それからというもの、俺たちは旦那の目を盗んで時間の赦す限り俺の部屋で蜜月の時を過ごした。
躰を重ねるだでなく、一緒に曲を作り、奏で歌った。律がピアノを弾いて俺が歌ったり、その逆だったり。
物置だと最初に嘘を教えた部屋は、本当は音楽編集するための部屋になっていることも教えた。
書きかけの歌詞、楽譜、MIDIキーボード、パソコンで曲を作ったり、ミックス(編集)やマスタリングまで出来るようになっている部屋だと案内した。
最新のデジタル編集ソフト、フルオーケストラの音源、その他、ありとあらゆるものがこの小さなノートパソコンに集約されている。律が初めて作詞作曲した『接吻』に、俺がアレンジをしてバンドオケを付けた。
ハードロックだが美しく切ないアレンジに仕上げた音が、彼女の紡ぐメロディーと重なった。
律にアレンジを直して欲しい希望箇所はないか、ヒアリングの上で細かい部分を修正した。
簡単なレコーディングも出来る設備もあるからそれを使って、律と一緒に作った歌が本物の音源になり、デモCDが完成した。
誰にも聴かせることはできない歌だけど、満足のいく作品に仕上がった。
たとえ非売品の音源だとしても曲は思い出となり、俺たちの心に残る。
律は線の細い歌声だから、あまり派手すぎるバックは彼女の繊細さを殺してしまう。しかし声に芯が強いので埋もれることなく、ロックアレンジでも聴ける、RBより抑え気味のロックアレンジくらいが丁度良くて、少々ハードさがある方が繊細な律の歌を引き立たせた。彼女が歌うことを想定したキーやアレンジを付けたけど、想像以上に彼女の歌は良かった。
アレンジャーは歌い手のことを考え、音域や歌詞もそれに合わせて考え、最高のいい歌が歌えるようにサポートをするのが仕事。俺の仕事はパーフェクトだった。
ついでにピアノだけのバックオケも作った。せっかくなので、『白い華』と『Desire』も一緒にツインヴォーカルで録音した。バックのピアノは俺好みのジャズアレンジにした。
雰囲気があって色っぽい仕上がりになった。
一番を俺が歌って二番が律。サビを一緒に歌う。
お互いを求めるように歌うと、この曲たちがより一層深みを増して鮮やかに色づいた。
離れていてもこの曲を聴くと思い出す。
彼女と過ごした蜜月の時間と想い出を。
それは本当に、夢のような時間だった。
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