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翌日から、裏のトレーニング場にて訓練が始まった。
周りには遠距離魔法が漏れない為の結界魔法が張られており、思う存分力を発揮するように伝えられた。
最初は、バーン・ブラッドと、キラ・キルロンド、キース・グランデ、アイク・ランド、凪クロリエの倭国遠征班Aチームでの実践訓練が執り行われた。
バーンは、岩の大剣を手に宿し、構える。
「さあ、どこからでも掛かってこい」
「ほんじゃあ行くぜ! 爺さん!!」
最初に飛び出したのは、キラとアイクだった。
「二人前衛か!?」
“雷魔法・雷弾”
“水魔法・水弾”
二人は同時に、バーンに向かって、雷の雷撃と水の水撃を放つ。
“岩防御魔法・鉄心”
バーンが剣を構えると、自らに岩シールドを展開。
二人の魔法は易々と防がれてしまった。
「こんなもの、いくら撃っても意味がないぞ!!」
「うへぇ……あの人、自分に防御魔法も張れんのかよ……」
しかし、シールドを張り、ダメージを防いだとしても、バーンにはしっかりと雷と水の属性が付着される。
“氷鷹剣・氷河”
二人の背後に隠れていたキースは、思い切り大剣を横に振るうと、氷の塊が降り注がれる。
「僕たちの攻撃は “攻撃が目的ではない” です!! キースさん! よろしくお願いします!!」
アイクはとキラは、キースに場所を開けながら声を上げる。
ゴォン!!
水×雷×氷 により、感電、超伝導が同時に巻き起こり、バーンの周囲には砂煙が舞う。
しかし…………
「クソッ…………!」
「二人が属性付着、止めに火力の高い大剣での氷魔法。連携としては悪くない……だが、これでは今までと何も変わらないぞ…………!!」
煙の中から、全く負傷していないバーンが姿を見せた。
ザッ…………!
“夕凪・椛・居合い”
ゴッ!!
キースの真下から、バーンの不意を突き、凪は風属性を孕んだ居合い剣術でバーンを斬り付ける。
ガァン!!
その瞬間、バーンのシールドは見事に割れた。
「氷のロングソードマンすら揺動…………最後に風属性で拡散して三属性の火力を高めたか……。良い判断だ」
そう言うと、バーンは初めてニヤリと微笑んだ。
「す、すげぇ…………昨日まで、誰が前衛をやるかずっと揉めてたのに…………」
ヒノトは、四人の連携に目を見張る。
「これが…………貴族院のエリート…………!!」
側から観戦していた他の全員も呆然と口を開く。
「ほう、アレが貴族院代表の長男坊とグランデ家の長男坊か。なかなか優秀に育っているではないか。それに、平民の二人の動きもいい。周りの強さに感化され、自分の動きや見えるものがいつもと違い、本人たちでさえこんなにも動けるものかと動揺しているだろう」
ルギアも、腕を組み、ニタリと眺めながら話している先の凪とアイクも、ルギアの話す通り、己の剣を眺めながら困惑した表情を浮かべていた。
「ラグナはやはり脳筋だが甘い男だからな。その優しさ故に貴族や平民と学寮を分けているが、魔力量だけでそいつの強さは決まらん。実際に、ここだけでも埋もれている奴は目立つ。やはり実戦あるのみだな!」
そう言うと、ルギアはヒノトの背を押した。
バーンが交代し、剣を構えながらシルフが微笑む。
「さあ、Bチーム。三人だけど、頑張ってみようか」
汗を滴らせながら、ヒノト、リゲル、ユスの三人は、それぞれの武器を構えながら入場する。
「大丈夫だ、二人共。昨日立てた作戦でぶつかれば、Aチームにもきっと劣らない力が出せる」
貴族院から、キースのパーティメンバーだった、ユス・アクスは、キースと並ぶ貴族院学寮の三年生。
青い髪に冷静な物言いで、まとめ役になっていた。
そして、攻防に秀でた貴族院でただ一人のナイトという職業でトップ2を張っていた実力が、二人の指針だった。
「行くぞ…………!!」
ボン!!
まずは、ヒノトの牽制。
ルークの水防御魔法がない為、爆音が鳴り響く。
「やっぱり、君が先陣を切るよね…………」
シルフは細目で剣を後ろに構えると、目を閉じる。
“水牢・霧雨”
瞬時にしてシルフの周囲は霧で包まれ、ヒノトは霧を突っ切って外に出て来てしまった。
「は!? すり抜けた!?」
「大丈夫だ!! ヒノト!!」
“炎魔剣・業火”
ヒノトの牽制に合わせ、リゲルは霧に隠れたシルフの前に現れる。
「ほう……その “炎魔剣” って、対象が見えていなくてもその人の前に来られるんだ。便利だね」
“炎虎剣・炎舞”
ゴゥッ!!
