【閲覧注意⚠︎】この小説はnmmnです。nmmnが苦手な方やタグの意味が分からない方は一度ご確認の上、再度閲覧をするかのご検討をお願いします。又、この小説は作者の妄想・フィクションです。ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!閲覧は自己責任です。
※その他弱シリアス・BL要素有り( 🟦×🏺)
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🏺『』その他「」無線「”○○○”」
アグレッシブ過ぎる車椅子生活を始めてまた数ヶ月、とうとう身体に小さな花が咲いた。
名をサンビタリアと言うらしい。
スマホで調べた後に“へぇ〜”と軽く驚いて、つぼ浦は慣れた手つきでボタンを押したりルートを確認したり、今日の準備を整えてから本署の駐車場へと向かう。
『“特殊刑事課つぼ浦匠、オンデューティーッ!”』
「“ナイスデューティ〜”」
「“おはようございまーす”」
明るい向上に何人の署員が安堵することだろうか。
今日も元気だなぁとホッとするのもつかの間、つぼ浦が駐車場へと現れれば一瞬にしてその場は凍りつく。
「!、は?、ぇ…、つぼ浦?」
『ん、イトセンじゃないっすか。おはようございます』
「おはよう…、だけど、それ。どうした?」
『あぁ、これっすか?』
チラリと見つめた自身の身体には、至る所にポンポンと花が咲いている。
ひまわりの花を小さくしたかのような装いの花々は、どこもかしこもそれはそれは見事に咲いていた。
『やっと咲いたんすよ(笑)、めちゃめちゃキレイじゃないっすか?』
「綺麗?、」
ぺいんの問いかけに、つぼ浦の表情が緩く綻ぶ。
『多少の痛みにも慣れたことだし、どうせなら咲かねぇかなって思ってたんすよね(笑)』
その言葉にまた、署員の頬には冷たく嫌な空気が張り付く。
とうとう咲いてしまったのだ。
この街では有り得ない、あまりにも特殊過ぎる死へのカウントダウンが目の前に広がっていた。
「つぼ浦、」
『?、なんすか』
若干うわずったぺいんの声に、つぼ浦は首を傾げる。
一番まずいのは花咲病に身体を蝕まれているのにも関わらず、いつもと何ら変わらぬ態度…むしろ花が咲く事に対して肯定的になっているつぼ浦匠の存在である。
ぺいんは頭をフル回転して、花が咲いた場合の対応に関する電子資料をスマホから探し出す。
「えーっと、えっと、ッ…、つぼ浦。とりあえずさ、病院行こっか」
『え?、なんでですか?』
途端にぴくりと眉間の皺を寄せたつぼ浦に、周囲は事の重大さを悟られぬようにとチリジリに活動し始める。
「ほら、せっかく花咲いたんだしさ。先生たちにも沢山お世話になってるだろ?、だから見せてあげた方が絶対良いと思うんだよなァ」
『あ〜、そういう事か。確かにそうだな(笑)』
“それはそうだ”と頷いて、つぼ浦はピルボックス病院のルートを設定し始める。
「俺もついてっていい?」
『ん、いいっすよ。行きましょう』
数十分ぺいんの歩みに合わせながら病院へと向かい、いつものように数人が待機している広々とした正面ラウンジへと入り込む。
その場にいた医療従事者はヒュっとか細く喉に空気を通してから、ニコニコと穏やかにつぼ浦を迎え入れた。
「おはようつぼ浦さん!、、いっぱい、咲いたねぇ〜」
『おう、キレイだろ?』
視線が一番つぼ浦と近しいももみ・マルフォイが、にこりと笑みを浮かべて一歩近づく。
「そうだねぇキレイだね。お花咲いてて、痛みはないですか?」
『ン、まぁ。そこまででもねぇな』
「よく見てもいーい?」
『いいぜ』
黄色い花にそっと触れて、その裏を真剣な眼差しで見つめる。
「……。」
その肌にはしっかりと根が張り、頑丈な茎が肌を貫通して外界へと現れている。
