テラーノベル
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その夜、ゾムは一人で河川敷に向かった。
誰もいない夜の風は、やけに優しくて、やけに冷たかった。
川の向こう、昔の「秘密基地」があった方角を見つめる。
「あの時のままやな……なぁ、ロボロ。ずっと言いたかってんけど……」
声が震えた。
「俺、お前に依存しすぎてたんやな……でも、それでも、俺はお前にもう一回だけ会いたかった……!」
涙がぽろぽろ落ちた。
そのまま、ゾムは川に向かって、一歩踏み出した。
⸻
──そこは、現実とは違う、曖昧な場所だった。
空が白く靄がかかって、音が何もない。
ただ、前に――誰かが立っていた。
「……ロボロ……?」
「……アホ。なんで来てんねん、お前」
ロボロはそこにいた。夢みたいに懐かしくて、夢やと思いたくないほどリアルで。
「お前……死ぬなよ。なんでそんなことしたん……」
「会いたかってん。ほんまに……もう、どうしたらええか分からへんくて……」
ロボロは目を伏せた。
そして、一歩、ゾムに近づいた。
「俺も会いたかった。……でもな、俺はお前に、こんな形で来てほしくなかった」
「……ごめん」
「ゾム、お前は生きて。シャオロンも悲しんでる。お前がおらんようなったら、ほんまに誰も笑われへん」
「でも、俺……お前がおらん世界が怖いんや」
「せやから言うたやろ。お前、俺に依存しすぎやって。俺も、正直……ちょっと嬉しかったけどな。ずっと俺のこと、忘れんといてくれて……でも、それでも、俺はお前に『ちゃんと生きてほしい』って思っとる」
ゾムは、ぽろぽろと涙を流した。
「……ロボロ」
ロボロはにかっと笑った。
「それに……お前、もう一回分の奇跡、もう使っちゃってるしな」
「え?」
「俺がロボロと出会った事。だから奇跡はもう使えないと思った。でも今お前に会えた」
「……なんやそれ、ずるいやん……」
「せやから、奇跡はもう起こらへん。けど――今のこれは、ゾム、お前の心が作った“記憶”の中の奇跡や。俺は、ずっとお前の中におる。それでええやん」
ゾムは、少しだけ笑って、うつむいた。
「……俺、ロボロのこと、ちゃんと前に進む形で……覚えとくわ」
ロボロは何も言わなかった。ただ、そっとゾムの背を押した。
「いってこい。もう大丈夫や」
⸻
窓の隙間から夕方の光が差し込んでいた。
ゆっくり視界がひらけていく。
点滴の音が、静かにリズムを刻んでいた。
気がつくと、俺は病室にいた。
酸素マスクと点滴、そして、すぐ横に――シャオロンそして、ロボロが居た。
2人とも泣きそうな顔で、いや…ロボロは泣いてたか でも、笑ってた。
ロボロとシャオロン声と合わせて言ってくれた
「……おかえり」 と。
俺は、何も言わずに泣いた。
『おかえり』その言葉だけで、全部許された気がした。
シャオロンも、ロボロも、そこにいた。
もう一度ちゃんと――生き直せる気がした。
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