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ガッチャンという音と共にドアが開く。
緊張の度が過ぎて、胸と背中当たりがひんやりと感じた。
玄関の明かりは人感センサーなのか、開けて少ししたらパッっと明かりが点いた。
玄関の明かりが外に漏れる。
「ただいまぁ〜」
と妃馬さんが1段高くなっている玄関に上がる。
「ど、どうぞ」
そう言われ
「あ、はい」
と言い僕も1段高い玄関に上がる。
「お邪魔しま〜す」
と少し照れ臭さもあり、普段よりほんの少し小さい声で言いながら玄関に入り、ドアを閉める。
僕と妃馬さん2人がいても狭くない
ただ3人入ると狭く感じるだろうくらいの玄関で妃馬さんが靴を脱ぎ、向きを整える。
僕も口を脱ごうとしていると
白いフローリングの廊下からトットットットットッっと足音がして
「妃馬おかえりぃ〜。あ、いらっしゃい」
と目の前にエプロンをした妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんであろう人が僕の前に現れた。
「あ、お邪魔します!」
と今度は普段よりほんの少し大きな声で
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんであろう人に挨拶する。
「あ、どうも。妃馬の母です」
やっぱりそうだった。なにか言おうとすると
リビングのほうからひょこっと顔を出した姫冬ちゃんが
「あ!暑ノ井先輩だ!いらっしゃい!」
「あ、姫冬ちゃん。お邪魔します」
と言葉を交わすと姫冬ちゃんが廊下をペタペタ歩いてきた。
「あら、姫冬も知ってるの?」
「あ、うん。サークルの先輩」
モコモコのハーフパンツにモコモコのパーカーを着ていた姫冬ちゃんが
紙パックのりんごジュースをストローでチューチュー吸っていた。
「あ、暑ノ井怜夢です」
名乗ったあ後なにか言おうと思い
「よろしくお願いします」
と何に対しての「よろしくお願いします」なのかよくわからないがそう言った。すると
「こちらこそ妃馬と姫冬をよろしくね」
と言ってくれた。
「ささ!入って入って」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが手招きしながらリビングに行く。
僕は靴を脱ぎ向きを整えて、妃馬さんと姫冬ちゃんの後に続いてリビングに入る。
リビングに入るとすぐ左手にオシャレなキッチンがあり
キッチンのカウンターにくっつけて置いてあるダイニングテーブルには
4人分のイスが入っていた。床も白いフローリングで家具も基本的に白で統一されていた。
「さっ、こっちこっち」
と姫冬ちゃんがソファーに僕を誘う。
姫冬ちゃんは僕の右腕を掴み、布製の白とクリーム色の間の色をしたソファーに引き込む。
硬くもグッっと沈むほど柔らかくもないソファーに腰を下ろす。
ソファーの右側に姫冬ちゃんが座り、右側に僕が座る。
ソファーの前に置かれているローテーブル付近にバッグを置く。
「私ちょっと部屋に荷物置いてくる」
と言い妃馬さんは廊下のほうに戻っていった。
「暑ノ井先輩暑ノ井先輩」
とこそこそっとした話し声で話しかけてくる姫冬ちゃん。
「ん?」
と姫冬ちゃんのほうに視線を変える。
「お姉ちゃんとデートだったんですか?」
と囁き声で聞かれる。飲んでいた紙パックのりんごジュースを目の前のローテーブルに置き
脚をバタバタバタつかせながら僕の返事を待っている様子だった。
「デ…」
デートじゃないと言いかけてやめる。
「デートなのかな?」
と小声で姫冬ちゃんに聞く。
「どうなんでしょうね」
と姫冬ちゃんも小声で返してくる。姫冬ちゃんなら妃馬さんについて
詳しいはずだからなにか情報を聞けるかと思ったが無理だった。
よく考えればそれはそうだった。会って間もない男について、どうこう言わないだろうし
仮に思っていたとしても姉妹だから
家族だからとなんでもかんでも心の内を晒すとは思わない。
その人の思ってることはその人本人しか知り得ない。そんなことを思っていると
「良かったらどうぞ〜」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが僕の目の前のローテーブルに
小皿に乗せたバウムクーヘンと紅茶の入ったティーカップを置いてくれた。
「え、あ、ありがとうございます。いただきます」
と小皿に添えられたフォークを右手に、左手で小皿を持ち
