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29 - 第29話番外編 「一線から退く」

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2024年08月13日

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1.転換

『そうか…退職…』

『…すみません…』

『いや…まぁ上司の私としては、もう少し君の活躍を見たかったというのもあるんだけどね。仕方ない、今日までご苦労だった』

『…ありがとうございました』

竹内、村中の訃報から数日。塩谷はデビルハンターを辞めた。

2人の葬式は挙げられなかった。ただでさえ悪魔被害での死者が増え続けている世の中だ。デビルハンターである以前にただの一般人の葬式なんてそう簡単にできやしない。死んでいったデビルハンターたちが眠る集合墓地に埋葬することで精一杯だった。葬儀屋はさぞ儲かっているのだろう、なんてひねくれたことを考えてしまう。

集合墓地。今の時代には見合わない、盛土と無造作に突き刺さった白い十字架。雑に作られて引っかかっている花かんむり。その上で戯れる黒いカラスたち。目に映るもの全てが忌まわしい。塩谷は仏花だけ供えて足早に去った。

若くして仕事を失った。自らの意思だったとは言えど、これからどうやって生きていこうか。

進路希望調査で悩み続けていたあの頃を思い出す。両親の一件があってからはデビルハンター以外に何も考えていなかったため、今再び決めろと言われると咄嗟に出てこない。生活費が底を尽きる前に一刻も早く新しい職を探さなければ。

そんなことを考えながら辿る帰り道の途中、脇の建物のガラス窓に自身の姿が写ったのが目に入る。

その瞬間、あの日村中に言われた言葉を思い出した。

『公務員とかやってそう』

『─⋯!』

公務員。そうだ、教師になろう。

どうしてそう思ったのかは分からない。こんな考えはこの先二度と出てこないだろう。なんだかあの頃の2人に導かれているような気がした。

自分ではああ言っていたものの、客観的に見れば塩谷は頭がいい。学年単位なら必ず上位にいたくらいだ。幸い今ならデビルハンターに全て持っていかれているため人手が空いているかもしれない。

考えるより行動だ、まずは教員採用試験のために勉強をイチからし直さなくては。

2.教員採用試験

教員免許は取るだけでもかなり大変だ。塩谷は何を思ったか高校教員を目指していたので、そうなると他の教員と比べればケタ違いのレベルである。

卒業してからそこまでの日数は経っていなかったからか、勉強の知識はまだまだ頭に入っていた。このまま続けていれば望みはある。

塩谷は早速勉強を始めた。生活費を稼ぐためにいくつバイトを掛け持ったか分からない。高校教員は大卒が大前提であるため、同い年の人たちよりも1年遅れではあったが大学にも入った。幸運なことに学費は生前親が自分のために貯めてくれていた遺産から出せた。なんとか4年生まで通い続け、教育実習にも行った。

こんなにトントン拍子に事が進んでいいものか。塩谷は亡き親に感謝しつつ、必死に勉強をし続けた。

もう味方はいない。周りの人間は全てライバル。この過酷な戦争を生き抜くにあたって信じられるのはもはや自分だけ。

塩谷よりも更に頭の良い人たちが大勢いる中で、1人置いていかれないように必死にかじりついた。

そして、幾年もの月日が流れ。

塩谷は無事、教員採用試験に合格した。

3.新たな道

実感が湧かないまま進み出した新たな道。新卒1年目にして初めて配属されたのは、ありがたいことに居住地からさほど離れていない高校だった。偏差値は高くもなく低くもなく。ある程度の治安は保たれている、平凡だが過ごしやすそうなところであった。

「今年度から皆さんと一緒に学ばせて頂きます、塩谷です」

通常1年目でクラスを受け持つことはまずない。塩谷の担当教科は国語だったため、それぞれの学年の現代文の授業を教えることとなった。

塩谷が初めてクラスを持ったのはそれから2年後。新卒3年目の出来事だった。

初めての担任。初めての自分のクラス。そして、初めての教育相談。

「先生、私将来デビルハンターになるの」

受け持っていた女子生徒からそう言われた時、全身の血の気が引いていくのを感じた。

「周りはみんなやめとけって言うんだけどね。でもぶっちゃけデビルハンターが1番稼げるし、なんだかんだ楽できそうだし」

「…デビルハンター…」

「まぁいい加減めんどくなってきたし、言われたところで諦める気はないんだけどさ。親とか友達とか、やめろって言うだけ言って他をフォローしてくれるわけでもないじゃん?」

