テラーノベル
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鈴奈は複雑な気持ちで夜道を歩いていた。
恒生さんが、気になって仕方がない。
イケメンで優しくて。一目惚れしてしまうほど完璧な反面、どこか、いやかなり変わってる。
でも、もっと彼のことを知りたいような……。
違う、違う! そうじゃないの!
恒生さんは、あくまで婚活サギのターゲットなんだ。だから、また会う約束をした。それだけのこと。
でも、本当に恒生さんを騙して金を奪うことなんて私にできるのだろうか。
なんだかとっても心苦しい。胸が張り裂けてしまいそう。
それに自分ができなくても、もう一人の悪魔のような自分が現れて、恒生さんを毒牙にかけることを想像すると恐ろしい。そういえば、タカシとはどうなってるのだろうか。
オンボロアパートの前に辿りつくと、道端に黒のレクサスが停まっていた。
嫌な予感がする。そして予感的中とばかりに窓から顔を出したのは黒崎だった。
「おう、乗れや」
黒崎はぶすっとした顔に鋭い眼光で鈴奈を睨みつける。拒否できるわけもなく、鈴奈はおずおずと助手席に乗り込んだ。
「すずらんって白い花、可憐だよな」
「は、はあ」
「だけど知ってるか? すずらんの葉には毒がある。それも青酸カリの15倍という猛毒だそうだ。恐ろしいよな。見た目と違ってとんでもねえ。綺麗な花には毒があるって、マジなんだぜ」
どこか遠くを見るようにそう呟くと、いきなり鈴奈に凶悪な顔を寄せた。
「ひっ!」
「てめえ、ふざけんじゃねえよっ! 曽根孝から手を引けと言っただろうがっ!!」
「ど、どうして、それを」
「うちの若いモンが見たんだよ、おまえとタカシがべったりくっつきながらホテルに入るところをな!」
黒崎のツバががんがん飛んでくるが、それを避けるどころではなく鈴奈はすっかり泣き顔だった。
「タカシのことは調べ上げた。裏金で入った大学で遊びまくったあげくに何人もの女を無理やりヤっちまって訴えられた。表沙汰にならないように親が多額の和解金で手を打ったらしいが、さすがに逆鱗に触れてな、勘当されたらしい。確かに親は金持ちだが、今のタカシにカネをせびることなんかできやしねえ」
「そ、そうなんですか」
「なんとか大学を卒業したあと、警官になりやがった。その理由は権力を盾に弱いものイジメしたいからだと。まったく、ふざけた野郎だぜ。偉そうに片っ端から職質かけていたら、たまたま運よく大物をとっ捕まえた。それで若くして刑事になったわけだ」
今や黒崎の顔は鈴奈とキス寸前までに迫っていた。
「おまえ、なんでわざわざ火中の栗を拾おうとする? おまえのせいでこっちもでっかいリスク抱えてるんだ。わかってるのか!?」
「す、すみません……でも、それ私であって、私じゃなくて……」
「はあ? なに言ってるかわからねえよ! とにかく、タカシとまた逢ったりしたら、今度ばかりはソープ行きなんて甘いモンじゃすまねえぞ!」
怒鳴り疲れたのかぜいぜいと呼吸を荒げると、ようやく鈴奈から顔を離した。
そうして窓の外に目を向けると、地獄の底から聞こえて来るような暗い声でぼそっと囁く。
「どうなるかは……わかるよな。いくらバカなおまえでも」
鈴奈は恐ろしさに、ただただ打ち震えるしかなかった。
◇
黒崎から解放されアパートの部屋に戻ると、鈴奈は呆然としたままベッドに座り込んだ。
タカシと会うなと言われても、暴走したもう一人の自分はコントロール不能。また勝手に体を乗っ取って、タカシへの婚活サギを続けるだろう。
でも、それが黒崎に見つかったら……。
暗い森に埋められるか、はたまた深い海の底に沈められるか。あの脅しから想像するに、絶望的な結末しか思い浮かばない。
なにか良い手はないだろうか、と考え込むが。
それを邪魔するように、隣の部屋からあの不吉なノコギリの音が聞こえてくる。
ぎーこ、ぎーこ……。
そして、苛立ったような女の怒声。
「ああ、まったく! 足の骨が切れやしない!」
あ、あし!?
や、やっぱり……殺した旦那の死体を切断している!?
鈴奈が恐れ慄いていると、突然スマホが鳴って飛び上がった。
震える手で通話ボタンをタップする。すると耳に飛び込んできたのは、タカシの声だった。
「スズナ、カネが用意できたぞ」
「は、はい?」
「約束したカネだよ。実家に忍び込んでなんとかくすねてきた。かなりやばかったぜ」
「約束って、いったい」
「難病の弟の治療費がすぐに必要だって言ってただろ」
鈴奈はひとりっ子で、弟はいない。
おそらくもうひとりの自分がタカシから金を奪うため、話をでっちあげたに違いない。
「ま、待って。それは」
「明日、いつもの店で会おう。じゃあな」
唐突に通話の切れたスマホを持ったまま、鈴奈は戦慄していた。
黒崎に、タカシと会うことが知られてしまったら。いや、それだけは絶対だめ。
これ以上、もう一人の自分を勝手にさせるわけにはいかない。なんとか阻止しないと、殺されてしまう。
タカシに本当のことを言おう。
自分は二重人格で、別の自分が嘘をついているのだと。タカシを騙してサギを働こうとしていると。
だから、もう二度と会えない。きちんとそう伝えなきゃ。
鈴奈は意を決すると、タカシに電話をかけた。
「おう、どうしたスズナ」
「タカシくん……ごめんなさい……」
「これもスズナのためだ。危険な橋くらい渡ることなんざ、へでもねえぜ」
「ち、違うの。よく聞いて。あ、あのね……」
詰まりながらも必死に言葉を発しようとした、その時。
鈴奈は頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。ああっ!と叫ぶと頭ががくんと下がり、意識が遠ざかっていく_____。
「おい、どうした! スズナ、なにかあったのか!?」
スマホから聞こえてくる慌てたようなタカシの声に、鈴奈はふっと薄目を開ける。
ゆらりと上体を起こすと、スマホをゆっくりと耳に当てた。
「ううん、なんでもないの」
「悲鳴が聞こえたぞ」
「隣の部屋の夫婦よ。いつも喧嘩してるから」
「そうか、驚いたぜ。それで、なんの話だったっけ」
「いきなりで悪いんだけど。会うの明日じゃなくて、これからにしない?」
「これから? 今、勤務中なんだよな」
「刑事だったら、なにかと理由つけて外に出れるでしょ?」
「いや、しかし……」
「タカシくんにとっても会いたい気分なの。ねえ、わかるでしょ?」
「あ、ああ」
「お金のほうも、よろしくね」
電話を切った鈴奈は、口を歪ませてニタリと笑った。
コメント
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第10話、読ませてもらったよ…🥀 鈴奈の戸惑いと恐怖がひしひし伝わってきて、すごく引き込まれた。 特に黒崎の「すずらんの毒」の話、名前の伏線みたいでゾッとしたな…。 最後のあの“ニタリ”で、また別人格が出てきたんだって一瞬でわかって背筋が凍ったよ。 展開が重なるほど謎が深まってて、次が本当に気になる…!