テラーノベル
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「あーっ!またやられたわ〜、今の絶ッ対ラグやろ!なぁ、みんなもそう思うよな!?」
ヘッドホンから鼓膜を震わせるのは、少し高めでよく通る、底抜けに明るい声。
薄暗い部屋の中、モニターの向こう側で大げさなリアクションを取る男__utの配信は、今日の夜も大盛況だった。
画面右側を滝のようなスピードで流れていくコメント欄は、彼の悔しがる姿をイジるリスナーたちの文字で埋め尽くされている。
画面の左下、現在の同時接続者数はあっという間に5000を超え、チャンネル登録者数は先日ついに30万人を突破したばかりだ。
「お、スパチャサンキューな!『30万人おめでとうございます』おおきに!これからもガンガンおもろい配信していくから、絶対ついてきてな〜!」
嬉しそうに、そして自信たっぷりに笑うutの声を聴きながら、zmは自室のベッドの上で、一人静かに息を吐いた。
「、、おめでとう、ut。」
ぽつりと呟いたzmの言葉は、誰に届くわけでもなく部屋の空気に溶けて消えた。
キーボードに手を伸ばし、コメント欄に打ち込もうとしたそのお祝いの言葉は、結局送信ボタンを押すことなくバックスペースで消去してしまう。
どうせ今の爆速で流れるコメント欄では、自分の言葉など一瞬で押し流されてしまうからだ。
今のutは、飛ぶ鳥を落とす勢いの大人気ゲーム実況者だ。
持ち前のトーク力と、どこか憎めない愛嬌、そして時折見せる神がかったプレイが万人にウケて、ここ一年で一気にスターへと駆け上がった。
けれど、zmがutの配信を見始めたのは、そんな華々しい舞台に立つずっとずっと前のことだ。
あれはまだ、utのチャンネル登録者数が五十人にも満たなかった頃。
当時のutは、今のような賑やかで健全なゲーム実況なんて一切していなかった。
暗い雰囲気のなか、utのキャラクターが囁いているような姿勢をとったイラストの配信画面。
コメントも数分に一度、数人の常連リスナーがぽつりと呟く程度の、いわゆる限界過疎配信。
そこでutが何をしていたかというと__シチュエーションボイスの生配信だった。
しかも、ただのシチュボではない。
深夜帯ということもあり、かなり際どい、いや、完全にアウト寄りのR-18指定推奨な、えっちなシチュエーションボイスだ。
『ん、どしたん?そんな顔して。寂しかったん?』
今の張り上げたような元気な声からは想像もつかないような、低くて、甘くて、鼓膜を直接舐められてい?ようなハスキーな声。
高価なバイノーラルマイクを使って、右から、左から、吐息の温度までリアルに伝わってくるその配信に、zmは狂ったようにのめり込んでいた。
『ええよ、こっちおいで。よしよし。もっと気持ちええことしたるからな♡』
生々しいリップ音。
掠れた吐息。
服が擦れる微かな音。
そして、愛を囁きながら徐々に熱を帯びていくutの生々しい声。
当時のutは、リクエストがあればどんな恥ずかしいシチュエーションでも演じてくれた。
あの狭くて閉鎖的な、たった数十人だけの秘密の夜。
自分だけに語りかけてくれているようなあの錯覚。
zmにとって、あの甘美な時間は何にも代えがたい至福だったのだ。
しかし、ある日たまたま気分転換でやったホラーゲームの実況動画が、大手切り抜き師の目に留まりバズってしまった。
そこからのutの快進撃は凄まじかった。
瞬く間に登録者は増え、求められる需要は「甘く囁く声」から「大声で叫び、笑いを取る面白い実況」へと完全にシフトしたのだ。
それに伴い、規約の厳しいプラットフォームで際どいボイス配信を続けることはアカウント停止のリスクとなり、utはひっそりと、過去のえっちなアーカイブをすべて非公開にしてしまった。
「これからは健全なゲーム配信者として生きていくからな!」
と、笑いながら宣言したutの姿を思い出すと、今でも胸の奥がチクリと痛む。
「、、今日も、おもろかったな。」
画面の中で「ほな、今日はこの辺で終わるわ!おつかれー!」とutが手を振り、配信が終了する。
途端に訪れる自室の静寂。
zmはパソコンのモニターを閉じると、ふぅ、とひどく熱い息を吐き出した。
ただ元気なutの声を聴いているだけでも、zmの下半身にはじんわりと熱が集まってしまっていた。
パブロフの犬のように、utの声を聞くだけで無意識に身体が反応してしまうのだ。
zmはベッドに寝転がり、スマホの奥深くに隠されたパスワード付きの秘密のフォルダを開く。
そこにあるのは、非公開になる前にzmが血眼になって保存しておいた、utの過去のえっちなシチュエーションボイスの音声ファイルたちだ。
これこそが、今のzmを繋ぎ止めている唯一の命綱だった。
遮音性の高い高音質のイヤホンを耳に深く押し込み、再生ボタンを押す。
『__あ、やっと二人きりになれたな。ずっと、我慢してたんやで?』
鼓膜のすぐ傍で、utの低くて甘い声が響いた瞬間、zmの背筋をゾクゾクとした暴力的なほどの快感が駆け抜けた。
「あッ、//んぅっ、♡////」
自身の熱を帯びた中心に手を当て、ゆっくりと擦り始める。
今の数万人のリスナーが見ている、元気で面白いut、じゃない。
この甘く蕩けるような声で自分を煽ってくるutは、自分だけが知っている、自分だけのutだ。
そう錯覚させてくれるこの過去の亡霊のような音声だけが、今のzmの肥大化した欲求を満たす唯一の手段だった。
『はぁ、、お前、ほんま可愛ええな。もっと奥まで、ええか?』
「utッ、//あ、うっ、、はぁっ♡♡/////」
耳元で響く架空の愛撫と水音に煽られ、zmは目を閉じながらutの名前を何度も切なげに呼ぶ。
本当は、今のutに、この声でもう一度煽って欲しい。
叶うはずのない願望を胸の奥に押し殺しながら、zmは今夜も、画面の向こう側の遠くなってしまった推しの声で、一人静かに欲を発散させるのだった。
コメント
1件
うわあ…なんかすごく切なくて、苦しい話だった。zmの、utの過去の声にしか満たされない感じが胸に刺さる。今のutは遠くて、自分だけが知ってる「えっちな声のut」に縋るしかないの、めっちゃわかる気がする…続きがすごく気になるよ。