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優奈
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テーマ:女嫌いの香坂と男嫌いの女がいかにして信頼関係を築いたのか
・ネームあり/個性あり/暴力あり
・なろう系みたいな導入から始まります ダメな人は読まないでね
「何があったのかお聞きしても?」
「オレ悪くないけど」
「良い悪いではなくてね」
「オレ悪くないけど」
「どうしてこうなっちゃったのか、お話できますか?」
「オレのこと悪者にしたいならそれでもいいよ。どうでもいい。好きにすれば?黙る前に方法だけ教えてくれ。お前に頭下げればいいの?それとも金?何か仕事すればいいのか?」
「ウーン困った。会話にならないな」
香坂は困っていた。
理由はこの部屋を見れば分かる。
壁紙は破れて、木製椅子の足は粉々、テーブルの物は全部床に落ちて割れるか踏まれるかしたのか知らないが、使い物にならなくなっている。ひどいものである。
総額いくらだコレ。
安くはなかったのだが…と香坂は少し悲しくなっていた。
「困りましたねぇ…せっかくオシャレな部屋だったのに」
一言で言えば、部屋は最悪の有様だった。
最初、香坂はあら空き巣でも来たのかしらと思った。
何より部屋を最悪にしているのは、床に落ちた三人の人間だった。外傷は違えど程度はほぼ同じで、立ち上がれなくなるか意識を失うまで殴りつけられている。壁紙に飛んだ血飛沫はその過程でできたのだろう。明らかに大乱闘が起こった後だった。
この部屋で唯一無傷なのは、床で体育座りをしている人物と高い天井の照明くらいのものであった。
香坂は部屋のガラクタたちを踏まないようにして唯一、口が聞けそうな人物と膝を交えて話をしようとしているのだが…この通り。会話にならない。
「ウーン…どしよっかな…」
香坂は現実逃避に三時間前のこの部屋の様相を思い出していた。
この部屋は落ち着いた部屋だったのだ。手配をしたのは香坂だった。
まず物件を借りた。清掃を入れた後、業者に古い壁紙を品の良いくすんだクリーム色の物に張り替えさせて、イタリア製のずっと座っても腰が痛くないようなアンティーク調のウッドチェアとオシャレなテーブルをセットで買って、簡単な置き物と絵画も置いた。照明だけは元の丸電球を気に入ったのでそのままにしておいた。
時間と費用をかけて、クラシックな雰囲気の古いホテルのロビールームみたいな部屋を作ったのだ。
それが、今やこのザマである。
目線を横にやると、頭から血を流した男がウッウッと唸っている。それにこのオシャレな椅子が使われたのかな、と思うと少し寂しいのだった。
「ハァ…困ったな」
香坂は部屋の隅に目を向ける。
ソイツは部屋の惨状から逃げるように隅っこで体育座りをしていた。
不健康な細身の美男だった。ガリガリでダボッとした上着を羽織り、ギョロリとした目でどこを見ているのか分からない。不気味な容姿をしている。
まるで被害者のような態度であるが、コイツがやったのは明らかである。なぜなら膝を抱える拳に明らかな血痕とアザがあるから。人を力任せに殴るとこういう風になるのだ。
香坂は酔っ払いに事情聴取する警察みたいな気持ちでやさしく話を促していた。この手の人間は何で暴発するか分からないからだ。
「お名前言えますか?」
香坂は諦めでとりあえず名前を聞いてみたが、意外なことにこれにはマトモな回答があった。
「チィちゃん」
「チィちゃんですか…かわいいですね」
チィちゃんらしい。
チィちゃんはうん、と頷いた。荒っぽい話し方のわりに随分とかわいい名前だ。
香坂はどうしよっかな、と本気で悩んだ。3分くらい無言の時間があった。
