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2日目、3日目と、Aチームのキラたちは、編成をくるくる変えても、安定してバーンのシールドを破壊するまでに至っていたが、両者共に一本取ることは叶わず、ヒノトに至っては、剣を砕かれないことも増えたが、状況が変わらないまま時間だけが過ぎて行った。
特にアドバイスも貰えない中で、流石のキラやキースにも焦りが見え始め、ユスは完全にヒノトと会話をしなくなり、前衛たちの空気感は悪くなるばかりだった。
3日目、夜。
シルフは、ベランダでゆったりとした羽織を着ながら、ベランダでワインを片手に外を眺めていた。
「よう、少し話いいか?」
「おや、珍しいですね。一対一で話すのは、初めてな気がします」
現れたのは、ルギア・スティアだった。
「今回の遠征までの鍛錬…………少し厳し過ぎないか? ロクに助言もなく、ただ疲弊させられているだけで、貴様は一体、何を考えている…………?」
そんな言葉に、シルフは目を丸くしながら、近くにあったテーブルにワインをそっと置いた。
「まさか、貴女のような方からそんな言葉が出てくるだなんて……少々意外ですね」
「効率の悪さを説いているのだ。私も、騎士になりたての教育係を任された経験から、今回の無茶振りな編成に、ただ伏されていくだけの前衛たち…………。これじゃあ、急務に若手を育てるなんて無謀だ」
互いに細く目と目を見つめ合わせながら、少しの静寂の後、シルフはそっと微笑んだ。
「まずは腰を掛けて話しませんか?」
「何を悠長なことを…………。生きた英雄、瞬足の剣士と担がれて、図に乗っているのか?」
シルフは、ルギアの言葉を聞き流すように、反対側の椅子へとゆっくり腰を下ろした。
「ルギア殿も、戦争に出ていたから分かると思いますが、僕とバーン殿が “生きた英雄” と賞賛されているのは、かつての四天王を、パーティメンバーの命を賭して討ち倒したことから、敬意を込めてそう呼ばれていますね」
シルフは、微笑みながらも、どこか暗い表情を浮かべ、地面を眺めながら口を開く。
「僕は、 “生きた英雄” って呼ばれ方、あまり好きじゃないんです。命を賭した仲間に対し、我々は、死線の中で生き残った……命を賭せなかった “逃亡者” ですから」
そう言うと、いつものようにニコッと微笑む。
その表情に、ルギアは素直に腰を下ろした。
「僕の師匠はどんな方だったか知っていますか?」
「倭国の剣士だろ? 異邦剣術使いなんだから……」
「ふふ、それはそうなんですけどね……。実は、剣術修行の旅に出ていた時に偶然知り合った、こちらの世界に来るまでロクに剣も握らせて貰えなかった子供なんです」
その言葉に、ルギアは目を見開く。
「貴様…………子供に剣を習ったのか…………!?」
「そうなんですよ。槍兵の家系のご子息として、握ってきたのは長槍という長く、先端だけに刃物が付いているような武器を握っていました。斬る、ではなく、突く、や、叩く、などが主な槍兵の戦い方でした」
「確かに、異邦人の武器や戦術には興味深いが、だとしても何故、子供に習う必要があったんだ?」
「彼は……強くなりたいと足掻く中で、すごく、基礎に忠実で、実践経験は全くなかったそうですが、お父様に言われた稽古を欠かしたことがなかったんです」
その言葉が腑に落ちたかのように、ルギアは難しい表情を崩し、残っていたワインに手を付けた。
「なるほどな。戦いの強さと、教えの上手さは違う。その子供は、自分が習っていたからこそ、貴様にそれを教えるのが上手かった。貴様の剣術を象徴とされる “突き” と言ったものも、そこからの派生だったか」
「ふふ、しかも僕は、流石に異邦の剣士とは言え子供ですからね、負けたことがありませんでした」
