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みみ
こんこん。 返事を待たずにドアが開いた。
「Lぅ……♡」
シキがふらふらと部屋へ入ってくる。
目はとろんとしており、体がポカポカ。完全に午後のぐずぐずモードだった。
「だっこして……」
両手を広げる。
しかし──
Lは見向きもしない。
モニターを睨みつけたままキーボードを叩いている。
「Lぅ」
「……」
「だっこ」
「……」
「Lぅぅ」
「……」
シキは口を尖らせた。
とてとてと近付く。そしてLの椅子の横にぺたりと座った。
「だっこしてぇ……」
「今忙しいです」
ようやく返事が返ってきた。
だが冷たい。
ものすごく冷たい。
「むぅ……」
シキはLの腕をつんつんした。
Lは無反応だった。視線は資料から動かない。
モニターには事故調査報告書が映っている。
Lは眉間に皺を寄せた。
「おかしい」
「Lぅ」
「この件はおかしい」
「だっこ」
「明らかに第三者の介入がある……」
「だっこ」
「なのに事故として処理されている」
「だっこ」
「なぜだ?」
「知らないもん」
Lは初めてシキを見た。
「……」
そして、また画面へ戻る。
シキはむぅぅと頬を膨らませた。
それから椅子の肘掛けに顎を乗せる。
「Lぅ」
「……」
「ねむいよ」
「寝てください」
「ひとりやだ」
「そうですか」
「だっこ」
「今忙しいです」
「けち」
「はい」
あまりにも塩対応だった。
シキはしばらくLをじーっと見上げる。
Lは資料を見る。
シキはLを見る。
Lは資料を見る。
シキはLを見る。
すると──こんこん、とドアが鳴った。
Lは顔も上げない。
「はい」
ドアが開く。
入ってきたのはワタリだった。銀の盆を持ち、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。
「おや」
ワタリは部屋の様子を見て少し目を細めた。
肘掛けに顎を乗せているシキ。資料を睨んでいるL。見るからに構図がおかしい。
「あ!じいじ」
シキがぱっと顔を上げた。
「だっこ」
即答だった。
ワタリは苦笑する。
「またですか」
「だっこぉ」
「仕方ありませんね」
やれやれ、と言いながらワタリは盆を机へ置いた。
そして慣れた手つきでシキを抱き上げる。
「うゆ♡」
途端にご機嫌になる。
シキはワタリの首に腕を回した。
ふにゃふにゃになっている。まるで抱っこされるためだけに生まれてきた生き物だった。
「よしよし」
ワタリが背中を軽く叩く。
「眠たいのですか?」
「うん」
「そうですか」
「でも」
シキがむぅっと頬を膨らませた。
「Lがだっこしてくれない」
ワタリはちらりとLを見る。
Lは資料を読んでいる。完全に聞こえているはずなのに反応しない。
「Lぅ」
「……」
「Lぅ」
「……」
「Lぅぅぅ」
「聞こえています」
「だっこして」
「今忙しいです」
「前してくれたじゃん……」
「……」
「Lのばか」
「はい」
「けち」
「はい」
「冷たい」
「はい」
あまりにも認める。
シキは思わず固まった。反論されると思ったのだ。
全部認められた。
「むぅぅぅぅ……!」
ワタリの腕の中で暴れ始める。
「Lがだっこしてくれない!して!」
「嫌です」
「しーて!」
「嫌です」
「してぇぇぇ!」
「事件を解決したら考えます」
「やぁだ!」
Lはようやく顔を上げた。
赤くなって抗議しているシキ。
困ったように抱えているワタリ。
Lは数秒見つめる。
そして──
「ワタリ」
「はい」
「そのまま連れて行ってください」
「Lぅぅぅ!!」
即座に叫び声が上がった。
「ほらほら、シキ」
「やだぁ!」
「お菓子でも食べましょう」
「いらない!」
「紅茶は?」
「いらない!」
「美味しいですよ」
「Lがいい!」
部屋が静かになった。
