この作品はいかがでしたか?
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唐突に書きたくなったゴー太
現在時刻、午後十二時半
静まり返ったヨコハマの街で、満月が空を、街を照らしていた。
その光の当たらない暗い暗い路地裏は、光り輝く真っ白な満月に似ても似つかない闇のようなどす黒く赤黒い色で染められていた。
その中で唯一、天使の様に白い男が突っ立って、穢れた朱を手で拭った。
「やっと終わったや」
彼は携帯電話を何処からともなく取り出した
溝鼠が朱の上を突っ切る。
「終わったよ、ドス君」
明るい声で、子供の好む道化師の様にお気楽に言う。
「今回は遅かったですね、人が多かったんですか?」
そんな様子の白い男とは相反して、液晶画面の向こうの黒い男が、なんとも平らな声で言う、どうやら白い道化師は彼には良く思われていないそうだ。
「ハハッ!さっすが我が親友だ!僕がクイズを出す前に正解を言って見せた!」
「そうですか、ではもう帰って良いです。」
あまり貴方と話したくは無いので、と付け加えた、黒の彼はどうも詰まらなそうだった。
まるで唯一の良い遊び相手が居ない時の、子供の様。
「嗚呼、わかってるよ、今日は私も疲れちゃったからねぇ」
「ええ、ではまた」
電源を切り、光っていた液晶画面は又暗くなった、白い道化師は歩きだす。
その足取りは何処か軽い様だった
「さて、夜が明けない内に帰ってしまおう」
「愛しい彼が待ってるしね」
黒の液晶画面には、男の恍惚とした、何処か気味の悪い笑みが写っていた。
彼は歩く、何かを楽しみに家に帰る子供の様に歩く。軽い足取りで、歩く。愛しい存在を想い、歩く、歩く、歩く。
コンコンコンと、扉が彼の手とぶつかって、軽い音を鳴らす。
ガチャリ、ドアノブが回り、扉が開く。
白い男は、道化師風の衣服に良く合った、黒い靴を脱ぐ。
温かい空気が彼を包み込む。
彼はリビングの机に目をやった、椅子が二つ、窓際の椅子は愛しき彼の物、台所寄りの椅子は僕の物。
二人は何時も此処で食事をしていた。
笑い合って
白い男が彼を揶揄って
愛しき彼は拗ねた様に眉を顰め、琥珀色の目に羞恥の色を映して
まるで夫婦の様に、笑い合った。
階段を登る、二階に着く。
あちらは風呂場、こちらは洗面所。
そしてあちらは
彼のいる、愛しい彼が居る、二人だけの寝室。
白い道化師は歩くスピードを早める
扉の前に着く、ドアノブを回す。
「ただいま」
彼に、寝台の上、だらしなく寝転ぶ彼に。
嬉しそうに、疲れた様に、恍惚とした様に、笑い掛ける。
彼は反応しない、死んだ様に眠って、琥珀色の目は白い彼を映しはしない。
でも良いんだ、だって其処に居るんだから。
誰の処でも無い、僕の目の前で、警戒なんて忘れた様に眠っているんだから。
白い道化師は云う
「ねぇ、だざいくん、今日も君は綺麗だね」
白い男は云う
「屹度明日も綺麗だよね」
白い彼は問う
「だざいくんは、明日も、僕の隣で綺麗で居てくれるよね?」
白い、まるで天使の様に白い悪魔は問う
「だって君は、僕のものだもんね」
白の悪魔は、愛しい人間を抱きしめる。
冷たい、酷く冷たい身体を、温める様に。
白い悪魔は確信する
「そうだよね、そうに決まってるさ。」
白い悪魔は笑う
「君はもう僕から離れられない」
白い悪魔は嗤う
「だって君は、僕の物なんだから」
白い悪魔は思い耽る
あの時を、腕の中、永遠に眠る愛しくて堪らない人間が、自分の物になった瞬間を。
あの声を、未だ憶えている
あの肌の冷たくなる感覚を、未だ憶えている
あの恐怖の滲んだ琥珀色を、未だ憶えている
あの興奮を、未だ憶えている
「嗚呼」
嗚呼
そうさ
君は、愛しき君は
ずっと
ずっと
僕の物なんだ
君の首を僕が絞めたあの日から
君が初めて僕に恐怖を覚えたあの時から
君の鼓動が止まったあの瞬間から
ずっと
ずっと
嗚呼
美しい
腕の中腐りゆく君がこんなにも美しい
君の最後は僕だ
君の最後の記憶は僕だ
君が最後に見たのは僕だ
君を殺したのは、僕だ
嗚呼
嗚呼
まるで愛の様だ
腕の中、永遠に止まった君が
まるで愛の象徴の様だ
心が抜け、魂が抜け、何もかもが無くなって唯々無意味な美しさだけが残った肉体を、白の外套が包み込んでいた。
美しい満月は、雲に隠れて見えなくなってしまった。
コメント
1件
頑張って書いたのでコメントいっぱいください