葉っぱも花もつぼ浦の身体を栄養源とし、その一枚一枚がしっとりと生きているのが分かった。
『どうだ?、よく見れたか?』
「…うん!、ももみお花大好きだから、よく見れて勉強になりました!」
“ありがとう”と呟いて、ももみはもう一つ言葉を投げかける。
「つぼ浦さん、お花咲いて嬉しい?」
『あぁ、嬉しいぜ』
「…全く、嫌じゃない?」
『?、なんでンなこと聞くんだ?』
心の底からそう思っているかの様な、ポカンとした表情でつぼ浦はももみを見つめる。
「ん〜、なんとなく?」
『…、何となくか。あぁ、そうか』
ももみの背後、数メートルの場所で待機している医者たちがピコピコと無線を繋いで口を動かすのが見えた。
ももみがチラリとつぼ浦の横に立っているぺいんにアイコンタクトをして、ぺいんは笑顔の張り付いたそのお面に影を落とす。
『…なぁ、俺なんか、おかしいこと言ったか?』
「…んーん。つぼ浦さんは何も悪くないの。つぼ浦さんは、お花が好きなだけだもん」
“何も悪くないよ”
そう言ってスっと取り出した鎮静剤の注射器を、ももみはその首筋に打とうと更に近づく。
『゙ッ、テメェ何するつもりだ、っ、イトセン?、アンタも何してんだッ、離せってッ!、』
全速力でバックしようとしたつぼ浦の車椅子を背後から押さえ込んで、ぺいんは“ごめんッ”と力強く言葉を放つ。
『俺の身体に何するつもりだッ?、』
「何もしない、傷つけないから、」
ブンブンと頭を動かすつぼ浦に、ももみは手元を慌ただしく動かす。
『嘘だっ、俺を寝かせて何かすんだろ?、…あ、花か?、もしかしてこの花を、ッ、』
脳裏に過ぎった最悪の状況に顔を歪めて、つぼ浦は数あるボタンをカチカチと俊敏に操作する。
「!、ももみしゃがめッ!、」
オペ室の使用準備を始める為に動いていた他の職員が、ももみの頭に向けられたその拳銃を視界に捉えて叫んだ。
「え?」
「ももみさんッ!、」
途端にバンッという乾いた音が病院に響き渡る。
「゙ッ、ッ〜、」
「へ、ぇ?、らーど?、らーど大丈夫?!、」
鳥野の叫びを瞬時に理解して、硬直してしまったももみの身体を雷堂が弾き出す。
標的は雷堂にチェンジし、鉛玉を身体にくらった雷堂はつぼ浦と同様に顔を歪ませる。
「らーどッ、」
「ももみさんッ!、俺の事はいいですから早く鎮静をっ!、」
つぼ浦の思考回路はもうおかしくなっていて、自身の身体に咲いた花を守ろうと武器まで出してくる状況だ。
錯乱状態なつぼ浦を止めるには、鎮静剤を打って、即効性のある麻酔を投与しなければならない。
「つぼ浦お前ッ、何やってんだよっ!、」
『アンタこそ何してんだッ?、俺の敵なのか?、そうなんだろ?、なぁイトセン、』
震えた声で呟かれるその言葉に、ぺいんの思考が揺さぶられる。
「っ、゙ッ〜、っ、あぁそうだ、そうだよ。お前が長生きしてくれるなら恨まれたっていい!、ごめんつぼ浦ッ!(泣)、」
ぺいんは意を決して、再度標準の設定を行うであろうその両手を背後から思い切り押さえつける。
『゙ッ、くっそッ、アンタもか、アンタも俺をっ、ッ…、ぁ、……、ッ…、』
ぺいんに気を取られてるその合間に、ももみがその首筋に鎮静剤を流し込んで息を吐く。
「、鎮静出来ました!、」
「オペ室の準備は?、」
「できてます!、マスクの準備も完了です!、」
慌ただしく医療班がチェックを行い、つぼ浦はそのままオペ室へと押し込まれる。
一分も経たないうちに全身麻酔を投与され、つぼ浦はそのまま深い深い眠りに落ちた。
ラウンジに残ったのはぺいんの息の詰まる呼吸音と、雷堂の苦しげな息づかいのみ。
「っ……、はぁ…。いいんだこれで、これでいい。…先生、ごめんな色々と」
