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#主人公最強
#ハッピーエンド
海の紅月くらげさん
「殺すッ!」
クレスが距離を詰める。
カイルの首に手を伸ばしたとき、彼の周囲に静電気を思わせる火花が散り、その身体が超高速で遠のいた。
クレスの指が空をつかむ。
「……今のは、雷?」
カイルは瓦礫でごちゃついた市街地へと逃げ込むと、両手を広げた。すると蒼い炎の壁が渦を巻き、市街地を包み込む。クレスはカイルの姿を見失った。
クレスは眉を顰める。
――電気を纏った俊足と蒼炎、二つの異能。
――あの少年の力は、自己再生とゾンビの支配だけじゃないのか?
――炎の壁に触れたクレスは、覚えのある熱を指に感じた。
「……そういうことか」
クレスは透視能力を発動し、カイルの影を追う。
「……あの少年、取り替えたな?」
クレスの推測は正しい。
数刻前、カイルは下半身を喪ったとき、ふと“パーツ交換”ができないかと思いついた。そして、近場のゾンビの身体を腰で切断し、ゾンビの下半身とカイル上半身の切断面を繋いでみた。
すると数秒で癒着し、カイルはすぐに歩けるようになった。
その後、七人のヒーローたちの死体が運びこまれ、彼らをゾンビにした際、カイルはまた閃いた。
「俺の身体、もっと使える死肉と交換しよう!」
生憎体格や体質による適性あったため、七本槍の全員と取り替えっことはいかなかった。ただ、収穫は十分だった。カイルは炎を操る右腕と、衝撃波を発生させる左腕、高速機動を可能にする両脚をそれぞれ死体から奪い、我がものとした。
クレスの透視ビジョンにカイルの姿が映る。
「死者を冒涜したツギハギだ、吐き気がするよ」
クレスは忌まわし気に言うと、カイルの元まで一直線に跳躍した。瓦礫も炎の壁もぶち抜き、カイルの目前に躍り出る。
しかし次の瞬間、カイルの周囲でパチパチと電気が爆ぜたかと思うと、突如としてその姿が消えてしまった。
クレスが眉間に皺を寄せる。
――本家より速い。どうなっている?
――雷速機動は神経に電流を流し、人体の限界を超えた走りを可能にする技。
――コントロールが難しく、一歩間違えれば神経が焼き切れる。
――ついさっき異能を身体に宿したばかりの少年に、マネできるはず……。
「いや、真似できてないのか。神経が焼き切れるのも上等……再生ありきで走ってる」
カイルが市街地を駆け抜け、角を曲がる。
見失うわけにはいかない、炎の目くらましで無駄に長引く。クレスはイラつきながらも後を追った。
しかし、角を曲がった先にいたのは、カイルではなかった。
『僕が、きた』
クレスの前に立っていたのは――クレス自身だった。
同じ顔、同じ体格、同じ構えの何かが、そこにいた。
目の前の彼と自分に、ただ一つの違いがあるとすれば、影が濃いことだ。
彼の周辺だけなぜか景色がほの暗く、その輪郭は黒くぼやけている。
そして、その口元がゆっくりと吊り上がる。
クレスが絶対に浮かべない種類の笑みだった。
『君は誰だ?』
『僕だ』
『僕が殺す?』
『僕が死ぬ』
『誰が殺す?』
『僕が殺す』
『…ケハッ!』
『…ウ、キャッ!』
『ケヒヒヒヒヒッ!』
『ウヒャヒャヒャハハハハハハハ!』
『君は誰だ?』
声もクレスと同じだ。
しかし機械で作ったように抑揚がない、空っぽの声音である。
何かのバグか、時折、安っぽいホラー映画の演出のように、音声がスローになる。
鏡像が一歩踏み出す。
クレスは理解した。
――動きが、同じだ。
踏み込み、重心移動、拳の角度。すべてが、自分と寸分違わない。
いや、それだけじゃない。
身にまとう闘気や、拳が与える圧力でわかる。
力も、互角だ。
クレスは覚悟を決めた顔で、拳を構える。
「驕っていたよ。……僕も甘く見ていたらしい。この世界の混ざりを」
両者の呼吸のタイミングが一致する。
次の瞬間――二人は同時に踏み込んだ。
拳と拳が、真正面から衝突する。
世界が一瞬、静止する。
巨大な爆発が巻き起こり、二人の姿は土煙に覆われた。
【街頭ビジョンのスクリーン、あるいはゾンビたちのスマホ画面】
マイクを両手に握ったリシェルがご機嫌にまくし立てる。
「これぞ王道バトル! ヒーロー、クレスの前に立ちはだかるは、彼自身の鏡像だ!」
リシェルの声量はスピーカーの限界を超えていた。キインと響くハウリングが、波紋のように王都全域へと広がっていく。
「襲いかかるかつての仲間(七本槍)! 尊厳を踏みにじる敵(カイル)! そして何か黒くなった己の分身! ヒーロー映画の三作目でよく見る光景がクレス選手に襲いかかる! さあさあ、皆さまお立合い! 敵も味方も災厄も、策も切り札もイレギュラーも出揃いました! 正真正銘これにて決着、ラストバトルの開幕ですッ!」