部屋はたまにする男の呻き声と不明な音楽だけになった。レコードは置いていないが。不思議になった香坂は音源を探した。
あった。音源は床に転がっている黒いヘッドフォンだった。香坂はそれを拾い上げて付けてみた。アバのMoney,Money,Moneyだった。
「それチィちゃんの」
ヘッドフォンはチィちゃんの物だったらしい。乱闘の時に落ちたのだろう。
香坂はハァ…と海より深いため息を吐くと結果を伝えた。
「採用」
「えっ」
驚いたような顔で低い声を上げたチィちゃんに、香坂は淡々と”説明”をする。
「これ、採用面接だったんですよ。貴方以外の先に部屋にいた人たちは、みんな私が雇った人たちです。面接に来た人にわざと絡んでもらって、怖い人に絡まれた時の対応を別室から見ていました。この業界そういうことはいくらでもありますからね」
「へー…」
「貴方がボコボコにするところも見てました」
「あー…」
これは香坂の設けた採用面接であった。
いかにも怖い人を三人ほど雇って、狭い部屋にいてもらう。そこに一人だけ、本当に面接しにきた人間を入れる。
雇った三人には難癖を付けたり暴言を吐いたり。とにかく、面接に来た人間に対して非常に怖い絡み方をしてもらう。
怖いことになった時にどんな対応をするのか、天井でウィーンと回る監視カメラから香坂はずっと見ていた。
これはそういう試験だったのだが。うん。二度とやらない。
「オレそれ知らんかったし……」
チィちゃんは気まずそうな顔をして香坂から目を逸らした。イタズラがバレた犬みたいな態度である。
ションモリしたようにも見える。香坂は困ったような顔で笑うと、首にかけたヘッドフォンを外して返してやった。
「よろしくお願いしますね」
チィちゃんは試験に受かった。
香坂は握手のために手を差し出したが、チィちゃんはキョトンとしていたので、手を掴んで握らせてやる。握手を知らないらしい。
そんな人間が令和にいるのか、という話だが割といることを香坂は知っている。飯屋より娼館の方が多い国で商売をしたことがある香坂は、そんな人間を今までごまんと見てきた。
これは教育が大変そうだなと香坂は思った。
まあいい。これも長の勤めである。
香坂は日本最大のカルテル組織【裏神】。その現トップである。
やさしい微笑みの裏には凄惨極まる残虐行為がある。この程度の暴力でビビることなどない。
チィちゃんはカルテルの面接に来ていたのだった。金が無さすぎてダメ元で受けたら受かってしまった。
受かる予想を全くしていなかったので、キョトンとしているし、チィちゃんは香坂がここのトップだということも、どれだけおっかない男かということも、よく分かっていない。
「よろしくですよ。言えるかな?」
「……よろしく?」
「ウン、そう。えらいですね」
香坂はチィちゃんの手をキュッと痛くないくらいの力で握ってやる。
香坂はチィちゃんを小さい子として接していた。
ただし、非常にクレバーで暴力的である。
ずっと見ていたが、チィちゃんは初手から暴力でいった。難癖を付けられたチィちゃんは、チラッと周囲を見渡すと、まず裏拳でまだ何も言っていない男をブン殴った。
周りがその男を庇ったのを確認すると、その瞬間全員グルだと気付いた。それで詐欺か何かだと確信したのだろう。
『オレ金ないよ?』
遠巻きにされたチィちゃんは部屋の真ん中で首を傾げてこう言ったが、この時点で殴られた男は鼻を折られている。当然、話を聞いてもらえるわけもない。
そこからの展開は……まあ、ご想像の通りである。
これがここまでの出来事である。
「オレ、男嫌いだからあんま触んないで」
チィちゃんは香坂の手を振り解くと袖に仕舞った。そのまま体をギュッと固めてそっぽを向いてしまう。
仮にも採用された人間が組織のトップへ、しかも男社会暴力上等のカルテルのトップに対し、あり得ない態度だった。これを理由に、香坂がこの場でチィちゃんを再起不能になるまで痛めつけたとて理屈は通る。
