新藤さんと逢瀬を重ねる日々を過ごしていたある日。セミオーダーの赤いソファーが自宅へ届いた。
今日は金曜日。週末は何かと忙しい光貴もソファーが届くので搬入のために時間を作って家にいてくれた。
最近光貴は努めて私の傍にいようとしてくれる。
もともと出歩かない人だったけれど、輪をかけて家にいるようになった。
多分私を心配しているからだと思う。
もう少し放っておいて欲しい――最低なことを考えてしまうから、早くこの婚姻生活をやめたい。ここ最近は離婚を切り出すベストタイミングを見計らってばかりだ。
そこで気が付いた。白斗も同じ気持ちだったのかな、と。
RBの活動が辛くてやめたいのに、色々なしがらみがあるから自分勝手にやめることはできない。無理した結果、電撃解散になってしまったのだろうと想像している。
未だに新藤さんからはRBの解散の真相を聞き出せていない。RBを辞め、その後大栄建設で働くことになったきっかけについても。
いつか話してくれるかな。彼の背負う、そのすべてを。
新藤さんには今度いつ逢えるのかな。逢えないと余計に愛しさが募り、無性に彼に触れたくなる。
声が聴きたい。肌を重ねたい。逢いたい――…
新藤さんに逢えない時はこっそり自分のipodに取り込んでおいたデモ音源を聴く。
『接吻』を聴くとふたりで初めて作曲して歌ったことを思い出す。『白い華』を聴けば辛くても傍で支えてくれていた博人のことを思い出す。どんな顔をしていたとしても、彼が私を傍で支え救ってくれたことを思い出し、なにより――『Desire』を聴くと、初めて彼に抱かれた夜を思い出す。
ほんとうに夢じゃなかったのだ、と。
「オーライ、オーライ、玄関入りまーす」
想い馳せていると、大きな声で我に返った。灰色のツナギに白い犬のマークが描かれた制服を着用した二十代くらいの男性が、玄関にふたりで現れた。ソファーを運んできた運送会社の青年二人が声を掛け合い、家の中へと入ってくる。
三階までソファーを運んだあと、定位置にセットしてもらった。
背面のダークグレーの壁紙に見事に調和した赤いソファー。凛とした佇まいは非常によくこの空間に映えている。
「すごく素敵!」
この家で久々に声を上げて喜んだ。
運送会社の青年ふたりに差し入れを渡し、手厚く礼を言って解散となった。
赤いソファーと同じベロア素材の赤いクッションも一緒に注文したので、ソファーの上に置かれていた。
これを買ったときはお腹に詩音がいて、光貴を愛していたつもりだったのかと思考を巡らせた。まるで遠い過去の記憶をなぞっているようで、まったく現実味がない。
詩音を失い、光貴との離婚を考え、新藤さんを愛してしまうなんて。