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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#極道
鷹槻れん/鷹槻うなの

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#シングルマザー
水羽凛
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第2節 桐生百合香『私みたいにならないで』―1―
部屋の中は、やけに静かだった。
暖房の音だけが、一定のリズムで空気を震わせている。
その静けさが、ほんの少し前までは当たり前じゃなかったことを、百合香はちゃんと分かっている。
(しろ、もういないんだ……)
そう考えかけて、やめた。
今はまだ、そこに触れる必要はない。
触れてしまえば、きっと――崩れるから。
鏡の前に立って、ふと肩口で揺れる髪に触れる。
指先にかかる長さはもう、少し前のものじゃない。
背中まであったはずの重みも、毎日のように立っていた店の匂いも、どちらも、あの日の火と一緒に消えた。
放火だったと、雄二は言っていた。
(きっと仕方ないこと……だよ、ね……?)
組に関わる以上、そういうこともあるかもしれない、とは思っていた。
それでも――。
しろに続いて、大事なものがなくなったことだけは、思っていたよりも、ずっと重かった。
視線を落とせば、右手に巻かれた包帯が目に入る。
――火傷はまだ、ちょっぴり痛む。
けれど。
それすらも、今は大したことじゃないと思えてしまうのが、なんとなく怖かった。
鏡の中の自分に、小さく息を吐く。
口角を上げる。
大丈夫。
いつも通り。
百合香はそうやって、何度も自分に言い聞かせた。
***
きっかけは、一本の電話だった。
雄二からの、少しだけ困ったような声。
「断ってもいいんだが――」
歯切れ悪く雄二から前置きされた時点で、百合香には断る気なんてなかった。
雄二が世話になっている『相良組』のカシラ――相良京介が大事にしている、堅気の女の子。
神田芽生という名のその子が、インフルエンザで寝込んでいるという。
雄二は、『どうしても相良が家を空けねばならない間だけ、百合香に神田さんの面倒を見て欲しいらしいんだ』と吐息を落とした。
相手が若いお嬢さんだけに、組の男衆を付けるわけにはいかないらしい。
芽生のことは、名前とスリーサイズだけ……ずっと前から知っていた百合香である。
百合香の店同様、住んでいた家を火事で焼かれ、身一つで放り出されてしまった彼女のため、相良から頼まれて下着を見繕ったことがあるのだ。仲介は雄二が買って出てくれたけれど、下着を選びながらワクワクしたのを覚えている。
正直、(特定の恋人は作らない相良さんが可愛がっている子ってどんな子なんだろう?)と……かなり気になっていた。
だから。
「大丈夫だよ。任せて?」
百合香は雄二の申し出に、一も二もなく即答した。
今の百合香には店もなく、仕事もない。
家にいても、しろがいないことや店を失ったことばかりを考えてしまうから、いっそのこと、何か用事を頼まれて出かけていた方がマシだと思ったのもある。
だから、百合香は行こう、と心に決めた。
***
「百合香。最初にひとつ言っておかなきゃならないんだが……その、カシラのところ、最近猫を飼い始めてな……」
相良京介の家へ向かう道すがら、窓外へ視線を向けたままの雄二が、どこか歯切れの悪い調子でそう切り出した。
運転は、相良組の若い衆――石矢恭司がしていて、百合香は雄二と並んでスモークガラスに覆われたリアシートへ座っている。
いつも雄二が乗っている車より数段高級仕様なのは、百合香を相良のマンションへ送り届けた後、相良が雄二とともにこの車で出かけるため――。
要するに、組長仕様の車なのだ。
「赤ちゃん?」
「ああ、〝殿様〟って名付けられたのが納得できるような、変な柄の子猫だ。その猫がな、ちょっと体調を崩して入院していたんだが……実は、今日退院することになっている。おそらく、百合香が神田さんといる間に、佐山が連れ帰ってくると思う」
そう言われて、
「……佐山さんが……」
一瞬だけ胸がきゅっと締めつけられる。
けれど――。
「……そっか。退院するんだ」
そう言って、少しだけ笑った。
「元気になって、よかった……」
言ったあとで、ほんの少しだけ違和感が残る。だけど気付かないふりをした。
だが、雄二は何か思うところがあったんだろう。
「……本当に、平気か?」
百合香の方を向いて、そう問いかけてきた。
「何が?」
百合香は、わざと軽く返す。
なのに――。
「……猫」
雄二が決定的な言葉を投げかけてくるから、知らず知らずのうちにより一層頑張ってしまう。
「もう、雄ちゃんってば気にしすぎ。……私、しろのことは覚悟できてたって言ったじゃない」
「……ああ、そうだったな……」
「だから、ね? 変に気にしないで? 平気だって思ってるのに……雄ちゃんに心配されたら、落ち込んじゃいそう」
「……すまん」
百合香がにこっと笑って見せると、雄二が謝りながらも、どこか安心したように小さく吐息を落とした。
彼が思いのほか自分のことを心配してくれていたのだと分かって、この人に心配をかけてはいけない、と百合香は一層気持ちを引き締める。
コメント
2件
ゆりかちゃん、色々と我慢しすぎだよう😭
ああ、今回の百合香さんの心情描写、すごく丁寧で胸に沁みたわ……。しろがいなくなった喪失感を押し♡♡♡て「平気」って言い聞かせる場面、めちゃくちゃ切なかった。雄二が猫の話を切り出したときの一瞬の間とか、「元気になってよかった」って言ったあとの違和感、細かいけど読んでてグッときた。それでも他人のために動こうとする百合香さんの優しさが、逆に心配になるよな……。続きが気になる🔥