だが、香坂はそれどころではなかった。
「……」
触って分かったことがある。
外観からは全く分からなかったが、チィちゃんは女の人である。
女と分からないほど大柄で、骨が太くて、声が低いのだ。老人ならともかく、ここまで性別が分からない若い女を香坂は人生で初めて見た。
香坂は跳ね除けられた右手の親指でこめかみの辺りをグリグリしたが、雇ってしまったものはしょうがない。
「マ、強けりゃいいか」
「……」
「もう採用しちゃったしな」
「……」
どう考えてもチィちゃんは普通採用されない。
だが香坂は採用した。
一番の理由は、クレバーだったから。
再起不能はやり過ぎに思えるが、これが実戦だったらと考えると正しい対応だ。判断速度、対応共にマフィアが絡まれた時の対応としては満点である。
二番目の理由は、強くて見た目が怖いから。
チィちゃんは座っていても分かるくらい体が大きいし、目つきがカタギじゃない。人殺しの目をしている。申し訳ないが普通言わなければ、とても女とバレない。チンピラを圧倒できる程度には強くて、暴力への抵抗もない。
まあこの二つ以外の全てがダメなのだが、この二つさえあれば反社は大体オーケーだ。
チィちゃんは根っからの異常者には見えない。ただ極端に教育の機会に恵まれなかったようである。
教育は後でなんとかなる。だが素質はどうにもならない。どちらも大事だが、どっちか選べと言われたら香坂は後者を選ぶ。
教育はこっちでやればいい。
「ウン、あとはこっちでなんとかします」
「……」
「立てますか?」
「ン」
「はい、ね」
「はい」
「うん、そうそう……ヨッ!と」
香坂は鋭い蹴りをチィちゃんに飛ばした。
「ハァッ!?」
ガンッ!という音と共に壁が軽く揺れる。軽い掛け声とは裏腹に、それは殺人キックである。
チィちゃんが前転回避で床に転がらなければ、香坂の踵は壁ではなくチィちゃんの腹にメリ込んだはずである。
チィちゃんは突然のガチ暴力に目を見開きながら回避の最中、床に落ちていたラクダの置物を掴むと香坂の顔目掛けてブン投げる。
こちらも当たれば大怪我間違いなしだったが、香坂はワンステップで避けた。ガシャン!とラクダの置物が完全に壊れる音がした。
どう来るかな、と香坂が出方を伺えば。
「ンだテメェ!!殺されテェのかぁ!?ぁあ゛!!?」
クライム映画のチンピラさながらの迫力満点の怒号が返ってきた。
人生で何百回とやってきたのだろう。さっきまでのボソボソダウナー喋りが、まるで嘘のようである。
「チィちゃんチィちゃん」
「あ?」
「はい、ですよ」
「あ゛ぁ!?」
「しまった、暴力がトリガータイプだったか…」
「何?お前さっきから何なの?ヤクで頭イカれてんのか?教えてくれよ、どうやったらそんな頭になれるのか。ドラッグ朝食に混ぜて食ってりゃそんなイカれ野郎になんのか!?そんなに死にてぇならいいぜ、とびきり痛く殺してやるよ、一人で首でも括っときゃ楽だったのになァ!」
チィちゃんは完全にキレてしまったようである。
軽く実力を見てやろうと思っただけなのだが、思ってた以上に凶暴だった。
元々怪しかったのに、本当に話が通じなくなってしまった。さっきまで一応会話はしていたのに。
「あの…」
「さっきからゴチャゴチャうるせぇなァ…話せば分かんだろこっちゃマトモじゃねぇんだよ!ゴミ捨て場にテメェの死体晒してやるから、こいよ!テメェのママが自分の子供って分からなくなるまでその顔潰してやるから、こいって!」
「ハァ……」
ダメだ、完全に目がキマッている。凄まじい豹変だった。
香坂はまじまじとチィちゃんを見て分析をしていた。
フム。荒っぽい人物というよりは、そうするのが早いから荒っぽい行動ができるタイプ。
