TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

***


しんと静まり返ったマンションの一室に、ひとりでベッドに腰掛けて、大倉さんを待っていた。

いつまで経っても帰ってこない大倉さんに、イライラしたり落ち込んだり。忙しない心が、不安定すぎて、どうにもならない。


「井上にされた例のアレを、大倉さんに言うには、すっげぇ勇気がいる。だけど誤解を解くには、それしか方法がないんだよな……」


大好きな秀彦をキズ付けないよう、ずっと隠していたのに、今頃バレてしまうなんてタイミングが悪いとしか言いようがない。しかも突然現れた、元カレらしいアイツ――


「大倉さん、アイツに誘われるがままに、跨ったりしていないだろうな。俺が井上とデキてるって勘違いしたまま、出て行っちまったし」


逸らされた視線の冷たかったこと――まるでデカい氷を、心臓にぎゅっと押し当てられたみたいだった。その冷たさで躰が固まって、動くことも喋ることもできなかった。


「っ……情けねぇな。こんなことで、涙がっ……出てくる、なんて」


――大倉さんに、捨てられるかもしれない。


今まで考えたこともなかった。それはいつも俺に対してヤキモチばかり妬いて、べったりとくっついていたから。それが当たり前になって、安心していたよな。


「熱しやすく冷めやすい、なんていう言葉があるくらいだ。いつかは、冷え切ってしまうのかもしれない」


ぽたぽたと涙を溢しながら、ムダに喋ってしまう。受け入れたくない現実を突きつけられて、マイナス思考に陥っていたら。


「……レインくん」


その声に導かれるように顔を上げたら、大倉さんが部屋の前で呆然とした表情で立っていた。


いてもたってもいられず彼に駆け寄り、ぎゅっとその躰に抱きついてやる。お酒とタバコのニオイが染み付いていることで、ずっと呑んでいたのはわかったのだが――最終的な不安までは、どうしても消せずにいた。

前カレと一緒にいたけど何もなかったと、大倉さんの口から直接聞くまで、不安が胸の中にいっぱいで、ぐるぐると渦巻いている状態。口を開くこともままならずに、しがみ付くのが精一杯。


「君を泣かせてしまったのは、俺のせいなんだろうね」


静かに告げられた言葉に、ふるふると首を横に振った。俺が勝手に不安に苛まれて、ムダに涙を流しただけなのに。


「秀彦、信じらんねぇかもしれないけど、井上とはデキてない。デキてないんだけど、その……」

「…………」


無言で俺の涙を拭ってくれる、優しいてのひら。思わず、両手で握りしめてしまった。あの出来事を言わなきゃならない苦しさがいっぱいで、ぎゅっと縋りついてしまう。


「……アイツが新人として入って来て、ちょっとしてから……ロッカールームで襲われたんだ」

「なっ!?」


握りしめていた大倉さんの手が、みるみる内に冷たくなっていく。


「襲われたといっても、最後までしたんじゃなくて、さ。俺のを手で扱いただけで……イかされたトコを、ばっちり撮影されてしまって」

「おいおい、冗談だろ……穂高さんがそんな――何でレインくんに、そんなことをしたんだ!?」

「わかんねぇ。しかも直ぐに撮影したメモリを消去して、好きに使ってくれってビデオカメラを手渡され――」


言い終えないうちに、大倉さんが空いてる片手で俺の躰を引き寄せ、強く抱きしめた。


「どうして君はそのことを、俺に言わなかったんだ? 恋人なのに……どうして」

「それはっ! だって……キズつけたくなかった。それにこんな恥ずかしいミスを、どうしても知られたくなかったし。井上のことをただの新人だと思って、舐めてかかっていた自分の失態を見せたくなくて」

「へぇ、舐めてかかった挙句に、穂高さんの手で気持ちよくさせられて、ものの数秒でイっちゃったんだ。レインくん」

「くっ」


耳元で囁くように告げられた言葉に、反論の余地なし――ずばりすぎて、どうしていいかわからねぇよ。


「ねぇ俺の手と、どっちが気持ちいいのかな? 教えてくれないか?」

「そんなの、大倉さんのに決まってるだろ!」

「だけど俺はレインくんを、ものの数秒でイかせたことはないけどな」


くすくす笑ったと思ったら、俺自身を服の上から掴んでくる。


「ちょっ、いきなりっ!?」

「いきなり、こうやってされたんでしょ? さて次は、どうやったらものの数秒で、レインくんをイかせられるのか、是非とも丁寧に教えてほしいね」


こうして大倉さんの復讐劇が、見事に展開されてしまい――結局俺は、昼近くまで寝かせてもらえなかったのである。

しかもこの復讐は俺だけじゃなく、井上にも直接攻撃することになったんだ。

エゴイストな男の扱い方 レモネード色の恋

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

40

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