「いえ、いいんです。…本来であれば、俺たちの力でつぼ浦さんの病を完治してあげたかった。けど、それが出来ないのであれば…せめて延命の治療を…。だから、゙っ…、このくらいの傷、どうって事ないです」
ピンセットで鉛玉を抜いて、ぐるぐると手際よく自身の身体に包帯を巻く雷堂ましろ。
誰も何も悪くないのに、その場に立ち会った人間の肩には重い何かがどっとのしかかっている様な気がした。
延命治療を施されたつぼ浦の身体には、ポンポンと綺麗に咲いていたその花々が跡形もなく消えていた。地肌スレスレのところで茎をカットして、ちょうど一年程前につぼ浦自身が果物ナイフで行った切除と同様な見た目に戻っている。
しかし、植物というのはコンクリートを押し上げるほどの強い力を持ち、なんど切られたってまた数ヶ月もすれば色の良い緑の葉と綺麗な花が咲く。
『……はぁ、…。』
つぼ浦は病院内の個室に強制入院させられ、車椅子を使うことなく何不自由ない生活を過ごしていた。
ベッドでの生活はあまりにも暇を持て余し、心身共に落ち着いてきた頃には…あんなにも嫌な事をした筈の医者たちと穏やかに会話をする事まで出来るようになっていた。
“仕方のなかったこと”と気持ちの整理をつければ、特に恨みを持つことも無くいつも通りに関わることが出来る。
本来のつぼ浦匠は楽観的で慎重で、人の気持ちを汲み取れる良い人であった。
その人柄の良さが脳内に根を張られても尚、ずっとしぶとく残り続けている。
『…花、また咲かねぇかな』
ピキピキと痛みを伴って無理やり腕を小さく掲げて、ぐーぱーと手のひらを動かす毎日。
ここ二週間はそんなボヤキしか出てこなかった。
”コンコンコンッ”
『ン、誰だー?』
「青井らだお。入るよ?」
そう言って病室へと足を踏み入れた青井は、つぼ浦のベッドの近くに丸椅子をスルスルと転がして息を吐く。
「はぁ、疲れた」
『くく(笑)…アンタなぁ、休憩入る口実で俺のところに見舞い来るの、やめた方が良いと思うぜ?』
「何言ってんだかぁ…」
青井は持参した食べ物や飲み物をパクパクと適当に胃に押し込んで、病室だというのに煙草を吹かし始める。
『ほら見ろ。また喫煙所じゃねぇか』
「ふぅ……、だってさ、この前オルカに言われちゃったんだもん。らだおは最近煙草吸い過ぎだって」
息苦しくなったのか、食事の時にさえ付けていたその被り物をパカりと取り外す。
「あんまり吸うと身体に悪いってさ。今度吸ってるところ見かけたらガキタバコと交換するからなって言われてるんだよ」
『はは(笑)、そりゃあ面白い。証拠写真として撮っとくか?、スマホ貸してくれ』
「だーめ。絶対貸さん。大人しく寝てな」
無理やり身じろぐその身体に優しく触れて、青井はつぼ浦の胸を静かに撫でる。
『っ、ッ…。俺はガキじゃないんだが?』
「ガキだなんて思ってないよ。可愛い後輩だなぁーって思ってるだけ」
単調に呟かれた言葉とは裏腹に、青井の目つきは優しく、深く、また慈愛に満ちた瞳でつぼ浦を見つめた。
『、…、』
「?、なぁに、つぼ浦」
『……はぁー…、なんかなァ、調子が狂うんだよな』
「なんで(笑)、労わってるだけなのに?」
消失した煙草を見届けてから、青井はじー…っとつぼ浦を観察する。
『……。なんすか』
「んー…。別にぃ?」
サングラスの下でぱちぱちと瞬きを繰り返すその瞳が、心做しか焦っているようにも見えた。
『…、ッ、ちょ、サングラス、ッ…、返せって、』
「やだね。しばらくこのまま話そうよ」
何を思ったのか、青井がつぼ浦の色つきメガネをひょいと外してイタズラげに笑う。
『馬鹿言うなって、俺のアイデンティティだぞ』
「初めて聞いたよそんな事。絶対嘘じゃん」
ニヨニヨと笑みを漏らして、青井は褐色なその肌に手を伸ばす。
つぼ浦の頬はサラサラと触り心地が良く、クマになった目元を指の腹で撫でればチカチカと瞼を瞬かせた。