社会に馴染めなくてとか、悪党に憧れてとか、そんなかわいいものではない。生まれた時からこれしか知らない。
要するに、本物の荒くれ者である。そう香坂は分析した。
この手の人間は話し合いで事態を丸く収めた経験がないので、カッとなった時話を聞かない。
それに、チィちゃんは立ち上がると本当に大きかった。
いつでも動けるように関節を曲げて獰猛に身を低くしていても、男の香坂とほぼ度程度の身長がある。
体は不健康なまでの細身でガリガリだが、反射神経が高く、土壇場でも頭が回る。試合は一度もやったことがなくとも、実戦なら何百回とあるのだろう。
強くはないが油断するとちょっと危ない相手だ。
「まったく……」
香坂は仕方なく、チィちゃんをボコボコにした。
「きゅう……」
鎮圧までジャスト30秒。
チィちゃんの背中を片足で踏みつけている香坂は汗も流していなかった。
銃は持っていたが、敢えて鎮圧には使わなかった。使うほどでもないし、実力の差を分からせるためである。
肉が薄いので数発のそこそこ重たいヒットでチィちゃんは動けなくなった。
チィちゃんがいくら強くとも、せいぜい一つの町単位の話。
香坂はワールドクラスの実力派なのである。この男を相手するなら軍事訓練くらい受けていないと話にならない。
実際香坂は幼少期からほぼ軍人みたいな訓練を受けてきたのだし。そしてこの組織はそういう男たちが他にもいる。
やっと話が通じそうなので香坂はチィちゃんに呼びかけた。
「チィちゃん」
「あ?」
香坂は天井に発砲した。
「はい、って言え」
「はい」
流石に言うことを聞いた。
よかった。これでもダメな輩も世の中には存在する。
なんとか新人教育できそうだなと香坂は胸を撫で下ろした。
「よろしい。いいですか、私がボスです。逆らったらこういう風に殴るし、裏切ったら脳天を撃ち抜きます。いいですか?」
「はい」
「私の部下はつまりあなたの上司です。えーっと、偉いんです。貴方より。その人たちにも逆らったらいけません。言うことを聞くんですよ」
「はい」
「よろしい。まあ、これくらいでいいか……」
ここまですれば、チィちゃんは一旦仕事ができるだろう。
指示の通りにできない新人が一番困るのだ。仕事にならない。
これで仕事の邪魔にはならないはずだ。細かいことは追々教えればいい。
香坂が鎮圧から新人教育を終えるまでトータル2分。
実にスピーディーで鮮やかな仕事だった。
代わりに、デカい人間二人が揉めたせいで部屋は完全に使い物にならなくなったが。まあ、これは香坂のせいである。
「今日はお疲れ様でした。連絡は後日します。あとこれとこれあげます」
「はい」
香坂はたまたまポケットに入っていた飴をチィちゃんにあげた。ミルク味のやつ。
香坂は食べないので処分兼餌付けだった。
こういう一般的なコミュニケーションすら怪しいほど荒れた環境で育った人間は、飯をくれる人間にはよく従う。
食べるかは分からない。相手は警戒心が非常に高い人間だ。
返答にも期待していない。今日は返事の仕方と上には逆らわないということだけ教えられればいい。
「ありがとう」
「えっ」
だがチィちゃんは「ありがとう」は知っていた。
香坂は驚いて初めて表情を崩した。
言い慣れてはいないのだろう。何年も言っていなかったのか、それとも言葉だけ知っていたのか、ジッと睨むように香坂を見ている。
合っているのか、反応を見ているのだ。
「合ってますよ」
こう言うとチィちゃんの表情が一気に和らいだ。
「それじゃあまた」
「はい」
以上、香坂が借りた部屋が一日で使い物にならなくなったワケ。
多分続かない
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香坂夢書きました
テラーノベル始めました
やり方合ってるか分かりません
感想コメントお待ちしてます
読んでくれてありがとうございました