バウムクーヘンにフォークを入れる。フォークを入れた部分から小皿に欠片がポロポロ落ちる。
フォークで切り分けた一欠片をフォークで刺し、口へ運ぶ。
しっとりとパサパサの間でバウムクーヘン独特の香ばしい香りが鼻から抜け
スポンジの程よい甘さが舌から喉に通過する。
小皿とフォークをローテーブルに戻し
ソーサーと呼ばれるティーカップの下に置いてある小皿からティーカップを持ち上げ
一口口に流し込む。ミルクティーの滑らかな感覚が口の中を包む。
紅茶の茶葉の香りがミルクの香りと混ざり、鼻から抜ける。
なんとなくだがミルクティーは他の紅茶と違い口に残る。そんな気がする。
一口飲み干した後もなんとなく口の中がミルクティーだった。
「あ、バウムクーヘンもミルクティーもとても美味しいです。ありがとうございます」
そう妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんに声をかける。
「そう?良かったです」
とダイニングテーブルに座る妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが応える。
すると隣で姫冬ちゃんが紙パックのりんごジュースをズズズを啜りながら
リモコンでテレビで番組表を見ていた。
番組表を閉じ立ち上がり、ダイニングテーブルのほうへ向かう。
「あ、これ私の?」
「そうそう。あ、こっちは妃馬のね」
「やったぁ〜!」
そんなやり取りが左側から聞こえる。テレビを見ながら少しずつバウムクーヘンを食べ進める。
「あ、これ私の?」
妃馬さんの声が聞こえる。
「そうそう。あ、まだ紅茶出るだろうから、飲みたかったら自分でお湯入れて飲んでね」
「ありがと」
「お姉ちゃんなに飲むー?」
「私紅茶飲むから牛乳出して」
「はーい」
「姫冬も紅茶にする?」
「んーじゃあお願い」
「はーい。あ、マグカップ出して」
「あいよー」
そんなやり取りが左側から聞こえる。
他人様の家を、ましてや女の子の実家をジロジロ見る訳にもいかないと
ずっとテレビやテレビ周辺を見ていた。しばらくして
「すいません。お待たせしました」
とソファーの右側、先程まで姫冬ちゃんが座っていたところに
妃馬さんがバウムクーヘンとフォークの乗った小皿と
湯気の出ているマグカップを持って座った。
「あ、いえ。美味しいバウムクーヘンと紅茶を楽しませてもらってました」
「美味しかったですか?」
と言いマグカップをローテーブルに置く妃馬さん。
「はい。とても」
そう言うと妃馬さんは左手に持っていた小皿から、右手でフォークを手に取り
バウムクーヘンを切り分け一欠片口に運ぶ。
「うん。うん。美味しい」
そう言った後に前傾姿勢になり、ローテーブルに置いたマグカップを手に取り
マグカップに入ったミルクティーに息を吹きかける。湯気が奥に靡く。
口を尖らせ息を吹きかける妃馬さんの横顔にドキッっとする。
「あ!席とられてる〜」
姫冬ちゃんがバウムクーヘンの乗った小皿とマグカップを持ち僕のすぐ左側に立っていた。
「ごめんねぇ〜」
と煽る妃馬さん。
「いいよーだ。2人でイチャイチャしてればいいよ」
「ちょっ、なに言ってんの!?」
焦る声の妃馬さん。姫冬ちゃんは2人のお母さんが座っている
ダイニングテーブルのほうのイスの2人のお母さんの隣りに座った。
「仲良いですね」
右側に座っている妃馬さんに言う。
「まぁ…そうですね」
少し焦ったような様子でマグカップに口をつける妃馬さん。
まだ熱いのか少しずつズズズと啜る。僕もティーカップを持ち上げ一口飲む。
マグカップと違いティーカップは入っている量が少ないためか、もうさほど熱くなかった。
「あ、そうそう!」
と思い出したかのように妃馬さんが体をこちらに向ける。
「はい」
僕も体を妃馬さんの方に向ける。
「森本デルフィンのこと」
「あぁ、そうでした。はい」
「あ、フィンちゃんのこと話したんだ」
姫冬ちゃんが入ってきた。
「今から話すの!」
「こわっ」
「すいません」
「あ、いえ」
「森本デルフィンが森野ドルフィンだってことはお話しましたよね」
「はい。聞きました」
「怜夢さんめざめのテレビでイマカラガールとして出てたって言いましたよね」
「あ、はい。「森野ドルフィン」
「森のイルカ」って綺麗な名前だなぁ〜って印象に残ってました」
「お察しのように「森野ドルフィン」は芸名です。
少しお話しましたけど、私と森本デルフィン…これからはフィンちゃんって言いますね」
そして妃馬さんは森本デルフィンさんのことを話し始めた。