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世界線好きすぎて滅
さいきーん物語短くてごめんなさい😭😭
「5尺様、嫉妬する。」
――ぽぽ。
その音が、最近は目覚まし代わりになっていた。
朝、目を開けるより先に聞こえる。
畳を踏むでもなく、床を鳴らすでもない、存在だけが歩く音。
「……いふ」
声に出すと、音が止まる。
次の瞬間。
「起きとるやん」
天井から、声。
「……普通に怖いから、やめて」
「えー? 恋人の声で目覚めるん、ロマンあるやろ?」
視界の端が、ぬるりと歪む。
次の瞬間、いふは僕の横に座っていた。
白いワンピース。
裸足。
そして――影が、二重。
「今日もちゃんと見えとる?」
「……見えてる」
「よし」
満足そうに頷く。
それから、じっと僕の顔を覗き込んできた。
「……なぁ、ほとけ」
「なに?」
「昨日、学校で誰と喋っとった?」
――来た。
これだ。
最近、毎日聞かれる質問。
「……クラスの人」
「誰」
「……男子も女子も」
いふの表情が、すっと消えた。
笑顔でも怒りでもない。
感情が抜け落ちた顔。
「女子も、やな?」
ぽぽ。
足音が、一つ増えた。
「……ただのクラスメイトだよ」
「ほぉ」
彼女は首をかしげる。
「手、触れた?」
「……触れてない」
「目、合った?」
「……それくらいは」
「笑った?」
「……普通に」
次の瞬間。
部屋の温度が、一気に下がった。
息が白くなるほどじゃない。
でも、肌がひりつく。
「……あかんなぁ」
いふが、ぽつりと言った。
「ほとけ、油断しすぎや」
「……何が」
彼女は、僕の頬に手を伸ばす。
冷たい。
生きている人間の体温じゃない。
「うちのもんに、
他の人間の視線、つけんといて」
「……恋人だからって、そこまで――」
言い終わる前に。
――ぽぽ、ぽぽ、ぽぽ。
足音が、部屋中から聞こえた。
壁。
天井。
押し入れの中。
「……いふ?」
「安心し」
彼女は、優しく笑った。
「まだ、何もしてへん」
その言葉が、
一番怖かった。
その日の放課後。
僕は、友達と少し話してから帰ろうとしていた。
「ほとけー、今日の宿題さ」
「ああ、あれ――」
その瞬間。
――ぽぽ。
アスファルトの向こうから、音。
嫌な予感がして、振り向く。
白いワンピースが、人混みの中に立っていた。
「……いふ」
彼女は、にこにこしている。
でも、周りの人間は誰一人気づいていない。
「迎えに来たでー」
「……ここ、学校の前……」
「知っとる」
一歩、近づく。
――ぽぽ。
「その子、誰?」
いふの視線が、僕の隣のクラスメイトに向いた。
彼女は、何も気づかず笑っている。
「ただの友達だよ」
「ふーん」
いふは、じっとその子を見つめて――
影が、異様に伸びた。
次の瞬間。
「……あれ?」
クラスメイトが、ふらりとよろける。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
「うん……なんか、急に寒気して……」
顔色が、青白い。
いふは、楽しそうに言った。
「体調悪そうやなぁ」
僕は、息を呑んだ。
「……やめて」
小声で言う。
いふは、僕だけに聞こえる声で囁いた。
「嫉妬や」
「……これは、やりすぎだ」
一瞬。
いふの笑顔が、完全に消えた。
「……ほとけ」
声が、低い。
「うちが、
どんな気持ちで人間と付き合っとるか、分かっとる?」
影が、地面に広がる。
「人ならざるもんが、
人の世界に合わせとるんやで?」
僕の腕を、強く掴む。
「それやのに」
ぎゅ、と力が入る。
「他の人間と、
楽しそうに喋られたら――」
耳元で、囁く。
「……壊したくなるやろ?」
背筋が、凍りついた。
「……いふ」
僕は、はっきり言った。
「それ以上やったら、
僕、怖くなる」
沈黙。
長い沈黙。
やがて――
「……あーあ」
いふは、力を抜いた。
「言われてもうた」
少しだけ、寂しそうに笑う。
「……なぁ、ほとけ」
「……なに」
「逃げる?」
その問いに、
僕は、すぐ答えられなかった。
逃げようと思えば、
多分、もう遅い。
「……逃げない」
そう言うと、いふは目を見開いて――
次の瞬間、
ぎゅっと抱きついてきた。
「ほんま!?」
「……条件がある」
「なに?」
「人に、手出さない」
一瞬、沈黙。
それから、いふは不満そうに頬を膨らませた。
「……しゃーないなぁ」
でも、耳元で。
「ほとけが裏切ったら、
その時は――」
――ぽぽ。
「一緒に、世界ごと壊そな」
笑いながら言う、その声は、
間違いなく――怪異のものだった。
それでも。
僕は、彼女の腕を振りほどかなかった。
嫉妬深すぎる5尺様との恋は、
まだ、始まったばかりだった。