Lは無言になった。シキだけがぷくーっと膨れている。
やがて──
Lは深いため息をついた。
「……わかりました」
「!」
シキの顔がぱっと明るくなる。
だが、Lの視線はシキではなかった。
机の上に広げられた資料。
事故報告書。
検視結果。
現場写真。
その全てを見つめながら、Lは静かに言った。
「二時間です」
「?」
「二時間で、この事件、解決します」
部屋の空気が変わる。
ワタリも表情を引き締めた。
「警察は事故として処理していますが、私にはそうは思えません」
Lは一枚の証拠写真を指先で摘み上げる。
「これは殺人事件です」
シキも思わず口を閉じる。
Lは続けた。
「死因について、法医学の観点から再検討する必要があります」
そして目を細めた。
「なぜ事故と判断されたのか。なぜ誰も疑問を抱かなかったのか。なぜ、この傷が見落とされたのか」
資料を机へ置く。
「だから」
Lはようやくシキを見た。
「少しだけ、一人で考えさせてください」
シキはぱちぱちと瞬きをした。
それから素直に頷く。
「はぁい」
「良い子です」
Lはそう言うと再び資料へ視線を落とした。
もうそこには、さっきまで抱っこを拒否していた青年はいない。真実を追う探偵だけがいた。
シキはしばらくその横顔を眺めていた。
真剣な顔。難しいことを考えている顔。普段より少しだけ鋭い目。
やがて、ぽつりと尋ねる。
「L」
「なんですか」
「あとでちゅうしてくれる?」
Lの指が一瞬止まった。
「シキ……」
「ん?」
「そういうことは、好きな人に言うんですよ」
シキは首を傾げる。
「好きな人だよ?」
その返事はあまりにも自然だった。
迷いも照れもない。
「……」
だからこそLには分かる。
それは恋ではない。
憧れとも違う。家族に向ける信頼。
安心できる居場所を見つけた子供のような感情。
守られていると信じているからこそ向けられる無防備さだった。
Lは少しだけ表情を和らげる。
「そうですね」
そして静かに答えた。
「──大きくなったら、しましょうか」
「ほんと?」
「ええ」
「やったぁ」
それだけで満足したらしい。
シキはふにゃりと笑った。
ワタリに連れられながら部屋を出ていく。
「頑張ってね〜Lぅ」
ドアが閉まる。
部屋に静寂が戻った。
Lは再び資料へ向き直った。事故として処理された死。見落とされた違和感。
隠された真実。
そして──きっかり二時間後。
Lは答えに辿り着いた。
〈♡〉
夜。
ベッドの上ではシキがすうすうと寝息を立てている。
昼間あれだけ騒いでいたのが嘘のようだった。
ぬいぐるみを抱きしめて。
安心しきった顔で眠っている。
その隣にはLがいた。
資料もパソコンも片付けられている。
事件は解決した。
だから今だけは探偵ではない。
Lは横になり、眠るシキをそっと引き寄せた。
小さな体が腕の中に収まる。
起きる気配はない。
むしろ安心したように少しだけ近付いてきた。
Lは目を閉じる。
約束は守った。
抱っこも。
一緒にいることも。
そして──
額に、そっとキスを落とした。
それは恋人へのものではない。約束を守るためでもない。
今日一日、よく頑張った子供を寝かしつけるような。そんな優しい祝福だった。
シキは眠ったまま小さく身じろぎする。
「うゆ……」
夢の中で笑った気がした。
Lもわずかに口元を緩める。
そして再びシキを抱き寄せた。
窓の外では月が静かに夜を照らしている。
だから今日はそれで十分。窓の外で月が静かに輝く中、二人は穏やかな眠りへと落ちていった。
コメント
1件
アカツキさん、読んだよ〜!!😭💕 シキの「だっこ」連発とLの塩対応のギャップがもう可愛すぎて悶えた…!でも最後、事件解決して眠るシキにそっとキスするところ、優しさが滲みすぎてエモすぎるよ…!!「好きな人だよ?」って無邪気に言うシキが眩しすぎたし、Lの「大きくなったら」の返しも絶妙だった…!次も絶対読みたい!!🌸✨