四作目
六兆年と一夜物語
原作小説の設定とは関係ございません。
長くなりそうなので前編後編に分けます
解釈違い、虐待描写など注意
メテ×ぐさです。
___ここに書かれているのは、名も無い時代の集落の、名も無い幼い少年の誰も知らないおとぎばなしだ。
もしこの本を手に取った人がいるのなら、この話を読んで欲しい。
彼女とメテヲの、たった数日の逃避行を___。
「おぎゃあ、おぎゃあ…」
メテヲが産まれたのは、今にも壊れかけそうな荒屋で、バケツをひっくり返したような大雨の日に産まれたんだ。
産婆に取り上げられた赤子のメテヲの額には、小さいけど角があったんだ。多分、鬼の角がね。
角を見た産婆はこう言ったんだって。
「この子は忌み子、鬼の子じゃあっ!」
村には鬼の子が産まれた時、厄災が起きて、世界が消えるっていう古い言い伝えがあって、皆はそれを信じたんだ。
だからメテヲは、ずっとずっと家畜以下の扱いをされていたんだ。
産まれて早々舌を切り落とされて、鎖で繋がれ座敷牢に入れられて…。食事は一日に一回、水と腐りかけの野菜や肉が運ばれてくるから、それを貪った。水が足りない時は壁と窓から漏れる雨水を啜って、喉の渇きを癒した。
時折、部屋に呪い師のような人が入ってきて、浄化や憑き落としとかを理由にメテヲに鞭や大幣を叩きつけた。
あの頃のメテヲは、その小さな身体に余る罰に怯えて、ずっと牢屋の隅で蹲ってた。
鞭や大幣が怖かった。…痛いのが怖かったんだよ。それに、お母さんの目。餓鬼畜生を見るような目で、メテヲを見ないで欲しかった。
でも、怖い事はあっても、悲しい事は何も無かった。あの頃のメテヲには、大切なものなんて無かったからね。
そんな生活が七年くらい続いて、メテヲが七歳になった時。
お母さんはメテヲを山の小さな社にに置き去りにしたんだ。
それは夏の日の事だった。
お母さんが、突然メテヲの鎖を外して、
「これから行く所がある」
って、冷たい声で言ってきたんだ。
どこに行くんだろう。なんでこんなに怖い顔をしてるんだろう…。
戸惑うメテヲを他所に、お母さんは強く強くメテヲの手を引いて、遠くの山へと歩き出した。
朝靄が晴れて、昼の日差しが照って、夕焼け小焼けが空を橙色に染めても、お母さんはメテヲの手を引いて、山へと歩いていった。
夜の闇が辺りを覆い尽くした時、漸く社が見えてきて、お母さんはメテヲをそこに投げるようにして置いていった。
メテヲはお母さんが戻ってくるって信じて待ってたんだけど、夜が明けて、朝になっても戻ってこなかったから不安になって、社の外に飛び出したんだ。
木や草が行方を阻む中、メテヲは無我夢中で山の中を走ったんだ。
でも子供の、それも今まで運動も碌にしてこなかった奴の体力なんてあっという間に底をついて、その内雨も降り出したんだ。
冷たい雨はメテヲの体力をどんどん奪っていって、メテヲは歩くことさえ難しくなってたんだ。
それでもなんとか歩き続けて、メテヲは元いた村とは違う村まで来れたんだ。人が住んでる所にこれて、安心しちゃったのか、メテヲは気を失ったみたいなんだ。
どれくらい経ったんだろうね。村の一人が汚い格好で雨に打たれているメテヲを見つけて、額の角に気づいて、村長に報告しに行ったんだ。
当然、村は大騒ぎになった。
そして話し合いの結果、村の外れに近い場所に鎖で繋がれて、メテヲは暴力の捌け口になった。 殺されなかっただけマシだったのかもしれない。
でも、メテヲはそこで知るんだ。
自分がどれだけ何も知らなかったのかを、どれだけ愛されていなかったのかを。
初めに見たのは、親子だった。
大雨の日、小さな子供が村の外れにやってきて、メテヲ見ようとしたんだ。
メテヲを見つけて、もっと近くで見ようと寄って来た時、母親らしき人が
「馬鹿!ここには近づくなって、いつも言ってるでしょ!?」
って、凄い剣幕で叱ったんだ。それで、怒鳴られた子供は泣き出しちゃったんだ。
でもその人はすぐに優しい表情に戻ると、
「あんたに危ない目に遭って欲しくなかったから……少し言いすぎたね、ごめんね」
って優しく子供を抱きしめたんだ。そして手を繋いで、一緒の傘に入って帰っていった。
メテヲは、それに驚いた。
だって、それは知らなかった事だから。
叱られた後のやさしさも、雨上がりの手の温もりも。全部全部、知らなかったから。
羨ましいとは思わなかった。だって独りで雨に打たれるのは慣れていたから。冷たい雨に晒されても、何も気にせず動けたから。
でも……でも、きっと本当は…本当は本当は、寒かった。そう、寒いんだよ。当たり前のことなのに、誰かの手の温もりを求めて仕舞えば、もっと寒くなるような気がして、メテヲはその本音を心の奥に閉じ込めたんだ。
何日も何日も、メテヲは暴力に晒され続けた。前と違って、この村では食べ物も水も与えてはくれなかった。
でも、メテヲは死ななかった。
メテヲ自身、凄く疑問に思ったんだ。
メテヲはなんで死なないのって。
夢のひとつも見ることすら赦されないのに、生きる希望なんて一つも無いのに、この鬼の身体は死ぬ事を赦してくれなかったんだ。
この絶望に、この先永遠に晒され続ける。
そんな恐ろしい考えも脳裏に浮かび始めた時だった。
___君が…ぐさおさんが、現れたのは。
コメント
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最初ちょっと日本語おかしいかな?
うわア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙神!!!!
続きます!! 多分…きっと…恐らく…覚えてたら…