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第9話、読んだよ〜!😭💕 恒生くん、登場からイケメンすぎて鈴奈ちゃんが固まるのわかる…!でも「クソしてくる」とか「デカいの出した」って食事中に言っちゃうギャップ、最高に笑ったwww 上品な見た目からの下品ワード、姉のトラウマが原因なのかと思うとちょっと切なくもなるけどね…💦 でも、鈴奈ちゃんがサギのことも忘れて「タイプだ…」ってときめいてるの、キュンとした!この先どうなるのか気になりすぎる…次の話も楽しみにしてるよ〜⋆♡
恵比寿の駅前は混んではいたが、新宿渋谷あたりと異なり、どこか上品な大人の街の様相だった。
洒落た高級レストランやカフェなどが立ち並び、婚活パーティーでも人気の場所らしい。
鈴奈にとっても恵比寿は初めてで、どこか貧乏人を寄せ付けない雰囲気に居心地の悪さを感じていたが、その美貌で通り過ぎる多くの男たちの視線を集めていることを本人は知るよしもない。
祐也の部屋に謎の女がいたこと。そして黒崎との電話の内容を聞かれてしまったかもしれない恐ろしさに心が落ち着かないが、今はこれから会うコウに集中しなければならない。なにせ、もう絶対に失敗できないのだ。
スカイウォークという動く歩道に乗った先に、コウとの待ち合わせ場所である恵比寿ガーデンプレイスに到着した。広大な敷地に商業施設とオフィスの入ったビルがそびえ立つ、恵比寿の人気デートスポットでもある。それはまるで、夜空に浮かぶ華やかなお城のようでもあった。
物珍しさに鈴奈はきょろきょろと辺りを見回した。カップルが多い。皆、いい服を着ていてお金を持っていそうな。
自分以外の誰もが幸せそうに見え、気分が落ち込んでしまう。ふと涙があふれてくる。
「りんさん、ですか?」
背後から男の声が聞こえ、はっとして鈴奈は振り返った。
そこには仕立ての良い黒のスーツを着こなした、180cmは優に超える高身長の男が立っていた。
そして顔はといえば_____シャープな面長、きりりとした口元。完璧なまでに通った鼻筋。そして鈴奈をじっと見つめる切長の目。しっかり整ったツーブロック、ミディアムの髪型。
それはまさに、「はっぴい」のプロフィール写真と、全く同じ顔。コウだった。
そのあまりのイケメンぶりに、鈴奈は口を半開きにしたまま固まってしまう。
「あれ、人違いだったかな。失礼しました」
コウは表情を変えることなく頭を下げると、その場を立ち去ろうとした。
「ま、待ってください!」
「はい?」
「コウさんですよね。わ、わたし、りんです……」
コウは改めて鈴奈に向き直り、どこか冷たい目でじっと顔を見つめた。
「はじめまして。コウです」
「あ、はい。はじめまして」
「がっかりさせてしまいましたか?」
「えっ?」
「だって、泣いているから」
「ち、違うんですこれは、その、目にゴミが入ってしまって」
コウはスーツのポケットからハンカチを取り出すと、すっと鈴奈に差し出した。その動作に全く無駄がない。鈴奈はおずおずとハンカチを受け取ると、涙を拭った。
「大丈夫ですか?」
「はい。ハンカチをありがとうございました」
返そうとすると、コウは片手でそれを押し留める。
「持っててください。今日は風が強い。また目にゴミが入るかもしれないから」
「す、すみません」
「じゃあ、行きましょうか。レストランを予約してあるので」
そう言ってコウは再び鈴奈をじっと見つめた。表情を全く見せないところが、クールな印象だ。そして紳士。
それは鈴奈がこれまで出会ってきた軽薄な男たちとは、全く異なるタイプ。
じゃがいもだったタカシのような男が現れると予想していた鈴奈は戸惑いを覚え、そして_____きゅんと心が揺り動かされるのを感じていた。
◇
コウに案内されたのは、ガーデンプレイスの高層階にある高級フレンチだった。しかも綺麗な夜景が一望できる窓側の席。
かつての彼氏とは大衆居酒屋か格安ファミリーレストランくらいしか行かなかったので、とても緊張してしまう。
「お酒は飲めますか?」
「あ、はい。少しだけなら」
「じゃあ、ワインを。それから_____」
コウは来慣れているのか、メニューも見ずに鈴奈が聞いたこともない料理の名前を次々とギャルソンに伝える。
ギャルソンが頭を下げて立ち去ると、コウはどこか冷ややかな目でじっと鈴奈を見つめた。
その視線に鈴奈はどぎまぎして、まともにコウの顔を見れなかった。
「……あの、私の顔になにかついてます?」
「いや。綺麗なひとだと思って」
鈴奈はぶんぶんと激しく頭を振った。
「そ、そんなことないです、コウさん。私なんて……」
「謙遜はいいです。僕は、りんさんがとても素敵に思える」
その言葉に、どきっとする。これまでナンパされるたびに数多くの薄っぺらい称賛を受けてきたが、そのどれよりも真実味に満ちた一言だった。
「もう、ニックネームで呼び合うのはやめにしませんか。僕は碓氷恒生(うすいこうせい)と言います。君は?」
「私は……」
幸手鈴奈、と答えようとした瞬間。眉間に皺を寄せた黒崎の顔がふっと頭に浮かんだ。
そうだった。つい雰囲気に飲まれてしまって、婚活サギ師としての偽名を忘れるところだった。
