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気づけば、病院の白い天井がゆっくりと視界に入った。
機械のビープ音が規則正しく鳴り響き、点滴の管が腕に刺さっている。
若井が疲れた顔で隣に座っていた。
「よかった…助かったんだな」
そう呟く彼の目には、安堵と涙が混じっていた。
俺はかすかに目を開け、彼の手を握った。
「…悪かった」
小さな声で謝ると、若井はただ黙って頷いた。
退院してからも、若井は毎日顔を出してくれた。
少しずつだが、外に出る時間も増え、笑うこともあった。
けれど、薬の誘惑はいつもそばにあった。
疲れが積もる夜、孤独が押し寄せる時、つい手を伸ばしてしまう。
若井はそれを知っていた。
でも怒ることはなかった。
ただ、そっと手を握り、言った。
「また一緒に立ち上がろう。何度でも、俺はここにいる」
俺は微かに笑い返す。
けれど、自分が本当に変われるのか、まだわからなかった。
闇は深く、時に激しく波打つ。
だが、若井の光がかすかに差す限り、俺は生きていく。
退院してからの数週間は、ゆっくりとした時間が流れた。
朝、若井が持ってきてくれる淹れたてのコーヒーの香りで目が覚める。
俺はまだ寝ぼけ眼でカップを手に取り、彼の笑顔をぼんやりと見つめた。
「調子はどう?」
若井はいつも優しく聞いてくれる。
俺は無理に笑って、「まあまあ」とだけ答えた。
日中は部屋の掃除をしたり、コンビニまで一緒に出かけたり。
空はどこまでも青く、風は少し冷たかった。
街のざわめきに混じり、若井と交わす何気ない会話が心地よかった。
夜になると、薬の影が顔を出す。
一日の疲れが重くのしかかり、孤独が静かに押し寄せる。
「今日は飲まない」と自分に言い聞かせても、手は無意識に薬の瓶に伸びることがあった。
そんな時、若井がそっと横に座り、言葉をかける。
「ゆっくりでいいんだよ。焦らなくていい」
彼の声には怒りもなく、ただ温かさがあった。
俺は何度もその言葉に救われた。
だけど、それでも薬の誘惑が消えることはなかった。
その繰り返しの中で、少しずつ俺は変わっていった。
完璧じゃないけど、少しずつ、前を向こうとしている自分がいた。