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「いらっしゃいませ」
カランカランと音が鳴ると同時に扉に顔を向け、そう言う。
扉は音を鳴らしながら閉まる。
「あら!ひなちゃん!今日はいるのね!」
「美並さんお久しぶりです」
「お母様の体調は大丈夫?」
僕はその質問にドキッとしながら答える。
「はい、だいぶ回復してきた見たいです。ご心配ありがとうごさいます」
「感謝なんてしなくてもいいのよ。お母様って私よりも少し下の年代でしょ?心配にならざるおえないじゃない」
「ありがとうございます」
美並さんはここら辺に住んでいて、よく来て下さる常連さんだ。
知性と余裕を感じる女性。これは完全に僕の予想だが、美並さんはアルファだと思う。
僕はそんな美並さんに嘘をついている。
母の体調は悪くない。
「今日はどうされますか?」
「うーん、ランチにしようかな」
「かしこまりました。デザートは食後にお運びしますか?」
「うん。そうします」
「かしこまりました。ではあちらの席へどうぞ」
「ありがとう。美味しいコーヒーを楽しみにしてるわ」
「はい、美味しいコーヒーをお届けしますね」
僕がそう言うと美並さんは微笑みながら案内した席へと向かっていった。
僕は美並さんを見送ってからコーヒー豆を取るために後ろにある棚に手を伸ばした。
志水陽向 26歳
大学院に通いながらここで働いていたので、3年くらいだろうか、それくらいの間ここでお世話になっている。
大学院ではコーヒーと心理学についてどのような関わりがあるのかを研究していた。
でも、学べたことは少なかった気がする。
どこに行ったって気持ち悪がられ、煙たがられる。
その理由は僕の第二の性がオメガだからだ。
別に今に始まったことではないから慣れてはいる。
それでも、親が必死で稼いでくれた学費を無駄にしている気がして、何度も悩んだ。
「陽向くん?大丈夫?手止まってるよ?」
「あ⋯すいません。ぼーっとしちゃってました」
「それならいいけど、休みが必要だったらちゃんと言ってね」
「すいません。休みなら後1ヶ月は大丈夫なので」
僕がそう言い切ると店長はランチを持って美並さんの元へ向かっていった。
それに続いて急いでコーヒーを淹れる準備をする。
お湯の温度をしっかりと調整し、丁寧にお湯を注ぐ。その瞬間、コーヒーの香りが湯気と共に上がる。
僕はこの瞬間が大好きだ。
どれだけ体調が悪くてもこの香りを嗅ぐといくらかマシになる。
こうやって何度もヒートを乗り越えてきた。
僕は大好きなコーヒーを美並さんの元へ運びに行った。
「ひなちゃん、ありがとう」
「いえいえ、ごゆっくりお過ごし下さい」
僕は美並さんにコーヒーを渡してから、カウンター内に戻った。
「そういえば、体調は大丈夫なの?」
「はい、もう大丈夫です。今回は少し早くお休みを取ってしまい、申し訳ございませんでした」
「そんなそんな、謝らなくていいよ」
昨日まで僕はヒート休暇というものを取っていた。
僕のヒートは他の人よりも軽いものらしい、
3日間くらいで治まるし、予定通りにくる。
重い人だと熱が出たり、寝たきりだったり、
でも、今回は違った。
予定よりも3日も早くきたし、熱も出た。
少し強い薬を飲んでも、治まることはなく、むしろ熱はどんどんと上がっていった。
家族は遠くに住んでいるので、助けを求めることはしなかった。そんな時、僕は店長に連絡した。
店長はオメガサポートセンターへと連絡してくれて、僕の家に番のいるオメガを呼んでくれた。
その時に知ったが、店長にはオメガの妹さんがいるらしく、理解があるらしい。
カランカランと扉の音が鳴った。
僕は扉に顔を向ける。
「いらっしゃいませ」