう後がないの、お付き合いをしてもあなたのその歳で結婚なんてあり得ないわ、私が次にお付き合いをする男性は結婚する相手と決めているの、好きだからとか・・・一緒にいて楽しいとか・・・そんなことじゃなくて、次は一緒に将来を考えてくれる人じゃなきゃ嫌なの」
「藤子ちゃんは結婚したいの?」
文也は首をかしげた、これで彼も諦めてくれるだろう、結婚話を持ち出せば、大抵の男性は引く
「ええ、そうよ!だからあなたとは―」
「藤子ちゃん!結婚して!」
藤子は腹が立った
「もうっどうしてわかってくれないの?話にならないわっ!結婚よ結婚!付き合うとか同棲とかじゃないのよ、結婚ってあなたが思っているほど簡単なものじゃないの!!」
さっきまで冷静だった文也も、口調についにかすかな憤りの色が宿った
「本気で僕が何も考えずに言ってるとでも?前に話してくれたよね、君は前の彼氏と結婚寸前までいった、君の生活の全てを彼のために費やしてきた、そして別れて君は前に進んだと思っているが、その一方で僕が君に同じことをしようとしたら、君は恐怖に顔を引きつらせて、逃げてばかりだ、僕の愛を受け入れようとしてくれない!!」
「あたりまえでしょ?あなたはまだ異性に目移りする年頃よ!当然だわ、私はそんな若い時期はもう過ぎたって言ってるの!」
藤子は必死で主張した
「もうあんな風にあなたと仲良くなって絆が強くなっても、信二の時みたいにあっという間に何もかもなくなってしまうのは嫌なの!!」
「僕は信二と違う!!」
文也は力を込めて言った
「もう可愛い弟はうんざりだよっ!!君の全てを手に入れたい!それが結婚なら僕は手放しで喜ぶよ!これから先、君なしで生きるには辛すぎる!!僕の奥さんになってくれ、永遠に君を僕のものにしたいんだ、子供は4人欲しい!!」
ハァ・・・と不二子はため息をついた
―もう何言ってもダメだわ・・・この子、すっかりムキになっちゃってる―
でも本当はわかっている・・・一歩踏み出すのが怖いのは自分だ、藤子は手の甲でどうしようもなく溢れてくる涙を拭った
以前に藤子自身は信二と先へ進もうとした・・・あの時・・・イタリアンレストランでてっきりプロポーズしてもらえると思った
―ああっ!まただ!思い出すのも嫌っ―
あの時の全身に感じた落胆をまた思い出した、結婚と言われて今は彼のド直球のプロポーズにどう応えたらいいのかわからない
今、自分は道の真ん中でヘッドライトに照らされたウサギみたいに不安で・・・どっちにも身動きが取れない、ありのままの自分を彼にゆだねるのが恐ろしくてしかたがない・・・しかし彼がとどめを刺した
「愛してるんだ!藤子ちゃん!僕は君に全てを捧げる!!一生君を愛するよ、僕を信じて」
もうっ・・・もうっ・・・溢れる涙を止められない・・・何なのこの子?どうしてこんなにド直球なの?彼はどこまでもまっすぐな目で藤子を見つめて、言い訳も、恐れも何もかも承知の上で逃がしてくれない
二人はじっと見つめあった
―ああっ・・・どうしよう・・・仕留められたかもしれない―
彼がすごく愛しくてしかたがない、この先どうなるか分からないけど、今はこの彼の真剣な瞳を信じたい
藤子は勢いよくひまわりを持ったまま彼に抱き着いた、彼はしっかり藤子を抱きしめ、持ちあげてくるくる回った
藤子は「キャァ!」と声を出した、自分は結構体重があると思っていたのに、こんなに荷物みたいに軽々持ち上げられるなんて!驚いて顔をあげた拍子に文也が藤子にキスをした
長くて深いキスだった・・・藤子は夢中でキスを返し、文也が抱きしめる腕に力を込めた
近くにいたカップルからヒュー♪ヒュー♪とヤジが飛び、パラパラと拍手が出た
やがて・・・長い長いキスの後・・・藤子が文也に言った
「本当に・・・私でいいの?」
「もちろんだよ!君こそ僕が「童貞」でよければ」
藤子は「は?」と目をパチパチとした、文也はニッコリして言った
「いろいろ教えてね、藤子ちゃん(はぁと)」
「えええええっっ?!」
藤子が叫んだ、なんだかいろいろすっ飛ばしている!まったく彼には本当に驚かされる
蒼乃 月
828
ばたっちゅ
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コメント
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第53話、読み終わりました! 文也の真っ直ぐな告白に、藤子が過去の傷と向き合って少しずつ心を開いていく過程がとても丁寧に描かれていて、胸が熱くなりました。特に「仕留められたかもしれない」という藤子の内面の変化と、最後の「童貞」オチには思わず声が出ました(笑)。この絶妙なシリアスとユーモアのバランス、本当に素敵です。ふたりの今後の関係がますます気になります!