テラーノベル
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鬱陶しい蝉の声。
都心よりはいくらか涼しい風が、シャツを揺らす。
今日は雲が早い気がする。
伸びた3つの影は、近づいたり離れたり。時に追いつけなくなったり。
柵なんてない川沿いを歩く。サンダルの下の、砂利道の感触に懐かしさを覚える。
焦げ茶色の髪の、自分よりいくらか身長の高い彼が立ち止まって川を見つめる。そして思い付いた様に履いているものを脱いで近くに放る。そのままじゃばじゃばと浅瀬に入っていった。
え、僕も入る!派手なオレンジと薄ピンクの髪の、焦げ茶髪の彼よりも少し背の高い彼が嬉々としてそう言う。もたもたと履物を脱いで大股で彼を追いかける。
「あんまり遠くまで行かないでよー。深すぎると溺れるんじゃないの」
声を張り上げる。肌が弱い自分は、日差しを避けて一旦木陰で見守ることにした。すとんと座り込む。焦げ茶髪の彼が大きく手を振って答える。無垢の笑顔は、とても同い年に見えない程幼かった。
しばらく石を積んで遊んでいたかと思うと、派手髪の彼が腰を低くして足元を指さしたり引っ込めたりし出した。魚でもいたのだろうか、あっと声が上がっては落胆した声が聞こえる。
派手髪の彼は気付いていない。後ろから焦げ茶髪の彼がジリジリと近付いてることに。
ぱしゃっ。
涼し気な水音が響く。
焦げ茶髪の彼が放ったそれは、派手髪の彼の顔にクリティカルヒットした。ぶわっ!?と間抜けな声と共に、彼は尻もちを着く。もちろん川なので全身びっしょびしょだ。命中した上に予想外すぎて隣でツボる幼なじみ。
「あーあ。どうすんの、水着でも無いのに…。まあこの暑さならすぐ乾くか」
呟いて、ふふっと声が漏れる。手を差し伸べた焦げ茶髪の彼の手を引っ張り、したり顔の派手髪の彼の隣に倒れ込んだからだ。大人げない年上だな。これでびしょ濡れが2人目誕生。
びしょ濡れ2号が悔しそうにもう一度水をかけると、1号がポケットから小型水鉄砲を取り出す。ええ、そんなの持ってたの?思わず吹き出してしまった。ビジュアルが幼い頃持っていたものと何ら変わらない。使わせてと焦げ茶髪の彼が飛びつきまた乱闘が始まった。
ちょっぴり、羨ましい。
青い草と水場の匂いで、そうさせているのだろう。きっとそのせいだ。いつまでも素直になれない火照った心を隠して、思い込む。
不思議と、此処に来てから暑さを感じていなかった。
街中の家からすぐのコンビニに行く時の方が、じんわりと汗をかくくらい。どこもかしこもクーラーだって付いているはずなのに。
まるで記憶の中にいるみたいだ。瞼の裏に、思い出す時噛み締めるように。
「「元貴ーー!!」」
2人の声が、ここが現実だと教えてくれる。
どこかの家で、かりんっ、とコップの氷が溶けた音がした。
ため息を着いてゆっくりと立ち上がる。はいはい、と返事をしてのんびりと歩く。
興奮した様子で足元を指しながら手招きをする涼ちゃんと、ニヤニヤと水鉄砲の準備をする若井。2人とも髪に水滴が付いている。口元が緩んだ。帰ったら3人で冷やしてるスイカを食べたい。ついでにかき氷も食べたらお腹壊すかな。夜には花火をして、ちょっとだけ夜更かしして星も見よう。昼のそうめんの味は、まだ口に残っていた。
俺は古い記憶とその夏に、恋をしていた。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
夏の影、切なさが凄く良かったですね。田舎に帰りたくなってきたなぁ。思わずこんな作品を書いていました。こちらは曲をイメージしたCPものもあれば、3人の日常をクローズアップしたものも投稿していこうと思っています。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
コメント
3件
ほんとに夏の影良かったよね〜、、、( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)切なかった、、、次も楽しみにしてるね!♪