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実在する人物・団体等に一切関係のない二次創作です
︎✦︎🔫×🎲
︎✦︎🎲のみ
︎✦︎ひとりあそび
「ん゛、んー……?ぁー……かな、え。」
ぱちり。
窓から差し込む陽光が瞼を焦がさんとばかりに照りつけるものだから目が覚めた。昨夜も同じ部屋、同じ布団の中で眠りについた彼の名前を口にして自分の右隣に手を伸ばす。
ぽすん。手は何に辿り着く事もなくまだ温もりの残る寝具の上に落ちた。居ない。代わりに指先に触れたのは無機質な四角。液晶を一度タップすると表示される「13:27」の文字が寝ぼけたままの目に映りこんだ。もうそんな時間か。夜遅くまでゲームに興じて明け方近くに眠るのがここ数日の生活リズム。自分よりも先に眠りに落ちる事の多い相棒は、数時間後に布団に入り込んだ己より早く目を覚ましたらしい。起き上がる気力は無くて、暖かい布団の中に横になったままヘッドボードに手を伸ばす。かさ、と。今度は紙切れが触れた。手に取ってみればそこには見慣れた筆跡で書かれた文字列。「用事があるから出掛けてくる」。なんの用事だよ。なんて独り言は口にしたところで返事がある筈もないから、声にする事もせずに飲み込んだ。帰ってきたら起こしてくれるだろうし、もうひと眠り。 自分の枕、と持ち主の不在となった相手の枕を贅沢に使ってやろうと手繰り寄せて。本人代わりの抱き枕だ。
再び眠りに落ちようと目を閉じてから顔を押し付けた。
おやすみなさ――…… 失敗だったかもしれない。大きく呼吸をした途端に彼の残り香を思い切り吸い込んでしまった。別にそういう事を何度もした訳じゃまだ、無いけど。寝起きで微睡んだ頭は何を勘違いしたか、連想ゲームのように触れる彼の体温を弾き出した。やらかした、そう気づいた所で後の祭り。小さく呼吸を繰り返す度に身体の内側に彼の匂いが巡っていく。一度覚えた熱を覚ますにはあまりにも思考が鈍くて、感覚は冴えすぎて。薄れだした彼の温もりの上から今の自分の体温を擦り付けるように頬を押し付けた。
あいつは、用事。そう、用事で今居ないんだし。帰ってくるまで時間もあるだろうし。頭の中で捻り出すのは”してもいい理由”のひとつやふたつ、三つ。そういうこと、をしていい事のひとつにあげたアイツにも責任はあるし。身勝手な理由を揃えてようやく、枕を抱きしめるとは逆の指先を下肢に向かわせた。寝巻きにしているスウェットパンツの内側に、潜り込ませて。匂いと記憶だけなのに簡単に反応を示し出している自分の身体の変わりように自嘲、を漏らすだけの冷静さは既に欠いている。薄らと朧気だった視界を完全に閉じて、匂いと空想だけに集中して。細い、だけど己ともまた違った指先を懸命に思いおこす。決して今自分が触れる場所に触れた事なんてまだないけど。
背を抱き留める手、頬を撫でる指、そんな優しい動きを浅ましい行為に利用している罪悪感、が余計に自分を興奮させてしまって。肌着の上からなぞるだけ、一度、二度、徐々にしっかりと辿れるだけの輪郭を指が覚えた。撫でる指を伸ばして薄い手のひらの内に熱を包む。ゆっくりと。筒のように丸めた手で擦りあげて。幾度か繰り返す度に勝手に漏れ出ようとする声が嫌で唇を引き結んだ。それでも尚、昼光に満ちた部屋に隙間からこぼれ落ちた吐息がやけに響く。動きが大きくなればなるほど、鼓動が早くなって。
「っ……は、ふ、ぅ…、」
足りない。足りるわけが無い。手で作り出した人肌の壁は確実に快を与えているのに。足りない。足りない。茹だった頭に浮かぶのは同じ言葉ばかり。己の言葉にけしかけられて、空想の渦中で自分を追い詰める男の匂いが残る寝具に頭を沈めた。生娘の様を騙るには要らない知識が増え過ぎた。形を成した手は解いて、綺麗なままの指先を口へ運んでそのまま内側に招き込む。がり。鋭い爪がどうにも邪魔で、噛みちぎった。
かつん、かり。途中、舌を掠めていっただけで息が漏れる。内に収まる指だけが引っ掻くほどの長さを失った爪先はやけに不格好で滑稽で。視界に留める時間はほんの僅か、奥地にまで招き入れた指全体へ湿り気のある舌を這わせた。一本、二本と増やした指に擦り付けて。逃がす頃にはしとどになったそれを下ろして、頭よりも高くにゆるりと持ち上げた腰、それよりも、下へ。誰に知られる訳もなくひっそりと繰り返した行為を覚えた身体が小さく震える。静かに息を吐き出して、吐いて、力を抜いて。
「は、……っ〜…、」
――つぷ。受け入れるべきでない場所に、濡れた指先を沈ませる。内側に押し進めればいやに甘ったるい音が自分の喉から溢れて、だらしなく開いたままの口を塞ごうとやわい布地を咥え込んだ。ゆっくりと奥へ。奥へ。進める毎に意志とは関係無しに身体が跳ねて。いつしか落とした中指を全て飲み込んで、時折漏れるだけだった息は頻りに静かな部屋に響く。たかがひとつ、埋めただけなのに。前にした時よりもやけに過敏に快感を拾い上げる身体に僅かな困惑を覚えて。慣れるまで待つべきか。待って、それで、それで?あいつどこまで出掛けて ――――きう、と。意図せずに指を締めた動きに途端意識を引き戻される。こんな姿を見られでもしたのなら――冷めた頭ならまともな判断も出来たかもしれないが、今自分に残されているのは熱に浮かされて蕩けた思考だけ。記憶の中に残る彼の声で、表情で、その視線で。頭がいっぱいになるのなんてすぐで。都合よく切り取った記憶で自分を追い詰めて。噂に聞いた前立腺、なんて場所は分からないけど届く範囲の奥深くまで、内側を擦りあげるように。少しの布地を食む余裕もなくて開かれたままの口からは唾液と音でしかない声が溢れて。部屋に残るのが自分ひとりなのをいい事に勝手に動く腰を止めもせず、はしたなく反響する水と肉の音、自分の声を思考の隅から追い出そうと声を思い起こす。俺の名前を呼ぶ、声を、
「ひ、っ〜…!か 、な――」
ぞわり。一際大きく腰が震えた、と思えばぱたりと布に染みる音が聞こえた。次いで身体を支えていた脚から力が抜けて、ベッドの上に身を落とす。あ。服汚れる。いやその前にシーツが、あー……あーあ。目が覚めてから半時間と少し。ようやく頭も醒め出した。最低な形で。
乱れに乱れた呼吸を整えようと息を吸って吐いてを繰り返しながら、内に入ったままの指を引き抜いた。ひとつで済むなら爪、噛まなくてよかったな。現実から目を背けるように検討外れな事ばかりが頭に浮かぶ。見られる訳には行かないし、悟られる訳にもいかない。片付けるべく余韻が残る身体を起こしてシーツを剥いで。残り香があったはずの枕は自分の唾液で酷く濡れている。どんだけ夢中になってんだ俺は。つい数分前の自分が為した有様に恥ずかしさを通り越して呆れさえ覚えて、持ち上げたそれを鼻先に押し付けてみたら未だ少し、あいつの纏う香りが残っていて。
「……遠〜くまで出掛けててくれぇ…。」
祈った言葉が届くか否かは俺にも誰にもわからない。