「ま、前橋リサ、です」
「前橋、リサさん」
恒生は、ゆっくりとその名前をリピートする。
偽名で呼ばれた。これが婚活サギの第一歩だと思うと、心がちくりと痛む。
ワインが運ばれてきて、お互いグラスを掲げて静かに乾杯した。
これまでに飲んだこともない高級ワインを口にしながら、鈴奈はちらちらと恒生を観察した。
どこか冷たい感じはするけど、本当にイケメンだ。身長は高くスタイルもいい。
お金だって持っていそうだけども。そうだ腕時計は……スマートウォッチだ。これって、どう判断すればいいのかわからない。
「う、碓氷さんって、どこにお勤めなのですか?」
「ああ、そうか。自己紹介しなきゃね。僕、こういうの初めてだから」
「初めて?」
「マッチングアプリに登録して、初めて会うのが前橋さんなんだ」
「そうだったんですか」
「僕は28才の会社員。三星商事で営業をしている」
三星商事といえば、商社で1、2を争う大企業だ。おそらく給料もトップクラスだろう。
イケメンで勤め先は大企業、高収入とあれば、モテまくりのはずなのに。なんで、マッチングアプリなんか。さりげなく探りを入れろと、頭のなかに居座る黒崎が命令する。
「碓氷さん、モテるんじゃないですか?」
すると、恒生はかすかに困惑した表情を浮かべた。
「みんながそう言うけど、どうしてだろう」
「えっ」
「これまでモテた経験なんて一度もないのに。女性と付き合った数だって、ほんの数人で人並みだよ。しかも長く続いた試しもない。とても地味な毎日を送っている」
「そんなまた、ご謙遜を」
「さっきも言ったけど、謙遜はいい。そういうの嫌いなんだ」
冷たかった顔に、ふっと笑みが浮かぶ。とたんに鈴奈の顔は真っ赤になる。心臓のドキドキが止まらない。
まさしく恒生は_____完全に鈴奈のタイプだった。
それから食事をしながら、お互いのことを話し合った。もちろん鈴奈は黒崎の考えた嘘の経歴を話さざるを得なかったが、それを口にするたびに心が酷くすり減っていくのを感じていた。それはまるで、シンデレラのガラスの靴のヒールがひび割れていくように。
「なんか、顔色悪いみたいだけど、大丈夫?」
「え……い、いえ、大丈夫です」
「それならいいけど。具合が悪かったら、言って欲しい。前橋さんには気を遣わせたくないから」
なんて、優しいんだろう。優しくて、イケメンで、大企業勤めで。
サギのことも忘れて、すっかり恒生に心惹かれていた鈴奈だったが……。
「どうやら、僕も緊張しているかもしれない。少し腹の具合が」
「えっ、碓氷さんこそ、大丈夫ですか?」
「ああ……ちょっと、クソしてくる」
今、クソ……って言いました?
耳を疑うような衝撃的なその一言に、鈴奈は食べていたテリーヌが鼻の中に逆流しそうになった。
恒生はすっと立ち上がると、どこか物憂げな表情で堂々とトイレに向かう。
そして10分後、再び堂々とした様子で席に戻ってきた。
「待たせてすまない」
「い、いえ」
「デカいのを出したら、すっきりした」
「ぶっ!」
今度は耐え切れずに飲んでいた水を、吹き出してしまう。
どうして食事中に、わざわざそんなことを。しかもとても上品なイケメンから出て来る言葉とは思えない。
「どうしたの? 大丈夫?」
ごほごほと咳をする鈴奈に、恒生は声をかけてくる。自分が何を言ったか、まるでわかっていないようだ。
「だ、だいじょうぶ……です……」
「顔が真っ青だけど。お腹が痛いなら、トイレ行ってスッキリ出してきたほうがいい。我慢はからだに良くないから」
「い、いえ。お腹のほうは平気ですから」
「それなら、いいが」
鈴奈はすっかり食欲が失せていた。
このひと……悪気はないんだ。だけど……。
いや、今はとりあえず話題を変えよう。
「碓氷さんて、ご兄弟はいます?」
「うん、5歳上の姉がひとり」
「へえ。碓氷さんかっこいいから、お姉さんもきっとお綺麗なかたなんでしょうね」
そう言うと、恒生はふっと眉間に皺を寄せた。
「昔から、姉は苦手なんだ」
「それはまた、どうしてですか?」
「確かに美人だが……下品で粗暴でとても性格が悪くてね。小さい頃からさんざんイジめられたんだ。何度タマを握りつぶされたか、わからない」
ウズラにフォークを刺そうとしていた手が止まる。
タマ……って。あのタマのことですよね?
「しかも頭がいいから、両親からは弟思いの優しい子だと思われている。だけど、実態はとんでもない姉なんだ。僕はずっと姉に暴力と洗脳で支配され続けてきた結果_____女性が苦手になってしまった」
「女性が苦手……」
「ああ。こんなこと、前橋さんに言う話ではないかもしれないけど。さんざん女性の悪いところを見せつけられてしまった。僕が女性と長く付き合えないのは、多分に姉の影響を受けていると言っていいだろう」
そうか……。なんとなく、わかったような気がする。
初対面の女性に、つい下品な言葉を使ってしまうのも、きっとお姉さんのせいなんだ。
おそらく今でも、お姉さんを通して女性にトラウマを持ち続けているに違いない。
「こんな僕で良かったら、また会ってくれるかな」
静かにそう問いかける恒生に、鈴奈は少し間を置いて「はい」と答えた。