「負けたことがない!? 流石に……それで師匠というのは、どうなのだ…………?」
「はい、特に、彼がずっと練習してきた長槍を使う際に一本取られたことはありません。ただ…………」
細い目で微笑みながら、ルギアと向かい合う。
「彼が剣を取った時、彼の剣を見切ることが全く出来なかったんです」
全てが腑に落ちたかのように、ルギアは笑った。
「やはり、貴様は面白い男で間違いなかったな。私の思い過ごしだったようだ、謝罪しよう」
「いえいえ、魔族の進軍が想像よりも早かったですし、セノの件もあります。でもだからこそ、僕の師匠が僕に見せた剣技のように…………。これからの魔族に立ち向かう為には、彼らにどうしても身に付けて欲しい……」
「歴史、先人の知恵は確かに大きい。馬鹿にはできん。だが、魔族にも対抗されてきている。だからこそ……」
「はい。 “自分自身の剣” を、見つけ出して欲しい」
「それは、進化だけではないのだろう。異変、異様、人によっては退化するかもしれない。しかし、そんな博打を打たなければ、こちらの戦い方を熟考されている次の戦争には望めない…………と言うわけだな」
そう言い切ると、残りのワインを飲み切り、ドカッとテーブルに置いた。
「久方振りに良い酒が飲めた! 貴様の話、また改めて聞かせてもらおう!」
ルギアが話を切り、帰宅の合図を見せた時、シルフは片手を上げる。
「あ、待ってください。ルギア殿に預けている、リリムさん、グラムくん、ロスくんはどうですか?」
「ふむ。やはり一番難儀しているのはリリムだな。闇魔法など、誰も教えられん。逆に、一番上達が早いのは、近くで風の近接戦闘を見てきたロスだな」
概ね予想通り…………という話かと思いきや。
「しかし、先程の貴様の話に準えるなら、一番面白そうなのはリリムだ。どう化けるか未開。グラムも良いな。元々平民と言うことで魔力に見劣りする部分はあるが、元々ブレイバーゲームに参加したかった手前、シールダーだけでなく多様な魔法が扱える。良い意味でも悪い意味でも器用貧乏な男だ。奴も戦い方次第で、どうにでも化けられるだろう」
「残る問題は…………」
「ああ、剣士とは違い、戦況で左右されることだ。どう立ち回るか、どう成長するか、リリムとグラムの二人は、ヒノトのパーティメンバーだったな。あの魔法の使えない男に対し、どうサポート出来るようになるか。……いや、ヒノトの成長に対し、奴ら自身がどう戦いたいかで、全てが変わる」
そう言うと、ルギアはニタリと笑みを浮かべた。
「魔族軍の司令官と、四天王 風の使徒が攻め込んでくるタイミングで、この大博打……。私はとても好きだぞ、シルフ。面白いことを考えたな!」
「いえ……先日の魔族襲来時に感じたんです。今のセオリーの戦い方は、もう通じない…………。険しい道になりますが、人類が魔族軍に勝つ為には、強引にでも新たな道を見出さなければならない…………と」
翌日、シルフは目を見張り、ルギアはニタリと笑う。
「さ、今日もやろうぜー!!」
ヒノトを中心とした全員が、昨日までの重苦しい雰囲気など消え去り、熱い闘志と共に、笑顔でそこにいた。
その光景に、シルフとバーンは唖然とする。
「昨晩…………彼らに何があったんだ…………?」
「ふふ……ヒノトが生まれた時、私は医療班として出産と灰人の儀に立ち会ったんだが、ラスが去る時、魔法の使えない灰人をどう教育するのか聞いたのだ」
ヒノトは、全員の中心で笑っていた。
『愚問だな、ルギア。俺とフリナの息子だぞ。強く育てるに決まっている』
「そう言うと、ラスは人類初の灰人を育てるってのに、なんの怯みも不安もなく、そいつをただのガキとして抱き抱えて連れ帰った。根の強さは、父親譲りだ」
その光景に、シルフは自然と、普段とはまた違った笑みを浮かべさせていた。