『ッ、、っ、』
「くすぐったい?」
『っ、ッ〜……、や、やめろって、アオセン、』
口元を震わせて、動かない身体を無理やり動かそうと力を込める。
「だからやめなって。限界突破しようとするの」
『だったら触んな、ったく…、こっちの身にもなれってんだ…、』
胸を撫でられて、頬に触れられて、つぼ浦は諦めたのか長々と深呼吸を繰り返す。
「なんかドキドキしてない?」
『゙っ、当たり前だろ、アンタは人たらしが過ぎるぜ…。…まぁ、それがアオセンのいい所だけどな』
いついかなる時も平等で、誠実で、淡白で、…だから周りに人が集まる。
こうしてアオセンを独り占めできるのも、巡り巡って花咲病のおかげだ。
そんなことを考えていたら胸が急激に熱くなって、ピキビキと内側から根を張るような痛みが込み上げてくる。
「…つぼ浦?、」
『っ、゙っ、すぅー…はぁ…、……アオセン、手ぇ、握ってくれねぇか?』
胸に添えられていた青井の手を、つぼ浦が無理やり腕を動かしてぎゅっと掴みかかる。
「、まだそんな力残ってたんだね。いいよ?、別に」
頬に添えた手は残したまま、つぼ浦の言う通りにその手を軽く握りしめ…指先でその手の公をそっと撫でる。
『ふふ(笑)、アンタはいちいち壊れ物扱うみたいに撫でるんだな』
「…んー。大切だからね」
『……誰が?』
「?、お前が」
何を当たり前なことに疑問を持っているのやらと首を傾げて、青井は言葉を続ける。
「めちゃめちゃ大事よ。伝わってない?、俺の気持ち」
後輩としてめちゃめちゃ大事で、大切で、こんなにも傍に居るというのに何一つ分かっていないらしい。
そして、今になってやっと気がついたが…俺はどうやらつぼ浦匠の事が好きらしい。
じゃなきゃこんなにも人に対して執着を持てない。
『……、…わ、わっかんねぇ、な』
「ふは(笑)、分かってる癖にさぁ」
『………、いや、わからん。俺には人に好かれるっつー自信がねぇんだ。…いつだって、そうだった』
伝えるのも伝えられるのも自分に自信が持てなくて、本当に相手から好意を受け取れるだけの価値が自分にあるのかが分からなくて、悩んだ結果はいつだって知らぬフリ、気が付かぬフリだ。
『…、でも、こんな俺でもな、花は素直に言ってくれたんだ』
サンビタリアはワガママな花、私を見つめてと呟く陽気な花だった。
『アンタに見せたかったんだ、ッ…、キレイな花なんだぜ?、黄色くて、ひまわりみてぇで、はっ、はっ、゙ッ、アンタに、一番、見せたかった、』
痛みに耐えるのにも限界が訪れて、つぼ浦は青井の手に擦り寄って笑みを浮かべる。
心臓部を貫かれる様な激痛が胸に広がって、息をグッと止めた瞬間にブチリと嫌な音が身体に響いた。
痛いのに嬉しくて、頭が回らなくて、それでも溢れ出す言葉は止まらない。
『゙ッはっ、゙っ〜、ッ、いてぇ、はは(笑)、クソ痛てぇな、でも、ほら、アオセン、』
捲り上げた服の下には血みどろな肌と一緒により一層大きな花がポンポンと咲き誇り、青井はつぼ浦の最期がこの日この瞬間だと悟った。
『キレイだろ?、アオセン、』
「、…、…うん。綺麗だよ、綺麗だけど…、ッ…、つぼ浦、俺はさ、…お前に生き続けて、欲しかったよ…、」
溢れ出る涙をそのままに、青井はぎゅっとその手を握って思考を巡らせる。
医者たちが言っていた通り、ロスサントスの住民は生き続けたいという願いが胸の内にある限りは絶対に死ぬ事はない。
しかし、今のつぼ浦はこの咲き乱れる花が全てで、その身体が植物と化したってもう悔いは一切残らないだろう。
皮肉なものだ。
言葉に出来ない想いが花となり、渡した相手の気持ちも知らずに意識が遠のいて行く。
「つぼ浦…、ッ、…つぼ浦よく聞いて。俺は許せないよ、お前だけ無理やり花を渡して、俺には何も渡させてくれないの?、」
