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「こういうことはしばらくしなかったんだけど、最近色々と悩んでるみたいだし情緒不安定なのかな?」
誰もいない空間に話し掛けながら、タブレットのスイッチを押す不機嫌そうな顔をした女性が映る。
長い髪を後ろにまとめ、口を少しへの字にして、芯の通った気の強そうな目を私に向け見つめてくる。
「どこから聞いてた?」
「結婚しよう。返事を聞かせて欲しいってとこから」
「結構最初からだね。じゃあ説明はいらないよね」
タブレットの画面に映る女性にそう話し掛けると、大きくため息をつかれる。
「麻琴から聞いてはいたけど本当に見境ないのね」
「幻滅した?」
「驚きはしたけど幻滅はしてないかな。私としては無事に結婚できればいいわけだし」
「理沙お姉ちゃんは、浮気とかに寛大ってこと?」
「あぁそれはどうだろう? 浮気されたら正直ムカつくっていえばムカつくけど、達行と結婚できれば私の第一の目的は達成だしね。麻琴とのやり取りを見た限り結婚した後、手綱を引けば制御できそうな感じじゃない?」
お姉ちゃんが含みのある笑みを浮かべ、私を見てくる。
「理沙お姉ちゃんは、お金や立場だけじゃなくて、お兄ちゃん自身に対しても愛はあるの?」
「ええ、もちろんそれらも含めて彼に対して愛はあるわよ」
今度は私が含みのある笑みを浮かべ、お姉ちゃんを見る。
「お姉ちゃんのそういうとこっ、好きだな」
「それはどうも。私も麻琴のこと好きよ」
そう言って二人で笑い合う。
「じゃあ、お兄ちゃんのことよろしくね」
「ええ、任せて。私なりに幸せな家族を築いてみせるわよ」
そう言いながら小さくガッツポーズを取った後、笑顔で手を振るお姉ちゃんに手を振り返して私は、タブレットの画面に触れ通話を終える。
暗くなった画面に私の顔が映る。
「お兄ちゃんには理沙お姉ちゃんみたいな人が必要なの。お兄ちゃんをちゃんのことを社会的立場やお金までしっかり換算して評価してくれる人じゃないと、麻琴みたいに気持ち重視な人だと気持ちのブレに耐えれないもの。
理沙お姉ちゃんを探すのに苦労したんだから、う~んと幸せになってもらわないとね」
お兄ちゃんは心の弱い人。自分より強い人に頼るか、自分よりも弱い人に強気に接するか、どちらかに依存していないとダメな人。
その点頭も切れて、しっかりと手綱を引いてくれる理沙お姉ちゃんなら、安心してお兄ちゃんのことを任せられるはず。
私の初恋の人だったお兄ちゃんには幸せになってもらわないといけない。狼は食べるだけだけど、おおかみちゃんは獲物の面倒をちゃんとみるの。
私に愛を教え、寂しさを教え、嫉妬を教えてくれたお兄ちゃんには、麻琴を心に刻んで幸せに生きてもらわないと困るから。
画面に映る麻琴と同時に微笑み私は夕食の支度の続きに取り掛かる。