「……」

幾度となく死線をくぐり抜けてきた塩谷はもはや直感で分かるようになっていた。

この女子生徒は、死ぬ。

「だからせめてセンセーは私の夢否定しないでね。いちおーこれでも自分なりに考えたつもりだから」

自信満々にそう言われてしまっては、もう返す言葉もない。未来ある高校生の夢を壊したくない。だが身をもって体験したあの死地へ大切な生徒を送り込む勇気もない。心の迷いが渦巻いて、結果声をかけられずにいる。

デビルハンターになりたいと言ったのがその女子生徒だけならまだよかった。

「私デビルハンターになろうと思ってて─」

「今んとこ考えてるのはデビルハンターかなー」

「公安の…なんだっけ、デビルハンター?俺あれになりたいっす」

みんなみんな、死ぬ未来が塩谷には見えていた。案の定、その生徒たちは卒業後デビルハンターになってすぐに死んだ。誰一人として生き残ることはなかった。

「…チクショウ…」

守りたいと思った者ほどすぐに消えていく。それがどれだけの善人だろうと平等に。

毎日のように耳に入る訃報が怖い。それに耐性がつき、表情ひとつ変えることなく受け流す周りの人間が怖い。その気持ちに飲み込まれ、段々とそれに慣れてきてしまう自分自身もまた、怖い。

大勢の生徒たちと出会い、訃報を聞き、傷つき、悩む。何度も何度もそれを繰り返して、ついに教師人生5年目。塩谷は長くいた学校から別の学校に異動になった。

異動先でもまだなお続く生徒の死。どこに行ってもデビルハンターになった元生徒たちの訃報を聞いた。

頼むから、もうこれ以上死なないでくれ。何度願ったことだろう。もう覚えていない。

4.みんなとは違う

教師になってから10年目。人手の少なさによるものか、塩谷はまだ34の若さであるにも関わらず最高学年─3年生の担任に任命された。

3年の担任を初めて持つ身にとって気になるのは、やはりそのクラスの治安の良さ。塩谷は前年度2年生の担任をしていた教師数名になんとなく要注意人物を聞いてみた。

「─まぁ、先生が受け持つクラスにいたとして、1番気を遣うべきなのはやっぱり院瀬見でしょうね」

「院瀬見…」

「アイツもなかなか難しい奴でね。小学生?のときに家族が行方不明になって、そのあと引き取られた先の親戚も悪魔に殺されて。仕方ないんだろうけど、そのせいですっかりグレちゃって。授業中は寝るわ態度は悪いわで本当に面倒な生徒でしたよ」

「そう…ですか」

「私らも何度か更生させようとしたんですけどね。ダメでしたよ、もうみんな諦めてます。まぁなんかあったら1発ぶっ叩くぐらいしても大丈夫ですから」

同僚は一通りその生徒の愚痴をこぼしたあと、早々に話を切り上げて仕事に戻っていった。

“院瀬見”。学年屈指の問題児と言えど、自分のクラスにさえいなければなんとかやり過ごせそうだ。

だが何故だろう、塩谷はその”院瀬見”の素性を聞いたとき、心の奥底の感情が揺れ動いたような気がした。

「改めまして。今日から3年2組の担任となった塩谷です。よろしくお願いします。とりあえず出席も兼ねて名前を覚えたいと思うので、呼ばれたら返事してください」

五十音順に綺麗に並べられた名前を1人1人読み上げていく。

阿久津あくつ

「はい」

あずま

「はい」

天野あまの

「はい」

五十嵐いがらし

「はい」

そして、その名を見て、呼んだ時に初めて気がついた。

「院瀬見─」

「……」

いた。

噂の問題児・院瀬見カザノは塩谷のクラスにいた。

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