『、…じゃあ、アンタは何を、くれるんだ?、』
意識が朦朧とし始めたその瞳と対峙して、青井は強い言葉を放つ。
「全部くれてやるよ。言葉も、体も、気持ちも、全部お前にあげる。ッ、だから、目を瞑ったら願い続けて、“俺は生きたい”って、思い続けて」
ガチャンッとナースコールのボタンを押して、青井はつぼ浦の頬を両手で包み込む。
「絶対約束だからね?、俺から全部貰うために、起きてくるんだよ?、」
見たこともない必死な表情に、つぼ浦は小さく笑みを浮かべてからぱちりと一度だけ瞬きをする。
ドタバタと響く廊下の足音と、目の前の光景と、それから自分自身の気持ちを手繰り寄せて、つぼ浦は呆気なく息を引き取った。
ドキドキと鼓動が響いて、思考が巡って、気がつけばロスサントスという空港の出入口に突っ立っていた。
『……ん、……?、…゙あ?、』
「あぁやっと起きたか。ようこそロスサントスへ」
きょろきょろと辺りを見回せば、音もなく目の前に青いスーツを着た男が煙の中から現れる。
『、…アンタだれだ?』
「私はこの街で一番偉い男。市長の山下ひろしだ」
どこかで聞いた事のあるような向上を右から左に受け流して、つぼ浦は自身の名前を軽く述べる。
『俺はつぼ浦匠、警察になる為に来たんだが…、』
「あぁ知っているよ。君は特殊刑事課のつぼ浦匠だ」
『?、なんだそりゃ…、』
噛み合わない話につぼ浦は首を傾げて、それでも市長は言葉を続ける。
「まぁ後のことは警察のお仲間に聞いてくれ。私は忙しいんでね。それじゃあ」
パチンッとスナップ音が一つ響いて、その瞬間には何も無かったはずの殺風景なロータリーから全くの別世界が広がる。
人々の声とサイレンの音と、見上げるほどに大きな警察署。
『あの市長は魔法使いか何かか?、』
なんだか分からないが初手で行こうと思っていた警察署に辿り着いてお得な気持ちになった。
正面玄関を押し開けて、受付であろうテーブルに置かれていた真っ赤なボタンをカチリと押す。
『……誰も来ねぇな』
少しイラついて何度も何度もボタンを押せば、“遅くなりましたぁ〜!”という慌てた声と共に警察が一人やって来た。
聞き覚えがあるようで無いようで、つぼ浦はその姿を目に止めてまた首を傾げる。
『アンタ警察か?』
「ぇ、…え?、ぇえっ!、つぼ浦さん?!、」
『?、俺は確かにつぼ浦だが…』
「ら、らだお先生、らだお先生に言わなきゃ、らだお先生ッ、えっと、ちょっと待っててくださいね!、ソファに座って待っててください!、絶対待っててください!、」
何度もぺこぺこと頭を下げて、さぶ郎はすっ転ぶ勢いで扉のその奥へと消えていく。
『゙んー?、あの紙袋…、なんか見覚えがあったな』
警察なのに紙袋を被るなんて…という疑問など一切抱くことはなく、まるでそれが通常の生活なのだと納得しようと思えば出来てしまう。
『どうなってんだ?、なんか記憶がまばらだぜ…、正夢でも見たっけか?』
ザザッとノイズのように記憶がぼやけて、つぼ浦は仕方なしにソファへと腰掛ける。
数分待っていれば後方でガチャリとドアが開く音が響き、その後すぐに声をかけられた。
「つぼ浦、」
『?、』
ちらりと顔だけ振り返れば、その人物は直ぐに正面へとやって来て…そのままゆるゆるとしゃがみ込む。
『、おい、大丈夫か?、』
声をかければ投げ捨てるようにヘルメットを取り外して、その真っ青な髪と…瞳と、顔と、全てがこちらに向いて今にも泣き出しそうな笑みを浮かべる男性警察官。
『っ、えっ…と…、だ、大丈夫か?、』
「…うん。大丈夫。…つぼ浦さん、ですか?」
『あぁ、つぼ浦匠だ。叔父の勲さんがここで働いてるはずなんだが…、でも、…なんか居なさそうだな』
あまりにも綺麗な警察署を見渡して、何故だかつぼ浦勲がここにはもう居ない様な気がしてならない。