しかし、炎が舞うリゲルの攻撃を前に、シルフは静かに微笑む。
「君はきっと優しいのだろう。殺気がない。君が囮だと言うことが明白に分かってしまう…………」
“水牢・五月雨”
ギィィィン!!
猛烈な音を発し、五連続の斬撃を放つと、リゲル、そして隠れていたユスの武器を全て破壊した。
「ふふ、もう少し読まれない工夫をしないとね」
キン…………と、シルフが剣を鞘に収めた瞬間。
「まだだ…………!!」
ボン!!
ヒノトはシルフの眼前で剣を構えていた。
「ヒノト…………!! 流石だ…………!!」
しかし、シルフは剣を構えずに微笑む。
「ヒノトくん、剣を見てごらん?」
「は…………?」
ヒノトの剣は、既に砕けていた。
「新しいサイバーソードを貰ってきなさい」
そう言うと、シルフはヒノトの横を歩いて行った。
ヒノトはその場で膝を付いた。
「いつ砕かれたのか…………分からなかった…………」
その後、何度やってもシルフから一本を勝ち取るどころか、ヒノトは度々剣を砕かれ、その全てが、いつ砕かれたのか分からないままだった。
サイバーソードは、魔法攻撃に使用される分、本来の剣に比べ、砕かれた重量が感じ辛いのもあるが、それでも、シルフの最速の剣と言わしめる剣撃に、成す術もなく時間だけが過ぎて行った。
そんな中で、ユスは拳を強く握っていた。
「足を引っ張るなよ!!」
その顔には、涙が溢れそうになっていた。
「ユス先輩…………」
「君は魔法が使えない……速度だけの剣撃…………! 揺動に使いたいのに、毎回毎回、剣を折られてたんじゃ次の攻めようが何も無いじゃないか…………!!」
ヒノトは、言い返す言葉もなかった。
「で、でもユス先輩…………!」
「いいんだ、リゲル…………! ユス先輩の言う通りだ……俺は速度任せに攻撃しか出来ない……。でも、シルフさん相手じゃ速度でさえ劣るのに、常に剣を砕かれ続けてるんじゃ、足手纏いで間違いないだろ…………」
「僕は、キースに置いて行かれちゃダメなんだ!! 何の為に貴族院学寮のトップ2まで上り詰めたと思っているんだ…………!!」
そう叫ぶだけ叫び、ユスはその場を去ってしまった。
その状況を見て、キラも静かに近寄る。
「どうにも、良い雰囲気じゃあねぇな」
「俺が…………何も出来ないからだ…………」
「あの灰色の奴にはなれねぇのか?」
「あぁ…………どうやってなるのか、分からなくて……」
「そうか。ユスはな、貴族院学寮で誰よりも努力してきたと言える男なんだ。貴族は平民よりも魔力が優れている中で、ユスの魔力は平民並みだった。元々ソードマンになりたかったそうだが、攻防を兼ねるナイトを選んだ。自分は力任せに戦わず、起点を利かせて勝つんだ、なんてよく言ってたな」
キラは喋りながら、ヒノトに手を差し出した。
「一、二年の頃は、負け試合が多かった。もうメイジになれって何度も言われて、それでも貫き通して、何度も何度も負け続けたんだ」
「あの…………ユス先輩が…………?」
「ああ、誰よりも試合をし続け、クビになっては別のパーティに入った。それで培った仲間との連携と、相手の攻撃を見切るセンスは、その内、貴族院学寮でも秀でる力となり、三年になった今では、キースに引き抜かれ、俺たち元王族であるドラゴレオ兄弟に並ぶ強パーティと言わしめる実力者になったんだ」
「それを…………俺は…………」
ヒノトは、その話を聞いてしまったからこそ、足を引っ張っている現状が悔しく、キラの手を握り返せずに、そのまま首を垂れた。
「はぁ? 違うだろ、ヒノト!! ガッハッハ!! お前は戦ってる時は威圧感が凄ぇのに、情けねぇなぁ!! 今、足を引っ張ってるんだからこそ、見返した時が気持ちいいんじゃねぇか!!」
ふと、キラを見上げた差し伸ばされた手を見た時、掌に付いていた沢山剣を振るってきたのであろう無数のタコの跡に、ヒノトは再び、歯を食いしばった。