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音が鳴ったと同時に入ってきたお客様を見て僕の心臓は強く、激しく動き出す。
「ブラックコーヒー1つで」
「かしこまりました。お会計460円となります」
「はい」
「カードですね」
僕は震える手でブラックカードを受け取り会計を済ませた。
「お返しいたします」
「ありがとう」
僕はお客様に見下ろされながらコーヒーを入れ始める。
このお客様は先月頃からほぼ毎日来てくださっている方だ。店長は最近よく来てくれて嬉しいと喜んでいた。
でも僕はこのお客様が嫌いだ。
端正な顔立ち
ワックスで丁寧に整えられた髪
見上げるほどの高い身長
誰もが知っている高級ブランドのスーツ
蜂が寄ってきそうなほどの良い香り
このどれもが僕の嫌いなアルファだということを象徴している。
そしてもう1つ。
このお客様は最近よく話題になっている有名建設会社、水面建設会社の専務だ。
テレビにも番がいないイケメンアルファ専務としてよく出演しているので、テレビをあまり見ない僕でも知っている。
僕は自分を落ち着かせようとミルで砕いたコーヒー豆にお湯を注ぐが、前でずっと見られているせいか落ち着くことは全くなかった。
「こちら、ブラックコーヒーです」
僕は恐怖を悟られないように口角を上げ、そう言った。
「ありがとう」
「お席はご自由なところにお座りください」
それを聞いたお客様はいつもと同じカウンター席の左から二番目の席に座った。
少し中途半端な気もするが、きっとなにかこだわりがあるのだろう。
ガタッ
その音同時に僕は崩れ座る。
僕の膝は恐怖から解放され安心したのか力が抜けてしまったようだ。
「陽向くん、大丈夫?」
その様子を見つけた店長は慌てて駆け寄ってきた。
「⋯あ⋯店長」
店長はきっと何かを察してくれたのだろう。
何も言わず、裏の休憩室へと連れて行ってくれた。
気付くと時刻は14時となっていた。
僕は眠ってしまったようだ。
急いで表に戻ろうとしたがテーブルの上に置いてある手紙を読むために足を止めた。
『陽向くんへ
今日は早く帰りなさい
家に帰ったら連絡してくれればいいから、表に出てこなくていいからね』
そこには店長の美しい文字でそう書かれていた。
ぐぅ〜
眠っていただけでもお腹はすくものだ。
僕はその欲求に素直に従うことにした。
実は最近、隣のビルに展望台ができた。
ネットやテレビでよく紹介されており、とても気になっている。
それに、14時とお昼を少し過ぎた時間だ。
だから、人はそこまで多くないだろう。
僕は持ってきたお弁当と荷物を持って隣のビルへと向かった。
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