「…はい。いませんよ」
『だろうな。よくわからんがそんな気がした。…つーか、アンタにもなんか、見覚えっつーか…、違和感が、…?、』
青い瞳が弧を描き、つぼ浦の両手はきゅっとその手に包み込まれる。
『っ、』
「つぼ浦、…さん。俺の事、分かる?」
『いや、その…、わっかんない、けど…、動悸が、する…ぜ、』
ぱちぱちと瞬きを繰り返して、つぼ浦はその視線から逃れるようにふいと顔を横に逸らす。
「ダメだよつぼ浦、逃げないで、」
ひたりと添えられたその手のひらには覚えがあって、レザーの手袋越しなのに、何故だか温かみを感じる。
優しくて、繊細で、まるで壊れ物を扱うかのようなその手つきに、いつだかの俺は緩く笑った。
『……、……なぁ、アンタ、もしかしてだけどよ、…あおいらだおって、言わないか?』
「…うん。俺は青井らだお。アオセンって呼ばれてたかもね」
『アオセン、…、うん。その方がしっくりくるな』
つぼ浦は頭に痛みがあるのか、“いてててて…”と顔を顰めて息を吐く。
「っふふ(笑)、…大丈夫。直ぐに思い出せるよ」
きっとロケランや愛しのソファを見たら一瞬で思い出すだろう。
「…まぁその前に、俺で思い出して欲しかったけどね」
“仕方がないなぁ(笑)”と笑って、青井はゆっくりと立ち上がる。
「渡したいものも沢山あるし、とりあえず着いてきてよ」
『あ、あぁ。わかったッ、』
ブンブンと頭を横に振って、意識を安定させたつぼ浦が勢いよく立ち上がる。
『ちなみに渡したいものってなんだ?、俺たしか今日ここに来たばっかなんだが、、』
「あーうん、そうだね。…じゃあ一つだけ先にあげるよ。記憶が戻るまで困惑するだろうけど(笑)…、何も受け取らずに死んだお前への罰ってことで」
後ろをついて歩こうとしていたつぼ浦の腕をぐっと引っ張って、青井はその身体を抱きしめる。
耳元で囁いた言葉はあまりにも甘く、そしてつぼ浦の記憶を取り戻すには少しだけ惜しい言葉だった。
「俺はどんなに綺麗な花よりも、お前の方が可愛いし、大切だし、…ずっと、大好きだよ」
『っ、ッ〜、ッ、ぁ、アオセン、っ、…え、いや、いやいやいやっ!、テメェいったい俺のなんなんだ?!、はぁッ?!、こそばゆいんだが??!、』
「何って(笑)、全部お前のもの。お前が好きなアオセンだけど?」
『はぁ〜っ?!、』
「ほら行くよ。どうせ直ぐに思い出すんだから」
初手は赤ちゃんキャップにでも合わせるかぁと考えて、青井はぎゃーぎゃーと戸惑うつぼ浦の手をゆるりと引く。
数ヶ月ぶりに帰ってきたつぼ浦匠の身体は市長の摩訶不思議な魔法によって少しだけ幼く、そして少しだけ大きな古傷を胸にこさえて帰ってきた。
仮に記憶が戻らなくたって別に良い。
花に蝕まれるつぼ浦匠よりも、羞恥で慌てふためく今のつぼ浦匠の方がよっぽど良い。
『っ、ちょっ、だぁもうっ、離せ!、はなせってアオセン!、聞いてんのか鬼!、心無き!、…?、』
自分の口から溢れ出て来た言葉に首を傾げるその姿を眺めては、青井はクスクスと面白げに笑ってもっとぎゅっと強くその手を握りしめる。
みんなが心の底から安堵できるその日は、案外すぐそこにあるのかもしれない。
『っ〜ッ、くっそ…、テメェ、も゙う、』
何度目かも分からないつぼ浦の羞恥に満ちたその声が、警察署の廊下に“勘弁してくれ〜ッ!”と情けなく響いた。
かわいいお花[完]
コメント
3件
泣きました😭😭本当に大好きです…!!!!!! 死に際の🏺に向けた🟦の呪いにもとれるような必死な言葉が🏺をロスサントスに引き寄せて、またこれから今まで通りであって今まで通りでない愛おしい日々が始まって行くんだと思うと胸がいっぱいになります😭😭😭😭 こんなに素晴らしい作品を書いてくださって、私の心をいっぱいにしてくださってありがとうございます!!!!